第125話 モチの気持ち
隠し通路の奥。
コミック団の脱出装置は、
ガタガタと音を立てながら暴走していた。
「止まらないっすぅぅ!」
ゴロウが叫ぶ。
「左! 左よ!」
マリナも叫ぶ。
「どっちが左だモン!?」
ピッコルが叫ぶ。
「作ったのお前だろ!」
「作ったけど、操縦は別問題だモン!」
装置は、壁にぶつかりながら進む。
――ガン!
――ゴン!
「ぷるっ!?」
透明ケースの中で、
モチが大きく揺れた。
ケースに、細いヒビが入る。
「あっ」
ゴロウが青ざめる。
「ケース、ひび入ったっす!」
「なんでよ!」
「壁にぶつかったからだモン」
「それは見れば分かるのよ!」
次の瞬間。
――ドガァン!!
装置が大きく跳ねた。
その反動で、
ケースが固定具から外れる。
「しまったっす!」
ケースが床を滑り、
壁にぶつかった。
――パリン。
透明ケースが割れた。
網もゆるみ、
モチが外へ転がり出る。
ぷる……。
モチは、ふらふらと揺れた。
逃げるわけでもない。
ただ、
そこにいた。
その時。
煙の向こうから、
足音が近づく。
「モチ!」
タケルの声だった。
モチが、びくっと揺れる。
タケルがいた。
サクラも、アキラも追いついている。
モチは一瞬、
タケルの方へ跳ねかけた。
ぷる……!
けれど。
途中で止まった。
小さく揺れて、
その場に戻る。
タケルの胸が、ぎゅっと痛んだ。
「モチ……」
マリナが、割れたケースを見て舌打ちする。
「まだ終わってないわよ!」
ピッコルが、帽子を押さえて飛び跳ねる。
「緊急作戦だモン!」
「幻ランク回収、第二段階だモン!」
ゴロウが拳を握る。
「と、とりあえず突撃っす!」
「雑すぎるだろ!」
タケルが叫ぶ。
ゴロウが突っ込んでくる。
「どけっす!」
「どかない!」
タケルはモンマスを掲げた。
「アクセス! ルー!」
光が弾ける。
黒い耳がぴんと立ち、
ルーが飛び出した。
「ワフ!」
ルーは、すぐにモチの前へ立った。
タケルは、ルーを見た。
「ルー」
「一緒に、モチを助けるぞ!」
「ワフ!」
ルーが力強く吠える。
モチが、小さく揺れた。
ぷる……?
タケルはモチを見る。
「モチ」
「無理しなくていい」
一拍。
「でも、できるなら」
「力を貸してくれ」
モチは、すぐには動かなかった。
けれど。
ゴロウが突っ込む。
「うおおお!」
ルーが横へ走る。
速い。
だが、ゴロウも体が大きい。
真正面からぶつかれば、
弾かれる。
その時。
モチが、ぷるんと揺れた。
――ピコン。
タケルのモンマスが反応する。
【簡易解析】
【対象:ゴロウ】
【足元注意】
「足元……?」
タケルの目が、床へ走る。
ゴロウの足元。
さっきの脱出装置からこぼれた、
ぺたぺた吸着ボムの残りが広がっている。
「ルー!」
「右へ誘導!」
ルーが、すぐに動く。
「ワフ!」
ゴロウの前を横切る。
「こっちっすか!?」
ゴロウが方向を変えた瞬間。
――ぺたっ。
足が床にくっついた。
「うわあああ!?」
「足が動かないっす!」
サクラが思わず笑う。
「自分たちの道具に引っかかった!」
アキラも頷く。
「戻ったな」
「うん」
サクラが小さく笑う。
「モチとタケルの形」
タケルは、モチを見た。
「ありがとう、モチ!」
モチは、ほんの少しだけ揺れた。
ぷる……。
まだ、いつもの返事ではない。
でも。
確かに、力を貸してくれた。
「ピッコル!」
マリナが叫ぶ。
「何か出しなさい!」
「任せるモン!」
ピッコルは帽子の中へ手を突っ込む。
「コミック団特製」
「スーパー網二号!」
取り出したのは、
さっきより少しだけ大きい網だった。
「ただの網だろ!」
タケルが叫ぶ。
「違うモン!」
ピッコルは胸を張る。
「二号だから、気持ち大きいモン!」
「性能じゃなくてサイズ!」
ピッコルが網を投げる。
ルーがかわす。
だが、網は壁にぶつかって跳ね返り、
ピッコル自身にかかった。
「モン!?」
「何やってるのよ!」
マリナが叫ぶ。
その隙に、
ルーが床を蹴る。
「ルー!」
タケルの声に合わせて、
ルーが風のように駆けた。
モチが、ぷるんと跳ねる。
――ピコン。
【簡易解析】
【進行方向:左】
「ルー、左!」
ルーが左へ回り込む。
ゴロウが吸着ボムに足を取られたまま、
バランスを崩す。
ピッコルは網でもがいている。
マリナが、思わず後ずさる。
「ちょっと!」
「なんで急に息が合ってるのよ!」
タケルは、まっすぐ前を見る。
「今度は」
「ちゃんと見てるからだ!」
その言葉に、
モチが小さく震えた。
ルーが最後に床を蹴る。
ゴロウの足元をすり抜け、
ピッコルの網を引っかける。
「わ、わわっ!」
網がほどけ、
そのままゴロウに絡まった。
「姐さぁぁん!」
ゴロウが倒れ込む。
――どすん!
床が揺れる。
マリナは、両手を上げた。
「……撤退!」
「早いっす!」
「潔いモン!」
「潔いんじゃなくて、負けてるのよ!」
マリナが、奥に転がっていた脱出装置の残骸を指さす。
「ピッコル!」
「予備装置!」
「あるモン!」
ピッコルは帽子の中から、
小さなボタンを取り出した。
「コミック団特製」
「緊急ぽーん装置!」
「名前が不安だな」
アキラが呟く。
ピッコルがボタンを押す。
――ポーン!
床からバネのようなものが飛び出し、
マリナ、ゴロウ、ピッコルをまとめて跳ね上げた。
「覚えてなさい!」
マリナが叫ぶ。
「次は地図Sももらうっす!」
ゴロウも叫ぶ。
「コミック団は不滅だモーン!」
ピッコルが叫ぶ。
三人は天井近くまで飛び上がり、
開いていた排気口へ吸い込まれていく。
――ドカァン!
遠くで爆発音がした。
サクラが、ぽつりと言う。
「毎回爆発してない?」
アキラは冷静に答えた。
「たぶん、あいつらの決まりなんだろ」
倉庫の中に、
静けさが戻った。
煙がゆっくり晴れていく。
残ったのは、タケルたちと――
モチ。
タケルは、ゆっくり近づいた。
モチは逃げない。
でも、
すぐには寄ってこない。
ぷる……。
タケルは、その場で足を止めた。
無理に近づかない。
しゃがんで、
目線を合わせる。
「……ごめん」
短い言葉だった。
言い訳はしなかった。
「ルーだったら、とか」
「なんで行かなかったんだ、とか」
タケルは唇を噛んだ。
「ひどいこと言った」
モチは、静かに揺れている。
「俺」
「モチのこと、見てなかった」
少し間。
「数字ばっか見て」
「勝つことばっか考えて」
タケルの声が震える。
「モチが考えてくれてたのに」
「俺、分かってなかった」
モチが、ほんの少しだけ前へ揺れた。
でも、
止まる。
まだ、迷っている。
タケルは小さく息を吸った。
「怒ってていい」
「すぐ許してくれなくてもいい」
一拍。
「でも」
タケルは、まっすぐモチを見る。
「もう一回」
「一緒にやりたい」
モチは、何も言わない。
ぷる……。
少しだけ、前へ。
止まる。
また、少し前へ。
サクラは黙って見守っていた。
アキラも、何も言わない。
ルーも、静かに座っていた。
モチが、
ゆっくりタケルの前まで来る。
タケルの手の前で止まる。
ぷるん。
小さく跳ねた。
――ピコン。
モンマスが光る。
【契約申請】
【対象:モチ】
タケルの目が大きく開く。
「モチ……」
指が震える。
それでも、
タケルは画面に触れた。
――ピコン。
【再契約完了】
【ミラモン:モチ】
【契約状態:回復】
タケルの目に、涙が浮かんだ。
「ありがとう……」
モチが、ぷるんと跳ねた。
今度は、
いつもの返事だった。
サクラが、そっと息を吐く。
「よかった……」
アキラも、小さく頷く。
ルーが、モチの横に並ぶ。
「ワフ」
モチが、ぷるんと返す。
タケルは、二匹を見た。
ルーは、代わりじゃない。
モチも、足りない相棒じゃない。
どちらも。
ちゃんと、
自分の相棒だった。
タケルは、モチに手を伸ばす。
モチは逃げなかった。
その手に、そっと触れる。
ぷるん。
その小さな弾力が、
胸の奥まで届いた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
モチ、おかえり。
「ぷるん!」
タケルとモチの再出発を少しでも応援したいと思っていただけたら、
ぜひブックマークや評価で背中を押してもらえると嬉しいです。
ここから、また二匹の相棒と一緒に進んでいきます。
この先もぜひ、一緒に冒険してください!




