第105話 マスターからの挑戦状
カウントダウンが、ゼロを示した。
その瞬間だった。
ピコン。
端末に、短い通知が表示される。
【マスターからの挑戦状】
【試験フィールド:展開】
「……え?」
サクラが、思わず声を漏らした。
「ちょっと待って。
“展開”って……何?」
タケルは端末を確認する。
ミッション内容は、相変わらず表示されていない。
条件も、説明も、何もない。
「内容、まだ出てないよな?」
そう言った直後だった。
風が――止まった。
正確には、止まったように“感じた”。
草原は、確かにそこにある。
地面も、空も、さっきと同じ景色のはずなのに。
距離感だけが、微妙に狂っていた。
音が、半拍遅れて耳に届く。
「……なに、これ」
タケルが呟く。
サクラは、周囲を見回していた。
視線が、わずかに鋭くなる。
「待って……」
一拍。
「これ、育成専用のイメージ・アリーナに、似てる」
タケルが振り向く。
「サクラ、何やってんだよ!
そんな冗談やめろって!」
「だから、わたしじゃないって!」
サクラが即答する。
「え、マジ……?」
タケルはもう一度、周囲を見回した。
「目の前のこれ――何だ?」
「ここ、草原だぞ?」
サクラは、すぐに首を振る。
「違う。
似てる“だけ”よ」
「わたし、起動してないよ。
育成カードも使ってないし、ログイン操作もしてない」
つまり。
これは、サクラが開いたものじゃない。
「じゃあ……誰が?」
その問いに、すぐ答えたのはアキラだった。
アキラは端末を見ていた。
だが、そこに表示されているのは、いつものIA管理画面ではない。
「……なるほど」
低く、理解した声。
「育成用じゃないな、これ」
サクラが聞き返す。
「どういうこと?」
アキラは一歩、前に出た。
「“マスター”とやらが、
俺たちを呼んでる」
タケルは、眉をひそめる。
「呼ぶ……?」
「招待じゃない。
選択式でもない」
アキラは、淡々と言った。
「これは――招集だ」
その言葉を裏づけるように、
視界の端に、短い表示が割り込んだ。
【フィールド固定】
【離脱不可】
サクラが小さく息を呑む。
「……本気だね」
「育成でも、訓練でもないってことか」
タケルの声は、少しだけ低くなっていた。
アキラは頷く。
「“挑戦状”って言葉の通りだ」
一瞬の沈黙。
アキラは、タケルを見る。
「タケル。
ここは、中途半端な覚悟で入る場所じゃない」
タケルは、すぐには答えなかった。
アキラの顔を見る。
サクラの表情を見る。
二人とも、何も言わない。
ただ、同じものを見ていた。
タケルは、小さく息を吐いた。
「でもさ」
顔を上げる。
「これ、もう始まってるよな」
アキラは、何も言わずに頷いた。
「逃げる理由、ないよな」
その言葉に、サクラが肩をすくめる。
「……ほんと、タケルらしい」
アキラが、静かに言った。
「覚悟決めて、行こう」
三人が、同時に一歩踏み出す。
その瞬間――
視界が、反転した。
空間が、完全に切り替わる。
【試験フィールド:イメージ・アリーナ(特別展開)】
【管理者:マスター】
名前は、出ない。
ただ。
“見られている”という感覚だけが、
はっきりと残った。
【状態:待機中】
――条件は、まだ示されない。
次の瞬間。
三人は、ゆっくりと目を開けた。
そして――
目を疑うような光景が、広がっていた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
ついに「マスターからの挑戦状」が始まりました。
ここからは今までとは少し違う、新しい試練が待っています。
タケルたちがどんな答えを見つけるのか、一緒に見届けていただけたら嬉しいです。
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