第103話 Lv5に、なれない理由
合格発表から、数日後。
ミラリアの草原は、今日も変わらず広がっていた。
風に揺れる草。
その合間を縫うように、小型のミラモンたちが転がっている。
「よし、もう一本いくぞ!」
タケルの声に応じて、ルーが低く唸った。
目の前にいるのは、Eランクのミラモン。
《ロールピー》――
豆粒のような体を丸め、地面を転がって突進してくるミラモンだ。
ルーは距離を詰め、間合いに入った瞬間、迷いなく一撃。
ロールピーは弾かれるように転がり、戦闘はあっけなく終わった。
「お見事だな」
少し離れた場所で、アキラが静かに言う。
「ルー、順調みたいね。
一時は心配したけど、その心配も無縁ね」
サクラはそう言いながら、近くでチヨのトレーニングを続けていた。
最近のトレーニングは、調子がいい。
体の動きも、判断も――
以前より、ずっと噛み合っている。
(……やっと、ここまで来たんだ)
タケルは、草原を見渡しながら、静かに息を吐いた。
そう思えた。
そのときだった。
ピコン、と軽い音。
三人のモンマスに、同時に通知が届く。
【推薦入試合格通知書】
【グランディア中央学院 入学の手引き】
タケルは思わず笑った。
「合格通知書もらうと、やっぱ実感湧くな」
「そうね!」
サクラが頷く。
「ちゃんと“認められた”って感じ」
アキラも端末を見つめながら、小さく息を吐いた。
「……ここからだな」
その直後だった。
ピコン!
先ほどとは明らかに違う通知音。
【グランディア中央学院 入学達成!】
【偉業達成】
【特別ボーナス:モンマスレベル+1】
一瞬、空気が止まる。
「まじか」
アキラが目を見開いた。
「うおー!」
タケルが拳を握る。
「燃える展開だろ、これ!」
「嬉しいね」
サクラも笑った。
自然な流れだった。
合格して、報酬があって、次の段階へ進む。
――進めるはずだった。
タケルは、モンマス管理端末を操作する。
「よし……これで、レベル5だよな」
光が走る。
【モンマス更新処理中】
一瞬。
……止まった。
【警告】
【モンマスレベル5:条件未達】
「……え?」
タケルは、もう一度画面を見た。
指先が、少し震える。
「……嘘だろ」
思わず、声が漏れた。
「どうした? タケル?」
アキラがすぐに気づく。
「いや……」
タケルは端末を見たまま、言った。
「レベル5、拒まれた」
一瞬、沈黙。
「……は?」
アキラが眉をひそめる。
「何それ。冗談やめろよ」
「見せてみろ」
タケルから端末を受け取り、画面を覗き込む。
そして――
一拍。
「あー……」
アキラは小さく息を吐いた。
「マジなやつだな、これ」
その声に、サクラが顔を上げる。
「なに?」
「どうしたの?」
事情を察したのか、サクラは小さく笑って、
タケルの腕を指先でツンツンとつつく。
「どうして?」
「タケルってさ……いつも大事なところで、こうなんだから」
「そんなこと言われてもな……」
タケルは苦笑いする。
「え……?」
「でもタケル、実戦成績は――」
サクラが言葉を切り、
「レベル4までは、普通になれたわけでしょ?」
「まだ序盤なのに……なんで?」
「だよな」
アキラも頷く。
「成長が止まる理由が見当たらない」
そのとき。
端末の画面が切り替わり、
詳細表示が、静かに浮かび上がった。
【未達項目】
・同調率:47%(基準未満)
・連携値:40%(基準未満)
※適道選択による成長偏重が確認されています
タケルは、言葉を失った。
(……また、俺だけか)
さらに、画面が切り替わる。
【補足】
現在の成長状態は
「力は足りているが、条件が揃っていません」
胸の奥に、冷たいものが落ちた。
「……力は、足りてる?」
その直後。
ピコン!
【特殊ミッション発生】
【詳細条件:非公開】
【条件公開まで残り──72時間】
「……非公開?」
タケルは、思わず声に出していた。
画面を見返す。
だが、条件欄は灰色のまま。
説明も、補足も、何も表示されない。
「ちょっと待って」
サクラが、端末を覗き込む。
「今のって……」
「七十二時間後に、何か起こるってこと?」
「公開まで、って書いてあるな」
アキラが静かに言った。
「それまでは――」
「自分たちで考えろ、ってことか」
(……厄介だな)
タケルは誰に言うでもなく、そう感じた。
端末を見つめていると、
さっきまで噛み合っていた感覚が、
少しずつ、ずれていく気がした。
アキラが、画面を見つめたまま呟く。
「未達……数値だけ、なのか?」
「分からないことばかりだ」
一方で、
タケルは、そこまで考えられずにいた。
胸の奥に残っているのは、
理由の分からない引っかかりだけだった。
――強くなった。
――勝てるようにもなった。
それなのに。
まだ、自分は
“次の段階”には立っていない。
――その現実を、
どこかで拒んでいる自分がいた。
風が、草原を撫でる。
タケルは、端末を握りしめたまま、
しばらく、その場から動けなかった。
その様子を見て、
タケルの元気が落ちていることを察したのか――
「また、楽しくなるな」
アキラが、いつもの調子で言った。
「ほんと!ほんと!」
サクラも、くすっと笑う。
「タケルと一緒だと、退屈しないもんね」
二人の声は、やけに自然で、
気負いがなかった。
「……とりあえずさ」
タケルは、少しだけ力を抜いて言う。
「ご飯食べてから、考えよう?」
「お前、そこは――」
アキラが、間髪入れずに続ける。
「『ありがとう』だろ」
一瞬の間。
それから、三人で笑った。
草原に、軽い笑い声が溶けていく。
――果たして。
タケルに待ち受ける“特殊ミッション”とは、何なのか。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
順調に進んでいると思った矢先の、まさかの「レベル5になれない」という壁でした。
タケルに与えられた特殊ミッションの正体とは何なのか。
これからも一緒に考えながら、見守っていただけたら嬉しいです。
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