第55話 風の塔 ―黒影盗団― ログアウト不可区域 PART7
──金属音。
塔の廊下に、ブーツの足音が規則的に響く。
風が閉ざされたこの空間で、それだけが生きた音だった。
フードをかぶった影が五、六。
息を潜め、中央制御室の扉へと向かう。
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「この異常気象、困りましたね。前回のテンペストなんとかで何人やられたか……」
「今回は全員無事で良かったでやんす」
短いやり取りを、低い声が断ち切った。
「無駄口はいらん」
リーダー格の男が静かに言う。
目の奥に、鋭い光を宿していた。
「俺たちは、かかった獲物を確実に狩る。それだけだ」
「さすがK-47さん。リーダーのミラモン《ハウンドスモーク》、ほんと便利ですね。テリトリーに入った獲物の匂いを逃さない」
「ふん……」
K-47は短く鼻を鳴らした。
「さあ、お前ら――黒影盗団としての仕事を見せようか。どんな獲物がかかったか、楽しみだな」
⸻
扉が、ギィ……と音を立てて開かれた。
その瞬間。
塔の中を流れていた風が、ぴたりと止まった。
さっきまで確かにあった“流れ”が消える。
――そして。
風が、逆向きに流れた。
暴風は止み、
塔の中心から低い風鳴りだけが響いている。
その静寂の中で――
視線が交錯する。
その瞬間、
塔の中の音が、すべて消えた。
風の唸りも、
装置の鼓動も、
自分たちの呼吸すら、遠い。
ただ、“見られている”という感覚だけが残る。
「リーダー、どうやら新人くさい子供たちですよ」
「……あっ! 思い出しました。始まりの町の《ブロルホーン討伐》でギルドから表彰されてた奴らです!」
「ほう」
K-47の口元に薄い笑みが浮かぶ。
「ギルド表彰者か。運がいいのか悪いのか……」
「たしかガロスが、ひとり五千ミラの賞金出してましたね」
「へえ……そりゃ、いい金づるだな」
盗賊たちの目が、一斉に獲物を見定める獣の目に変わった。
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「お前ら、待て」
K-47が手を上げた。
「黒影盗団とはいえ、子供相手に手を上げるほど落ちぶれちゃいない」
その声には、不思議な重みがあった。
静かで、恐ろしく冷たい威厳。
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「あなたたちね……“赤電のロランさん”を襲ったの?」
サクラが一歩前へ出る。
「ロラン? ああ、ノワール村に向かってた物資運搬のやつか。……それがどうした?」
K-47が淡々と答えた。
「俺たちは黒影盗団だぞ。奪う。それが仕事だ」
「俺たちをどうする気だ?」
タケルの声が震える。
「お前らはまだ新人。……まあ、見逃してやってもいい」
「いいの!? ありがとうございます!」
タケルは即座に深々とお辞儀した。
「ちょっと待て。タダでとはいかんな」
K-47の笑みが歪む。
「ガロスからもらった賞金と、有り金を全部置いていけ」
「うそ……」サクラが息をのむ。
アキラは冷静に言った。
「奴らはベテラン冒険者だ。……俺たちに選択肢はない。従おう」
「持っているミラは全部渡す。そしてテンペスト・スコールが終わったら、すぐに立ち去る。それでいいか?」
「ああ、それでいい。賢い兄ちゃんだ」
アキラは仲間を振り返る。
「タケル、サクラ。悔しいが、ここはミラを渡そう」
「くぅ……」タケルの悔しがる声がもれた。
「っていうか、タケルお前全然持ってないだろ?」
「……あ、確かに残り七百ミラだった」
「私は二千三百」
「俺は二千七百」
「五千七百ミラ。新人にしては悪くねぇ」
手下たちが鼻で笑う。
アキラがポーチを差し出した瞬間――
ララが、震えているのに気づいた。
「ララ? どうしたんだ?」
タケルが呼びかける。
K-47の視線がゆっくりとそちらを向く。
その瞬間。
制御盤の光が、ふっと暗く落ちた。
チカ、チカ……と不規則に瞬く。
塔の風が、低く唸る。
まるで、
この場にいる“何か”を拒むように。
空気が変わる。
獣のような殺気が、静かにあたりを満たした。
「……おい、今“ララ”と言ったか」
K-47の声が低く沈む。
「青リボンのウサギ型ミラモン……そいつがいるなら話は別だ」
「なにを……」
アキラの言葉を遮るように、K-47は歩み寄る。
「そいつは俺が昔、契約していたミラモンだ。
悪いことも教えてやったが――裏切りやがった。……ずっと探していた。今度こそ、俺の奴隷契約を結ばせてもらう」
「あなたのミラモンになんて、二度となりたくない!」
ララが小さく震えながらも、はっきりと言い放った。
「ララちゃん……!」
「おい、約束違うじゃねえか!」タケルが震えながら訴える。
「俺たちは黒影盗団。ほしいものを奪う。それだけさ」
アキラが一歩前に出る。
「別のものではダメか?」
「ダメだ」
K-47の声が冷たく響く。
「お前らに選ぶ権利はない。
ミラとララを渡すか……この場で強制ログアウトになるか、決めろ」
⸻
塔の中の風が、一瞬ざわめいた。
制御盤の光がチカチカと瞬く。
まるで、塔そのものが“彼らの選択”を見ているかのように。
タケルの拳が震え、ララの耳がぴんと立つ。
サクラの指先が笛に触れ、アキラが静かに息を吸った。
――このまま黙って奪われるわけにはいかない。
嵐の夜が、再び動き出そうとしていた。




