第117話 渡れる橋
アキラとサクラは、崖の前に立っていた。
――ゴォォッ!
強い風が、谷の底から吹き上がる。
サクラの髪が、大きく揺れた。
「ちょっと!」
サクラが両手で髪を押さえる。
「なんで架空なのに、こんなに風強いのよ!」
アキラは、冷静に崖の向こうを見た。
「ミラッチのイタズラに決まっているだろ」
少し離れた場所で、ミラッチがにやにやしていた。
「半分、正解」
「半分?」
サクラが聞き返す。
ミラッチは、谷を指さした。
「元々の場所でも、風が強いんだ」
「だから、ちゃんと再現してみた」
「ちゃんと、の方向が面倒くさいのよ……」
ミラッチは、少しだけ困った顔をした。
「……このくらいで大変なら」
「学院の外は、もっと大変かもね」
その言葉に、アキラが少しだけ目を細めた。
だが、ミラッチはすぐに明るく手を叩く。
パンパン。
「さあ、気持ちを切り替えてやってみよう」
「岸の住民が待ってるよ」
そう言って、ミラッチは木陰の方へ歩いていく。
「僕は、あの木陰から見てるから」
向こう岸には、小さな影がいくつも見える。
けれど、誰も動かない。
「まずは、渡れる橋を作ろう」
アキラが言った。
「うん」
サクラも頷く。
「安全じゃないと、怖くて渡れないもんね」
アキラは指を前に伸ばす。
「構造ブロック」
「土台」
――ピッ。
光の粒が集まり、崖の端に太い支柱が生まれる。
「次、床板」
「幅は広めに」
――ピッ。
谷の上に、まっすぐな橋が伸びていく。
その瞬間。
――ゴォォッ!
強風が吹き抜けた。
橋が、ぎしりと揺れる。
「うわっ!?」
サクラが思わず身を引く。
「風圧か」
アキラが橋を見る。
「固定を増やす」
――ピッ。
追加の支柱が、橋の下に組み込まれる。
揺れが、少しだけ収まった。
「……普通に難しいわね、これ」
サクラが髪を押さえながら言った。
「だからこそ、まずは安全性だ」
アキラは真剣な目で橋を見る。
サクラも両手を広げた。
「手すり」
「あと、ちょっと丸みをつけて」
――ピッ。
橋の両側に、やわらかな形の手すりがついた。
「いい感じじゃない?」
サクラが少し嬉しそうに言う。
「ああ」
アキラも頷いた。
「強度も悪くない」
さらに、滑り止め。
夜でも見える小さな明かり。
風よけの低い壁。
橋は、少しずつ整っていった。
丈夫で。
安全で。
見た目も悪くない。
「……できた」
アキラが息を吐く。
サクラは向こう岸を見る。
「これなら、渡れるよね」
少しの沈黙。
だが。
向こう岸の影は、動かなかった。
反対側の影も、動かない。
誰も、一歩を踏み出さない。
「……あれ?」
サクラが首を傾げる。
木陰から、ミラッチが歩いてくる。
橋の横に立ち、しばらく眺めた。
「うん」
「渡れるね」
アキラとサクラが、同時にミラッチを見る。
ミラッチは、橋を見上げてから、静かに言った。
「でも」
「渡りたい理由はない」
サクラは、向こう岸を見た。
橋はある。
道もある。
危なくもない。
それなのに、誰も一歩を踏み出さない。
「……じゃあ」
サクラが小さく言う。
「どうしたら、渡りたくなるんだろう」
アキラは、橋の手すりに手を置いた。
「壊れたものを直すだけじゃ」
「足りないってことか」
ミラッチは、楽しそうに笑った。
「うん」
「次は、そこを考えてみよっか」
谷の向こうで、小さな影がこちらを見ている。
橋は、もう架かっている。
でもまだ、
誰の心にも届いていなかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
橋は完成!
……でも、まだ何かが足りないようです。
アキラとサクラならきっと面白い答えを見つけてくれるはず。
二人の挑戦をもう少し見守りたいと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。
次回も一緒に楽しみましょう!




