第114話 一時間休憩
――ピッ。
戦闘フィールドの光が、ゆっくりと落ち着いていく。
数値は表示されたまま。
だが、誰もそれを見ていなかった。
アキラが、ふう、と一息ついてから口を開く。
「……ミラッチ」
「そろそろ、一旦休憩してもいいか?」
ミラッチは一瞬、きょとんとした顔をした。
「休憩?」
視線を宙に泳がせ、
何かを計算するように目を細める。
「……ああ」
「もう、半日くらい経ってるね」
少し考えてから、にやっと笑った。
「よし! 一時間休憩!」
パチン。
軽い指鳴らし。
次の瞬間――
何もなかった空間に、怪しげな屋台が出現した。
木製のカウンター。
色あせた布の屋根。
湯気の立つ箱。
「……なに、これ?」
サクラが首を傾げる。
「おい」
タケルが眉をひそめる。
「誰もいないぞ、ミラッチ」
ミラッチは、胸を張った。
「そうだよ」
「だって、僕が店主だもん」
「……は?」
タケルが間の抜けた声を出す。
ミラッチは少し照れたように言った。
「祭りの屋台って、憧れるでしょ」
「売る人、やってみたかったんだよね……」
「……」
一瞬、空気が止まる。
「ミラッチ」
タケルが真顔で言う。
「何ふざけてるんだよ」
ミラッチの肩が、ぴくっと揺れた。
「……ごめん」
「そうだよね」
パチン。
屋台は、何事もなかったかのように消えた。
その直後。
「ああ……」
アキラが、少し残念そうに言う。
「せっかく、食べ物くれようとしてたのに」
「え?」
タケルの顔が一変する。
「食べ物!?」
「いる! いるに決まってるだろ!」
「お腹、ぺこぺこなんだけど!」
「ちょっと……」
サクラが呆れた。
「タケルったら」
ちら、とミラッチを見る。
「ほら」
「ミラッチ、いじけてるよ」
「どうするのよ」
タケルは、一瞬考え――
「ここは!」
勢いよく前に出て。
その場で、土下座した。
「お願いします!!」
ミラッチは、目を丸くしたあと――
「……ははっ」
吹き出すように笑った。
「君たち、ほんと面白いね」
パチン。
再び、指が鳴る。
今度は、さっきより少し立派な屋台が現れた。
「さあ、さあ!」
「ミラッチ特製弁当だよ!」
「三つください!」
即答。
「ごめん」
ミラッチは申し訳なさそうに言う。
「一人一個ね」
「予算が……」
「ちっ」
タケルが舌打ちする。
――シーン。
「毎度あり」
弁当が配られる。
その横で、アキラが静かに動いた。
前方を指さす。
「……見てろよ」
眼鏡の奥が、きらりと光る。
「机!」
――ピッ。
「椅子!」
――ピッ。
簡素だが、整った食事スペースが組み上がる。
「すご……」
タケルが素直に声を漏らす。
「だろ」
アキラは、わずかに口角を上げた。
「私もやる!」
サクラが前に出る。
両手を広げて――
「噴水!」
――ピッ。
水音とともに、小さな噴水が立ち上がった。
「……すごすぎ」
タケルが呆然とする。
ミラッチは、楽しそうにそれを眺めていた。
「これでモンクラ“レベル1”か」
「アキラ君とサクラさんは、期待しかないね」
少し間を置いて。
「楽しみだよ」
⸻
弁当を食べながら、
しばし、言葉のない時間が流れる。
タケルは、無言で箸を動かしていた。
アキラが、ぽつりと言う。
「……勝ち続けるって」
「案外、疲れるな」
サクラが頷く。
「うん」
「気づかないうちにね」
タケルは、箸を止めたまま言った。
「……でも」
「勝ってる」
誰も、すぐには返事をしなかった。
ミラッチは、
屋台の布を整えながら、
何も言わずに笑っている。
休憩の時間は、
静かに、確かに流れていく。
この一時間が、
後で何を分けるのか――
まだ、誰も知らなかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回はちょっと一休み。
なんだかんだで、この三人とミラッチのやり取りを書くのも楽しいです。
タケルたちと一緒にこの試練を乗り越えたいと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると励みになります。
次回も一緒に楽しんでもらえたら嬉しいです!




