第122話 モチを探して
「モチ!」
タケルの声が、中央都市近くの草原に響いた。
返事はない。
「モチー!」
サクラも呼ぶ。
アキラは、周囲を見渡しながら言った。
「最後に見たのは、この辺りだ」
「三日経ってる。遠くに行ってる可能性もある」
少し間を置いて。
「でも、まずはここから探すしかない」
タケルは唇を噛む。
「くそ……」
「どこ行ったんだよ」
近くを通った商人に聞いても。
「小さいスライム? いや、見てないな」
道具屋の店員に聞いても。
「ぷるぷるした子? うーん、今日は見てないですね」
手がかりは、ほとんどなかった。
その時、通りすがりの冒険者二人が立ち止まった。
「スライム?」
一人が鼻で笑う。
「どれも一緒じゃん。その辺歩いてたら、普通にいるだろ」
「スライム探すとか、変わったやつ」
タケルは、その冒険者を見た。
「スライムだけど」
「モチは、モチだ」
冒険者は、少しだけ目を丸くした。
もう一人が肩をすくめる。
「こいつ変だよ」
「行こうぜ」
二人は笑いながら去っていく。
タケルは、何も言い返さなかった。
ただ、拳を握った。
「……モチは」
「その辺のスライムじゃない」
サクラは、そんなタケルを見て、
少しだけ表情を緩めた。
けれど。
モチの姿は、どこにもなかった。
⸻
その頃。
中央都市の外れ。
草原へ続く石壁の陰で、
三つの影が、こそこそと集まっていた。
「どうするのよ!」
腕を組んだマリナが、声をひそめながら怒っている。
「今月も成果ゼロなら、ボスに何言われるか分からないわよ!」
「これも全部、ゴロウのせいだモン」
ピッコルが頬をふくらませる。
「す、すみません姐さん……!」
ゴロウは、大きな体を縮こまらせた。
「でも! 今回は本当に見たっす!」
マリナが目を細める。
「またその話?」
「本当っす!」
ゴロウは必死に頷く。
「テレビでやってたんすよ!」
「“グランディア中央学院推薦入試に迫る!”って特集で!」
ピッコルが、ぴょんと跳ねる。
「あの変な少年だモン?」
「それっす!」
ゴロウは力強く頷いた。
「中央アリーナで、土下座バンザイしてた少年っす!」
マリナが、少しだけ黙る。
「……それは、目立つわね」
「しかも、前に地図Sを持ってた、あのタケルって少年っす!」
マリナの眉が、ぴくりと動いた。
「地図S……」
ピッコルも、にやりと笑う。
「それだけじゃないモン」
「あいつのスライム、幻ランクだったモン」
「そう」
マリナが口元を吊り上げる。
「地図Sに、幻ランクのスライム……」
一拍。
「まとめて手に入れたら、ボスも黙るわね」
ゴロウが拳を握る。
「姐さん!」
「今度こそ、出世っす!」
「その前に見つけなさいよ」
マリナが冷たく言う。
「中央都市、広すぎるのよ」
「そ、それはこれから……」
「これからじゃないわよ!」
その時。
ピッコルが、ぴょんと跳ねた。
「おい、二人とも」
「あそこ見るモン」
「なによ」
マリナが振り返る。
「トイレなら勝手に――」
言いかけて、止まった。
草むらの向こう。
小さな白い影が、ぽつんと揺れていた。
ぷるん。
一匹だけで、静かに歩いている。
ゴロウが目を見開く。
「あれ……」
「タケルのスライムじゃないっすか?」
ピッコルは、腕を組む。
「待つモン」
「スライムはどれも似てるモン」
「ゴロウの早とちりかもしれないモン」
ゴロウは、なぜか自信満々に胸を張った。
「いや、あれっす」
「俺には分かるっす」
マリナが白い目で見る。
「なんでそこで自信あるのよ」
ピッコルが、帽子のつばをくいっと上げた。
「仕方ないモン」
「ピッコルセンサー、起動だモン」
――ピッピピ。
ピッコルの目の前に、小さな表示が浮かぶ。
【お探しミラモン一致率:99.8%】
ピッコルの口元が、にやりと上がった。
「幻ランク……」
「ひとりぼっちだモン」
マリナの目が、鋭く光った。
「ゴロウ」
「へ、へい!」
「捕まえてきなさい」
「えっ、でも……」
マリナは、にっこり笑った。
「ご飯抜きがいい?」
「行ってくるっす!」
ゴロウが飛び出した。
モチが、気づく。
ぷる?
小さく跳ねて逃げようとした瞬間。
「今だモン!」
ピッコルが投げた網が、
空から落ちた。
ばさっ。
「ぷるっ!?」
モチの声が、
草原に小さく響いた。




