第120話 届かなかった先
――ピッ。
戦闘フィールドの光が、再び強くなる。
タケルの前に、表示が浮かんだ。
【次戦闘準備完了】
【5戦目】
連続勝利:4
同調率:48%
「あと少し……!」
タケルは、思わず拳を握った。
条件②は達成している。
連続勝利も、ここまで積み上げた。
あとは、届くだけ。
そう思っていた。
隣で、モチがぷるんと揺れる。
少しだけ、動きが重い。
でも、タケルはそこを深く見なかった。
「モチ」
「次、勝つぞ」
ぷるん。
モチは、返事をするように前へ出た。
――ピッ。
【対戦フィールド:展開】
【対象ランク:D】
地面が、静かに光る。
その中央に、鏡のような丸い殻を持つミラモンが現れた。
【ミラモン:シェルミラー】
【ランク:D】
【特性:反射殻】
丸い体。
銀色の殻。
動きは遅い。
けれど、その殻は、こちらの姿をぼんやり映していた。
「反射系か……」
アキラが低く呟く。
サクラも少し不安そうに見る。
「モチ、大丈夫かな」
「大丈夫だ」
タケルは即答した。
「三戦目で戦った相手と、同じタイプだ」
「モチは、あれにも勝った」
モチが、ぷるんと揺れる。
「これならいける」
「ここを勝ちきったら、レベル5になれる」
タケルは、モチを見る。
「やるぞ、モチ」
ぷるん。
モチは、返事をするように前へ出た。
――ピッ。
【BATTLE START】
「行け、モチ!」
モチが跳ねた。
――どん。
体当たり。
だが、シェルミラーの殻が淡く光る。
次の瞬間。
――ばちん。
衝撃が、跳ね返った。
モチの体が、大きく歪む。
「また反射か……!」
タケルが歯を食いしばる。
だが、モチは倒れない。
ぷるぷると形を戻し、
もう一度、前へ出る。
「そうだ」
「そのまま削れ!」
モチは頑張った。
何度もぶつかり、
何度も弾かれた。
押す。
戻される。
また押す。
少しずつ、シェルミラーの体勢が崩れていく。
「いける……!」
タケルの目が、画面へ走る。
――ピッ。
同調率:48% → 48%
「……っ」
上がらない。
勝てそうなのに。
押せているのに。
あと少しなのに。
数字は、動かなかった。
「もっとだ」
タケルの声が、少し強くなる。
「モチ、もっと押せ!」
モチが、ぷるんと震えた。
それでも、前へ出る。
シェルミラーの殻が光る。
――ばちん!
モチの体が、また大きく揺れる。
「まだいける!」
「押せ!」
モチは、もう一度跳ぼうとした。
その瞬間。
シェルミラーの殻が、また光る。
「まずい」
アキラが低く言った。
「正面は返される」
モチは、ぴたりと止まった。
そして、横へ跳ねた。
――すかっ。
シェルミラーの反射が、空を切る。
「避けた!」
サクラが声を上げる。
アキラの目が鋭くなる。
「今ので、相手が止まった」
「モチが作ったスキだ」
タケルも、それを見た。
「今だ!」
叫ぶ。
「モチ、そこだ! いけ!」
けれど。
モチは、すぐには飛び込まなかった。
ぷるぷると揺れながら、
シェルミラーの殻を見ている。
「……待って」
サクラが息を呑む。
「モチ、もう一回反射を見てる?」
アキラが小さく頷く。
「慎重に行こうとしてる」
「今の判断は、悪くない」
だが、タケルには届かなかった。
「何してるんだよ!」
その声に、
モチの体がびくっと震えた。
一瞬、動きが止まる。
その隙に――
シェルミラーの殻が、再び光った。
――ばちん!
反射の力が、モチの体を打つ。
「モチ!」
モチが吹き飛ぶ。
地面を何度も跳ね、
最後に、ぷるんと潰れるように止まった。
静寂。
――ピッ。
【敗北】
【戦闘終了】
【連続勝利:終了】
【報酬査定:低下】
タケルは、画面を見つめたまま動けなかった。
「……負けた?」
声が、かすれた。
モチは、ゆっくり体を起こす。
ぷるぷると震えている。
怒っているわけじゃない。
拗ねているわけでもない。
ただ、疲れていた。
ミラッチが、少し離れた場所から歩いてくる。
「ここまでだね」
その声は、いつもの軽さより少し静かだった。
「……マスターは」
「ここまで見て、満足したみたい」
パチン。
ミラッチが指を鳴らす。
戦闘フィールドの光が、すうっと消えていく。
残ったのは、静かな草原と、表示だけだった。
――ピッ。
【戦闘課題】
【条件未達】
・同調率:48%
・連携値:50%
・連続勝利:失敗
タケルは、何も言えなかった。
「未達だと……」
ようやく声を出す。
「どうなる?」
ミラッチは、少しだけ申し訳なさそうに笑った。
「ごめん」
「サービスはない」
一拍。
「レベル5にはなれない」
タケルの表情が固まる。
「……またやればいいだろ」
「この試験、不定期なんだ」
ミラッチは言う。
「条件が揃わないと開催できない」
「その条件は?」
「ヒミツ」
軽い言い方だった。
でも、その言葉は重かった。
タケルは、拳を握る。
あと少しだった。
本当に、あと少しだった。
ミラッチは、空気を変えるように手を叩いた。
「じゃあ」
「アキラ君、サクラちゃんの結果も出すね」
――ピッ。
【モンクラ課題:達成】
【モンクラレベル2:到達】
【報酬:共鳴ベル】
説明:離れた相手へ、想いを届ける小さな音具。
※戦闘効果なし
サクラが、両手で小さなベルを受け取る。
「わ……」
「きれい」
透明なベルの中に、
淡い光が揺れていた。
アキラも覗き込む。
「戦闘用じゃないのか」
「でも」
サクラは小さく笑った。
「なんか、素敵じゃない?」
ミラッチは頷く。
「橋を作った二人には、ぴったりでしょ」
少し間を置いて、続ける。
「マスターも褒めてる」
「珍しいよ。最初から褒めるなんて」
「やった……!」
サクラは嬉しそうにベルを抱える。
アキラも、ほんの少し口元を緩めた。
「これは……いいな」
でも。
二人は、すぐにタケルを見た。
喜びきれない。
空気は、まだ重かった。
タケルは、モチを見ていた。
いや。
見ているようで、
本当は、別のものを見ていた。
届かなかったレベル5。
消えた連続勝利。
止まった同調率。
悔しさ。
焦り。
喪失感。
全部が、胸の中でぐちゃぐちゃになっていた。
そして。
ぽつりと、漏れた。
「……ルーだったら」
モチの動きが、止まった。
タケルは、一瞬だけ口を閉じた。
言ってしまった。
分かっていた。
けれど、止まれなかった。
「こんな苦戦」
「しなかった」
空気が、冷たくなった。
サクラが、息を呑む。
アキラの目が、わずかに細くなる。
モチは、動かない。
ただ、そこにいた。
タケルは、さらに言ってしまう。
「なんで、あそこで引いたんだよ」
「攻めれば勝てたかもしれないのに」
モチが、小さく揺れた。
ぷるん、と返事はしない。
サクラが、一歩前に出る。
「タケル」
「言い方、きついよ」
タケルは振り返る。
「分かってるよ」
「でも……!」
声が震えていた。
怒っているのか。
悔しいのか。
泣きたいのか。
自分でも分かっていなかった。
サクラは、モチを見る。
モチは、まだ震えていた。
「モチ、ずっと頑張ってたじゃない」
「……」
タケルは答えられない。
アキラが静かに言った。
「タケル」
「今は、何を言っても傷になる」
「……っ」
タケルは唇を噛んだ。
分かっている。
分かっている、はずだった。
でも。
納得できなかった。
モチは、静かに揺れていた。
いつものように、
ぷるん、と返事はしなかった。
ただ、
タケルから少しだけ離れる。
ほんの少し。
けれど、その距離は――
さっき作った橋よりも、
遠く見えた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回は……モチ、よく頑張りました。
「ぷる……」
タケルもモチも、まだまだ成長途中です。
二人のことを「もう少し見守ってやるか」と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると、とても励みになります。
この先も、一緒に見届けてもらえたら嬉しいです。




