第102話 試験合格発表編③ ――その名は、
中央アリーナが、ざわついていた。
巨大スクリーンには、
【少々お待ちください】
無機質な文字が浮かんでいる。
「え? もう終わりじゃないのか?」
「どういうことだ……?」
あちこちから、不安と困惑の声が漏れ始めた。
壇上では、係員たちが慌ただしく動いている。
その一人が、学院長イリスに小声で報告していた。
「……確認しました。確かに、該当者が――」
「分かりました」
イリスは短く頷く。
その間も、空気は重く沈み続けた。
そんな中――
「えーっと皆さん!」
場違いなくらい明るい声が響いた。
DJフレアだ。
「前代未聞の事態のようね!
でも大丈夫、大丈夫! 落ち着いて待ちましょう!」
「こんな時のためにね!
わたし、実は一発芸を――」
何とも言えない芸が始まった。
……微妙だ。
会場の空気は、むしろ気まずさを増していく。
そのとき。
「――少し、いいかな」
静かな声が、空気を切った。
立ち上がったのは、ルイ=フォン=レーヴェルトだった。
ざわ、と視線が集まる。
ルイは、ゆっくりと周囲を見渡す。
「人生っていうのはね」
「こういう“何も起きていない時間”を、どう受け取るかで変わる」
言葉が、自然と人を引きつける。
「夢破れた者もいるだろう。
でも、このミラリアを築いた人々の中には――」
少しだけ、笑った。
「学院に通っていなかった者も、大勢いる」
会場が静まり返る。
「だから、今ここで終わったと思う必要はない」
「準備をしていれば、チャンスは必ず来る」
そして、ふいに英語で言った。
「Take time by the forelock」
聞き慣れない言葉に、ざわめきが走る。
「幸運の女神には、前髪しかない」
「掴む準備をしていた者だけが、チャンスを手にするんだ」
深く礼をする。
一拍。
次の瞬間、拍手が爆発した。
総立ちだ。
「ルイ様ー!!」
「かっこよすぎるだろ……!」
タケルは呆然と見ていた。
「……ファン、増えてない?」
「ていうか、かっこよすぎだろ」
「すごいな……ルイは」
アキラが、素直に言う。
「この前まで一緒に冒険してたのが、嘘みたい」
サクラも小さく笑った。
DJフレアがマイクを持ち直す。
「ルイ様、ありがとうございます!
……わたしもファンに入れてください!」
笑いが起きた。
そして。
「皆さま、静粛に」
イリス学院長が、前に出る。
「お待たせしました」
「本日の発表が止まった理由を、説明します」
空気が、張りつめる。
「今朝、学院の合否判定システムにエラーが発生していました」
「その影響で――本来合格すべき方を、十名、漏らしていました」
どよめき。
「大変申し訳ありません」
「今から、その方々を発表します」
フレアに視線を送る。
「DJフレア、お願いします」
「はーい!
みんな、スクリーン注目!」
フレアが声を張る。
「まずは――優秀合格者!
追加該当者は、一名!」
スクリーンが光る。
【優秀合格者】
滝沢エリカ
「……え?」
エリカは、一瞬、理解できなかった。
「……ウソ……」
次の瞬間、その場に崩れ落ちる。
「わたし……?」
ユズルが、そっと手を握った。
「……よかった」
エリカは涙だらけの顔で笑う。
「ユズル……ありがとう」
「幸運の道真公のお守りのおかげね」
拍手が起きた。
「続いて!
追加推薦合格者、九名を発表します!」
名前が流れていく。
三人目。
「――子分B!」
「……っ!」
子分Bは、その場で頭を下げた。
「サトルさん……やりました」
「ああ」
サトルは静かに頷く。
「分かってた」
子分Aが肩を叩く。
「これで一人じゃないな」
発表は続く。
……八名。
それでも。
タケルの名前は、出ない。
アキラが呟く。
「……次で最後か」
タケルは、ぎゅっと目を閉じた。
気づけば――
体が、勝手に動いていた。
地面に手をつき、
両手を天に掲げる。
――土下座バンザイ。
「……無意識に出てるわね」
サクラが呆れる。
「それでは――」
フレアが、少し間を置く。
「最後の一人を、発表します」
スクリーンが光った。
【大和タケル】
「……え?」
同時に、カメラ型ミラモンが接近する。
巨大スクリーンに映し出されたのは――
土下座バンザイをしたまま固まるタケルだった。
一瞬、静寂。
次の瞬間。
「なんだあれ!?」
「始星祭で土下座してたやつだ!」
「そんな変態、ほんとにいたのかよ!」
爆笑。
「おいタケル! 映ってる!」
アキラが叫ぶ。
「他人のフリ!」
サクラも必死だ。
「……え?」
タケルが目を開ける。
自分の名前。
確かに、そこにあった。
「……やった」
次の瞬間。
「やったああああ!!」
泣きながら、全力で喜びを爆発させた。
その姿に、拍手が広がる。
一人、また一人と。
やがて、アリーナ全体が拍手に包まれた。
⸻
その夜。
タケルの家では、小さなパーティが開かれていた。
「すごいな、タケル!」
父が笑う。
「今日も♪ かなり♪ 最高⤴︎だったでしょ!」
妹のサトが跳ねる。
母がスマホを見ながら言った。
「そういえば、今日の夜――
推薦入試の特集、テレビでやるみたいよ」
「グランディア中央学院だろ?」
父が腕を組む。
「みんなの憧れだからな。
ただ……あれだけ受験生がいれば、
そう簡単に個人は映らんだろう」
そのとき。
テレビが切り替わる。
テレビには――
**土下座バンザイの映像**。
「……これは、恥ずかしいわね」
母が顔を覆う。
「にぃに、有名人だ」
サトが言った。
「ルイより目立ってない?」
アキラがニヤリとする。
「明日から他人のフリね」
サクラが、意地悪く笑った。
「ひどくない!?」
笑いに包まれる部屋。
こうして。
大和タケルは――
少し変わった形で。
けれど、誰よりも必死な形で。
グランディア中央学院への切符を、
掴み取ったのだった。
――推薦入試編、完。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
推薦入試編はこれで完結です。
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