第124話 コミック団、参上!
南区旧倉庫街。
古い倉庫が、ずらりと並んでいた。
人通りは少ない。
風が吹くたび、
錆びた看板がぎい、と揺れる。
「うわ……」
サクラが小さく言う。
「絶対、悪い人がいる場所じゃない」
「かもな」
アキラが低く返す。
「こういう場所だから、隠れるには向いてる」
タケルは、紙を握りしめたまま前を見る。
【コミック団 搬送メモ】
南区旧倉庫街・七番倉庫
「七番倉庫……」
奥にある古い倉庫。
その扉の向こうから、
かすかに声が聞こえた。
「……モチ」
タケルは、走り出した。
「待って、タケル!」
サクラも慌てて追う。
アキラは周囲を確認してから、
静かに後を追った。
⸻
七番倉庫。
その中。
モチは透明ケースの中で、
小さく丸くなっていた。
ぷる……。
元気のない声。
その前で、マリナが腕を組んでいる。
「さて」
「どうやって運ぶかね」
ゴロウが手を挙げる。
「姐さん!」
「俺が持つっす!」
マリナは即答した。
「却下」
「早いっす!」
ピッコルが帽子を押さえて言う。
「ゴロウに持たせたら、次は川に落とすモン」
「落とさないっす!」
「たぶん!」
「たぶん、が一番怖いのよ」
その時だった。
――ガン!
倉庫の扉が勢いよく開く。
「モチ!」
タケルの声が響いた。
ケースの中のモチが、びくっと揺れる。
ぷる……?
タケルがいた。
サクラも、アキラもいる。
モチは一瞬、
ケースの中で前へ跳ねかけた。
ぷる……!
でも。
途中で止まる。
小さく揺れて、
またケースの奥へ戻った。
タケルの胸が、痛んだ。
それでも、前へ出る。
「モチ」
「絶対助ける!」
その言葉に、
モチが小さく揺れた。
マリナは、にやりと笑う。
「来たわね」
「地図Sの少年」
ゴロウも胸を張った。
「やっぱり来たっす!」
「姐さんの読み通りっす!」
ピッコルがぴょんと跳ねる。
「つまり、作戦成功だモン!」
タケルが眉をひそめる。
「作戦?」
マリナが指を鳴らす。
パチン。
すると、倉庫の奥から煙が上がった。
もくもく。
さらに、なぜか小さなスポットライトが三つ灯る。
「……え?」
サクラが目を丸くする。
煙の中から、
マリナ、ゴロウ、ピッコルが並んで出てきた。
マリナが腕を広げる。
「世界のお宝、いただきます!」
ゴロウが拳を突き上げる。
「でっかい夢と、でっかい飯を追いかけるっす!」
ピッコルがくるりと回る。
「小さな体に、大きな野望だモン!」
三人が同時にポーズを決めた。
「泣く子も笑う!」
「笑う子もさらに笑う!」
「我ら――コミック団、参上!!」
――バァーン!
なぜか背後で小さな花火が弾けた。
静寂。
タケルは、ぽかんとする。
サクラがぼそっと言った。
「……ちょっとだけ完成度高いの、腹立つ」
アキラも冷静に言う。
「無駄に練習してるな」
「無駄じゃないわよ!」
マリナが怒る。
「これ、毎朝練習してるんだから!」
「してるんだ……」
タケルは思わず突っ込んだ。
だが、すぐに表情を戻す。
「ふざけてる場合じゃない」
「モチを返せ」
マリナは、透明ケースの上に手を置いた。
「返してほしいなら、交換条件よ」
「交換条件?」
「そう」
マリナは笑う。
「地図Sを渡しなさい」
タケルの腰にある地図が、きらりと光る。
サクラが前に出る。
「そんなの渡すわけないでしょ!」
ゴロウが、びくっと肩を震わせた。
「で、でも姐さん……」
「前の呪い、めちゃくちゃ怖かったっすよ!?」
「ミラリア体操だモン」
ピッコルが真顔で頷く。
「精神ダメージが大きかったモン」
「お前ら見てただけだろ!!」
タケルが叫ぶ。
ピッコルが胸を張る。
「だから今回は対策済みだモン!」
「対策?」
ピッコルは帽子の中から、
ごちゃごちゃしたゴーグルを取り出した。
「コミック団特製!」
「地図S呪い感知ゴーグルだモン!」
アキラが目を細める。
「……ただのゴーグルに見えるが」
「違うモン!」
ピッコルが怒る。
「これをかければ、危険な気配が分かるモン!」
ゴロウが感動した顔になる。
「すげぇっす!」
「ピッコル、天才っす!」
ピッコルはゴーグルを装着した。
「見える……見えるモン……!」
一拍。
「何も見えないモン」
「ダメじゃねぇか!」
タケルが叫ぶ。
マリナが頭を抱えた。
「ピッコル!」
「今それ言わなくていいのよ!」
「正直者だモン」
「そこは黙るの!」
倉庫の空気が、ぐちゃぐちゃになる。
その隙に。
アキラが小さく言った。
「タケル」
「ケースを壊せばいい」
タケルが頷く。
「わかった」
タケルは一気に駆け出した。
「モチ!」
「させないっす!」
ゴロウが立ちはだかる。
大きな体で、道をふさぐ。
「どけ!」
「どかないっす!」
「姐さんのご飯がかかってるっす!」
「理由が情けない!」
タケルが横へ回ろうとする。
だが、ゴロウは意外と速い。
「こっちっす!」
「くっ……!」
その横で、サクラが叫ぶ。
「アキラ!」
「ああ」
アキラがモンマスを掲げる。
「アクセス! クロウルガー!」
黒い影が走る。
クロウルガーが床を蹴り、
ゴロウの足元をかすめる。
「うおっ!?」
ゴロウがバランスを崩す。
その隙に、タケルがケースへ近づく。
モチが、ケースの中からタケルを見る。
ぷる……。
その目は、まだ迷っていた。
タケルは息を詰まらせる。
「モチ」
「ごめん」
声は小さかった。
けれど、確かに届いた。
「でも今は」
「まず助ける!」
タケルがケースに手を伸ばす。
その瞬間。
「甘いモン!」
ピッコルが飛び出した。
「コミック団特製」
「ぺたぺた吸着ボム!」
小さな玉が床に落ちる。
――ぺたっ!
タケルの足が床にくっついた。
「うわっ!?」
「足が動かねぇ!」
ピッコルが得意げに笑う。
「逃げ足封じだモン!」
「ゴロウ専用に作ったけど、今回は役に立ったモン!」
ゴロウが泣きそうな顔をする。
「俺専用って何すか!?」
サクラが手を叩く。
「リリーフェア!」
光の羽音。
リリーフェアが舞い、
タケルの足元を照らす。
ぺたぺたした光がゆるんでいく。
「ありがとう、リリー!」
タケルは足を引き抜いた。
「よし!」
だが、その時。
マリナがケースを抱えた。
「準備ができたみたいね」
倉庫の奥。
大きな布をかぶせられた装置があった。
マリナが布を引く。
そこに現れたのは――
古びた板に、妙な羽と車輪がついた何か。
タケルが目を丸くする。
「なんだよ、それ」
ピッコルが胸を張った。
「コミック団特製!」
「ミラリア脱出装置だモン!」
アキラが静かに言う。
「脱出装置というより」
「失敗作に見える」
「失礼だモン!」
ピッコルが叫ぶ。
「試運転は三回中、一回だけ成功してるモン!」
「成功率低すぎるだろ!」
マリナはケースを装置に固定する。
モチが中で揺れる。
ぷる……!
タケルの顔色が変わる。
「やめろ!」
「モチを乗せるな!」
マリナは笑う。
「だったら、地図Sを持って追ってきなさい」
「幻ランクちゃんは、しばらく預かるわ」
タケルは一歩踏み出す。
「待て!」
しかし。
ピッコルがレバーを引いた。
「発進だモン!」
――ボンッ!
装置から大量の煙が噴き出す。
「げほっ!」
「見えない!」
サクラが咳き込む。
アキラが叫ぶ。
「タケル、前!」
煙の中。
装置がガタガタと動き出す。
いや。
動くというより、
暴れている。
「姐さん!」
ゴロウが慌てる。
「これ、まっすぐ進んでないっす!」
「操縦しなさい!」
「ハンドルがないっす!」
「なんで作ったのよ!」
「ピッコル設計だモン!」
「誇るな!」
ギャーギャー叫びながら、
コミック団は倉庫の奥へ突っ込んでいく。
奥の壁が、ぱかっと開いた。
隠し通路。
「隠し出口か!」
アキラが走る。
タケルも煙を抜けて追いかけた。
「モチ!」
ケースの中。
モチが、タケルの方を見た。
ぷる……。
タケルは、手を伸ばす。
届かない。
けれど叫んだ。
「絶対助けるから!」
「待ってろ、モチ!」
モチの体が、小さく震えた。
その直後。
コミック団の脱出装置は、
ガタガタと音を立てながら、
隠し通路の奥へ消えていった。
隠し通路の奥から、
コミック団の声だけが響く。
「止まれぇぇぇ!」
「止まってないっすぅぅ!」
「ブレーキどこだモンーー!?」
――ドゴォン!!
遠くで爆発音が響いた。
サクラが、目をぱちぱちさせる。
「……なんか、すごい音したけど」
アキラが、静かに言う。
「……遠くには行けてないな」
タケルは、拳を握った。
「追う」
サクラが頷く。
「うん!」
アキラも、通路の奥を見る。
「あの装置なら」
「遠くまでは行けないはずだ」
タケルは、まっすぐ前を見た。
今度は、待たない。
今度は、見失わない。
モチを取り戻すために。
タケルは、隠し通路へ飛び込んだ。
【モンマスメモ】
コミック団、久々の登場。
初登場は、
第11話「ガチャと奪還」。
あの時は地図S狙い。
今回は――
モチ狙いです。




