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ノルド・ドラゴン  作者: 本藤侑
11/15

11.アルシング3

 ついにリコネルにとっては待ちに待った日がやって来た。


 今日は全島集会アルシング3日目、今日から決闘大会が始まる。


 今年のエントリーは5部族45人。まさかのラウト族だけリコネルただ一人だった。

45人全てを決闘させるのはとてもじゃないが時間がかかり過ぎる。


 そこで今日は決闘大会予選、決闘大会とは言いながらもあくまで予選。決闘はしない。


 予選の内容は毎回違うため誰も予習が出来ない。当日の予習開催直前にエントリーした若いヴァイキングたちに教えられるのだ。


 分かっていることは体力面を測る内容であるということ。

冒険者は時に長期戦をし、時にサバイバルをする。予測不能な危険に常に狙われている。


 いくら剣技が秀でていても体力が無ければ冒険者として優れているとは言えない。総合力が大事なのだ。


 全島集会アルシングは2週間もある。焦って決闘大会を進めなくても問題ない。例年の予選はおよそ2日程度の期間で行われた。


 予選でふるいにかけられ、残った上位10人の志願者のみ本当の決闘大会を受けることが出来る。見事そこで勝ち残ればヴァイキング出身の冒険者となり、世界を見て回る資格を得る。


 リコネルは父に憧れ、まだ見ぬ世界に憧れ、世界を自由に移動できる"冒険者の資格(パスポート)"が欲しかった。


 全く、なぜヴァイキング世界だけたかが冒険者になるだけにこんなにも敷居が高い試練をこなさなければいけないのか。


「でも私ならいける、やれる!」


 勝つぞと意気込み、且つ嘆くリコネルだった。



 威勢のいい開会式の掛け声とともに今年の予選の内容が発表された。


「今年の決闘大会予選の内容は【島流し】だ」


 リコネル含め、多くのヴァイキングが首を傾げざわめいた。

 司会者はそんな様子を面白げに見て、すぐに説明を開始した。


「これからエントリーした志願者諸君にはこの村からおよそ20km離れたところにある小さな無人島、エン島に舟で向かってもらう。到着は昼頃になるだろうか。あとは簡単だ。次の日の朝までそこで過ごし、このフィヨルドまで泳いで戻ってこい。到着が早い上位10名が本戦へ駒を進めることが出来る。ただし、朝の出発はこちらの合図があってからだ。角笛を用いるから島のどこにいても聞こえるだろう。あと、使い竜は村に置いていけ。リタイアする者は監視役に言ってくれ。以上だ」


 司会者はあまり多くを語らなかったが、どんな試練かは大体想像がついた。【島流し】とは…なんとぴったりな名前だろうか。


 リコネルは自身がどのように動くべきかを考える。


 エン島は何度か行ったことがあるし、20kmの水泳は出来る筈だ。しかし、ネックとして昼食、夕食、朝食の確保が必要不可欠だ。食べないという選択肢もあるが、それでは水泳での体力を保つことが出来ないだろう。高カロリーの食べ物を散策して発見しなければ。


 リコネルはエン島について覚えていることを捻り出そうとした。


 1時間後出発である。そこまでに装備するものとしないものを仕分けすることが許された。


 嫌がるラヴァンに留守番を命じ、地元の声援を受けてリコネルは決闘大会の運営が用意したロングボートに乗り込む。


 決闘大会予選、いざ行かん。


 自分の部族が勝利することを願って、港では多くのヴァイキングが見送りに来た。

 その声援を受けながら舟は静かな海をぐんぐん進む。



 エン島。岩壁で出来た自然の要塞のような島。大陸側に唯一の砂浜があり、そこから島の内部に入ることが出来る。


 島の内部には人の手の行き届いていない針葉樹の森があり、その森を数々の生物が住処としている。


 また、島の大洋側の絶壁には沢山の海鳥が巣を作り、いつも騒がしい音を立てている。


 45人はそんな島の中で明日の朝まで過ごし、合図と共にノルド大陸、ラウトのフィヨルドまで泳ぐ…。


ーーーーーーーーー!?

 なんだか熱いなにかを感じる。とてつもなく熱い…見つめられているような何かを。少女はそんな気がした。何故だろうかーーーーーーー


「まもなく着くぞ!起きろ!」


 突然聞こえたヴァイキングの荒々しい一声でリコネルの意識は戻った。考えごとをしているうちにうとうとしてしまったようだ。


 さっき感じたものは夢か現実か。

やっぱり夢だったのかな。

考えるだけ無駄だと割り切り、これ以上考えないようにした。


 そんなことより、まさか自分が寝てしまうとは思いもしなかった。


 今から大会予選が始まるというのに寝てしまうという緊張感の無さは何なのだろう。いや、過度な緊張というストレスで疲れて睡眠を取っただけだ。そうに違いない。そうに違いないよね?


 実際、寝てしまったことは悪いことでは無かった。


 島までの渡航の時間に寝たことによって無駄な緊張がほぐれたのだ。リコネルは自身が万全であるという感覚を覚えた。


 リコネルは周りを見渡す。他のメンバーの反応は様々である。緊張で顔を強張らせている者、つまらなそうにしている手遊びする者、起こされて寝ぼけた顔をしている者、他のメンバーと話す者、10人いたら十色ほど違う。


 少女は自身が寝ていた時、他の志願者たちがその寝顔を見つめていたことを知らない。

 少女が起きた瞬間に目を逸らし、別の行動を取り始めたことも知らない。

 少女の寝た姿に他の志願者たちが癒されていたことも知らない。

 少女を寝苦しくした原因となったことももちろん知らない。


 前方に小さく島が見えてきた。あれが目的地、エン島だ。


 砂浜に着いたらとにかく狩りだ。そう自分に言い聞かす。島の夢を見たお陰で良い狩場を思い出せた。早くそこに向かい、明るいうちにたくさん確保していたい。


 幸いにも人から食べ物を奪うのはルールで禁止されている。自身が充分に食べられる量集めればあとは寝床を整えることだけ考えれば良い。


 今は夏。体温と体力を削るほど寒くはないし、暑くもない。木の上だって寝床になる。



 舟はエン島の砂浜に打ち上げた。運営の監督官の合図によりついに予選が始まった。


 リコネルは軽装備でこの試練に臨んだ。身を守るアーマーは一切装備していない上、武装はスリングショットと愛用のサクスナイフだけだった。


 装備を捨てるのはルールによって禁止されている。そして泳ぐのなら重い装備は邪魔である。その為長剣などをエン島に持ち込むことは無駄に体力を削る愚策であった。


 身軽なリコネルは合図と共にロングボートから飛び降り、先に行った志願者同様に我先にと砂浜を森めがけて走り出す。


 しかし、次の瞬間、「待ってくれ!」という言葉によって呼び止められた。お人好しな少女は思わず立ち止まって振り向いてしまった。


 少女を呼び止めたのは顔がそっくりな顔の男たちだった。リコネルよりやや歳上くらいの栗色の短髪で背がひょろ長い。双子だろうか。


 淡い色をした粗布の服以外何も装備していない彼ら。一体何のために自分を引き止めたのだろうか。


「なんの用ですか?」


 いかんせんリコネルは齢が若く(成人の最低年齢)、まだ(・・)背が低かったのでどうしても上から見下ろされる形になる。そして、コンプレックスではないがこういう時は少々不満がある。


 目線を合わせようと屈まれるのはさらに屈辱的ではあるが。


「君は不死身の竜子リコネルだろ?俺はエギル、そしてこいつが弟のユギルだ。君の噂はラウトのヴァイキングに聞いたよ。強いんだってな。それで、良かったら俺たちとチームを組まないか?」


「不死身…の…竜子!?」


「そう、不死身の竜子。君だろ?」


「…ん……」


 何その二つ名。何その二つ名!!恥ずかしいにもほどがある。どこのどなたが付けたの?本人に確認くらい取ってよ!あ、ステーングおじさんなら付けそう…。だとしたら怒るに怒れないじゃん。嗚呼恥ずかしい!!でも一旦落ち着け!ここは冷静になれ!


 リコネルは胸に手を当て、深い深呼吸をする。すーはー。気持ちを落ち着かせ、頭を働かす。


 エギルとユギルはラウト族から話を聞いて私を誘おうと思ったらしい。協力を求めるのは女だからと馬鹿にしているわけではなく、力を買ってだと思う。しかも私、唯一の女志願者のわけだし。それは間違いなさそうだ。


 しかし、自分も人の事言えないとはいえ、ロクな装備をしていない、しかも武器さえ持ってきていない彼らに何ができるというのか。


 何もできないから協力なんて求めて誘いに来たのだろうか。


「残念ですけど結構です。明るいうちに食料の確保をしないといけません。私急いでいるのでこれで」


 リコネルはそう言って走りだそうとする。

すると今度は肩を掴まれた。


「食料か。狩りに行くんだろう?捕まえた獲物を生で食うつもりか?火は用意しているのか?」


 エギルは自身満々にそう語りかけてきた。

自信満々な態度に同じく自身満々に答えてやろうと口を開いた時、そこで初めて少女は自分のミスに気づいた。


「あっ……」


 間抜けな声が思わず漏れる。

 リコネルはその言葉で頭が真っ白になった。脳内には一言、「やらかしたー!」という言葉が張り付いていた。


 自分の考えの浅はかさに憤慨してしまいそうだ。火打石と火打金、これくらい持ってくるんだった。ポケットに突っ込めばたいした荷物にならないと言うのに。


「お、用意してないんだな。なら俺たちは優秀だぜ」


エギルはリコネルの反応を喜び、ここぞとばかりに自分たちを売り込む。


 そんな言葉に少女も少し興味が湧く。

言うじゃないか。聞いてやろう。

ところで、武器すら持ってきていない彼らがどうやって火を起こすというのだろう。


「実は俺たち、こう見えてもドルイド目指してるんだ。まだあまり上位の魔法は上手じゃないが、まぁこれくらいなら」


 パチンっ。少年は指を鳴らす。すると同時に人差し指の先に小さな炎が生まれた。


 その炎をカッコつけてふっと吹き消すと、エギルは話を続ける。


「こんな感じでお役に立てますよっと。どうですか不死身のお嬢さん。俺たちと協力しませんか?」


「ぐぬぬ……」


悔しい気もする。しかし、双子の能力はとても便利だ。リコネルは悩む間も無く協力を即決した。


「決まりだな!これからしばらくは協力関係だ。よろしくな!!」


「よ、よろしく……」


「いやはや、流石リコネル。不死身の竜子の名前は伊達じゃないな!!」


いい加減にして。

 突然の少女の憤慨に目を丸くして驚く二人。しかし、その憤慨する姿もとても可愛らしく感じられた。


「お願いだからその不死身のなんとかってやつで私を呼ぶのをやめて!あと口が裂けてもお嬢さんだなんて呼ばないで!!!

普通にリコネルって呼んで!リコネルでいいから!!お願い!」


 双子の心を少女は鷲掴みにした。

もうちょっとからかいたくなるが、まぁお願いされちゃうとなぁ。


「では改めて。しばらくよろしくお願い致します。リコネルお嬢さん」


「ん?あっ!あーもう!わざとでしょ!」


 ごめんごめんとリコネルに謝るエギルの目線の先には、親指を上に立てたユギルの姿があった。兄貴ナイス。

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