第129話 世界決勝戦・開幕
巨大な扉が開く。
――その瞬間。
熱気。
歓声。
光。
全部が、一気に押し寄せてきた。
「うわっ……!」
タケルは思わず目を見開く。
巨大スタジアム。
何万人いるのか分からない観客席。
空中には、無数のホログラム画面。
中央には、巨大な円形バトルフィールド。
しかも。
一つじゃない。
上下に分かれた複数のフィールドが、まるで浮いているみたいに展開されていた。
「すご……」
サクラが呆然と呟く。
アキラは、完全に目が据わっていた。
「立体型多重フィールド……」
「最新型を生で見るのは、初めてだ」
「アキラ、目怖いって」
その時。
会場全体に、爆音みたいなBGMが響いた。
『イェェェェェイ!!』
観客が揺れる。
『世界中のモンマスども!!』
『待たせたなァァァ!!』
巨大スクリーン。
そこへ、炎のエフェクトと共に男が映る。
サングラス。
派手なジャケット。
マイクを握った男。
『実況はもちろんこの俺!!』
『DJブレイズだァァァ!!』
歓声が爆発した。
「うおおおおお!!」
「ブレイズーー!!」
「世界決勝だァァ!!」
タケルの胸も、自然と熱くなる。
すると。
隣のスクリーンに、もう一人の人物が映った。
落ち着いたスーツ姿の女性。
青い髪を後ろで束ね、タブレットを持っている。
『そして解説は私』
『DJフレアがお送りします』
ブレイズが笑う。
『来たぜフレアァ!!』
『今日は燃えるぞォォ!!』
『落ち着いてください』
『まだ選手紹介です』
「ははっ」
サクラが笑った。
「この二人、なんかいいね」
アキラも頷く。
「役割分担が完璧だな」
その時。
巨大スクリーンに、文字が映し出された。
【WORLD FINAL TOURNAMENT】
【準決勝】
会場の空気が変わる。
ブレイズが叫ぶ。
『まずは日本代表!!』
『超高速カードバトルの申し子!!』
『迅雷のカードマスター!!』
『雷堂ジンだァァァァ!!』
――ドンッ!!
雷のエフェクト。
フィールドへ、一人の青年が降り立つ。
黒いコート。
鋭い目。
腕には、スマートウォッチ型のモンマス。
その姿だけで、空気がぴんと張りつめる。
「……」
タケルは息を呑む。
速そう。
立ってるだけなのに、そんな感じがした。
観客席から歓声。
「ジンーー!!」
「日本最強!!」
「勝てぇぇぇ!!」
ジンは、歓声にも動じない。
静かにフィールド中央へ歩く。
フレアが解説する。
『雷堂ジン選手』
『現在、日本ランキング一位』
『最大の特徴は、異常なカード回転率』
『通常の二倍以上の速度でカードを扱います』
ブレイズが笑う。
『つまり速ぇぇぇってことだ!!』
『雑ですね』
タケルは、思わず自分のモンマスを見た。
「カード……」
「そんなに差が出るのか」
アキラが小さく呟く。
「見ろ」
「展開前から、もう指が動いてる」
タケルが見る。
ジンは、腕のモンマスに指を添えていた。
ほんの少し。
ほんの少しだけ、指先が動いている。
まるで、剣士が柄に手を置くみたいに。
そして。
スクリーンが切り替わる。
『対するはァァァ!!』
『ルーベリア王国代表!!』
『白銀の指揮者!!』
『エルシア・ルーベルだァァァ!!』
今度は、白銀の光。
静かな拍手が広がる。
フィールドへ現れたのは、銀髪の少女だった。
長い白銀の髪。
青い瞳。
まるで貴族みたいな服。
けれど。
その目だけは、異様に冷静だった。
「女の子……?」
サクラが驚く。
フレアが説明する。
『エルシア選手は、複数ミラモンの同時指揮を得意とする選手です』
『特に、“同期制御”の精度は世界最高峰』
ブレイズが叫ぶ。
『つまり息ぴったりってことだァァァ!!』
『それは間違ってません』
タケルは、エルシアを見る。
静かだ。
でも。
なんか強い。
理由は分からない。
けれど、ルーと同じだった。
“強いやつ”って、なんとなく分かる。
ブレイズが叫ぶ。
『準決勝!!』
『世界最高峰の戦い!!』
『開幕だァァァァ!!』
――ピッ。
【BATTLE START】
次の瞬間。
ジンが動いた。
「アクセス・オープン」
腕のモンマスが二重に光る。
片側にはステータス画面。
もう片側には、バインダー型のカードページ。
召喚とカード。
その両方を、最初から同時に開いている。
光のページが、空中でめくれる。
その展開が、速い。
タケルが息を呑むより早く、ジンはもう声を放っていた。
「アクセス――雷牙狼!」
黒雷が弾ける。
雷をまとった狼型ミラモンが、フィールドを駆け出した。
さらに。
「アクセス――サンダーファルコン!」
空中に、雷をまとった隼型ミラモンが現れる。
タケルの目が開く。
「二体召喚!」
「速っ……!」
だが。
ジンはもう、次の動きに入っていた。
「カードセット――《サンダーチェイン》」
バインダー型の光ページから、雷のカードが輝く。
雷牙狼の周囲に、雷の鎖が走る。
サンダーファルコンが空から急降下。
その雷を、さらに加速させる。
その瞬間。
ジンの指が、もう次のページをめくっていた。
「カードセット――《雷鳴歩》」
雷牙狼の足元に、青白い雷の道が走る。
一歩。
二歩。
踏み込むたびに、位置がずれる。
速いのではなく、視界から消える。
「え……?」
タケルの目が追いつかない。
サンダーファルコンが上空で鳴いた。
雷牙狼の影が、一瞬で三つに分かれる。
ブレイズが叫ぶ。
『出たァァァ!!』
『雷堂ジンのカード連鎖!!』
『一枚で終わらねぇ! 二枚目がもう走ってるゥゥ!!』
フレアが冷静に続ける。
『召喚、補助、移動強化』
『三つの処理を、ほぼ同時に行っています』
タケルの喉が、勝手に鳴った。
「同じ二体召喚なのに……」
「全然違う……」
ルーとモチ。
自分たちも、二体召喚はできるようになった。
でも。
これは。
完成度が違う。
一体が攻める。
一体がサポートする。
さらにカードが、その動きを上書きしていく。
止まらない。
考える前に、全部繋がっている。
ブレイズが叫ぶ。
『速ぇぇぇ!!』
『雷堂ジン、開幕からフル加速だァァァ!!』
けれど。
エルシアは動じない。
静かに、腕のモンマスへ指を添える。
「アクセス・オープン」
白銀の光。
片側にステータス。
片側に、白銀のカードページ。
そして。
「アクセス――シルバード」
白銀の鳥。
「アクセス――ルナフォックス」
白い狐。
二体が、静かに現れた。
それぞれが、自然に距離を取る。
『……来ましたね』
フレアが小さく呟く。
『エルシア選手の同期制御です』
次の瞬間。
二体が、同時に動いた。
「えっ」
タケルの声が漏れる。
速いわけじゃない。
派手でもない。
なのに。
全部が、噛み合っていた。
シルバードが誘導。
ルナフォックスが、雷牙狼の進路だけを塞ぐ。
ジンの雷が、ほんの少しだけズレる。
そこへ。
エルシアが一枚、静かにカードを切る。
「カードセット――《白銀律動》」
銀色の蝶のような光が、二体のミラモンをつないだ。
空気が変わった。
シルバードが羽ばたく。
その羽音に合わせて、ルナフォックスが一歩だけ前に出る。
一歩だけ。
それだけで、雷牙狼の進路が消えた。
「……なんで?」
タケルが呟く。
派手な爆発も、大きな攻撃もない。
けれど、ジンの速さが、静かに封じられていく。
フレアが説明する。
『波長同期』
『ミラモン同士の呼吸を乱さず、行動を重ねています』
ブレイズが叫ぶ。
『つまり、めちゃくちゃ息ぴったりってことだァァァ!!』
「……すげぇ」
タケルが呟く。
その時だった。
――ジジッ。
ほんの一瞬。
フィールドの光が揺れた。
エルシアのルナフォックスが、ぴくっと空を見る。
雷牙狼も、一瞬だけ動きを止めた。
「……?」
タケルの胸が、ざわっとした。
なんか。
嫌な感じ。
けれど。
次の瞬間には、何事もなかったみたいに戦いが再開される。
観客は気づいていない。
ブレイズも、盛り上げ続けている。
だが。
フレアだけが、わずかに眉をひそめていた。
『……今の波』
『少し乱れましたね』
アキラが反応する。
「波……?」
サクラが首を傾げる。
「今、なんかあった?」
タケルは、フィールドを見つめたまま呟く。
「……分かんない」
「でも、なんか嫌な感じした」
そして。
フィールドでは。
世界最高峰の戦いが、さらに加速していく――。




