表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原 神太郎 短編集  作者: 原 神太郎
6/8

月が綺麗ですね、

綺麗な空、雲一つ無い、ただ月だけが光る。仕事を終え、僕は帰宅途中である。満員電車に揺られ、冤罪の恐怖に怯え、終わらない量の仕事を無理に終わらせ、金を稼ぐ。額も少なく、貯金になんてまわせやしない。それでも生きる為に僕は今日も稼ぐ。僕は何時もそう思いながら、最寄り駅から自宅へと足を運ばせる。

今週の金曜日、つまり今日は珍しく、頭の上にも中にも何も無い上司の飲みの誘いが無かった。僕が新人として入社してから、僕に金曜の夜など無かった。初めて自由を与えられた気がした。帰宅途中、僕は木の生い茂る公園のベンチに腰をかけた。上には月が登る。地球から月までの距離も果てしなく遠く感じるが、しっかりとゴールがある。人生も同じだ。ゴールが見えないだけで突然それは現れる。詩人にでも成った気分に浸りながら、僕は空を見上げる。

何も残らない人生。それでもこの道を歩くしかない。富豪で偉大な方々はこう言うだろう。新しい道を切り拓けない奴が悪い、と。僕からすると、ちゃんちゃら可笑しい。確かにその勇気は偉い。だが、君にはお金持ちの家族と言う車が有ったから、その道へ進めただけである。道がなくてもすぐに帰れるそんな道具を持っているから進めるだけである。結局のところ、運である。本当に才能で成功した人など、殆どいない。所詮運で成り上がった輩ばかりが、と皮肉めいたことを独りベンチの上で考える。そうだ、僕はこの道から新しい道を切り拓くことができない、独りの臆病者である。しかし僕は気づいてしまったのだ。この退屈な人生もまた、良きかなと。

何不自由ない僕の人生は既に良き人生であったと。歩けて、走れて、痛みを感じ、味もわかり、疲れも感じ、泣くこともでき、聞くことができ、触ることができ、喋ることができ、誰かを呼ぶことができ、君を見ることができる。月に笑いかけ、僕は公園をあとにする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ