表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/258

第168話 そして冒頭へ

「リリアンナ・モンリーズ公爵令嬢。君との婚約は解消させてもらう」


 アレクサンドの言葉に、私はドレスの裾を摘まんで丁寧なカーテシーを披露した。突然の言葉に、会場の皆が息を飲む。それに負けないよう、私は顔を上げると笑顔で返事をした。




「そのお言葉、快く受け入れさせて頂きます」




 会場の人々が一斉にざわめきたつ。

 何故婚約解消なんてするのか。二人の仲は順調だったのではないか。別れるとすると、二人の新しい婚約者はどうなるのか。モンリーズ公爵家と王家の中はどうなるのか。

 一瞬で様々な憶測が飛び交い、混乱する。そんな人々を見下ろして、アレクサンドが口を開く。


「此度の裁判の件。それにより、ソプレス王国の名誉が守られ復興の道を進んでいることは周知の事実だと思う」


 騒ぎが収まり、皆がアレクサンドの言葉に耳を傾けた。


「我々は元々、ソプレス王国との友好のために婚約をしていたが、これで必要が無くなった」


「私は、以前より自分が王妃に向かない性格であることを自覚していました。ソプレス王国の件が解決した今、私よりも王妃に相応しい相手を、殿下に選んで頂きたいのです」


 これはお父様とも話し合って、決めていた内容だ。


「王家とモンリーズ家の交流は変わらない。むしろ、ソプレス王国の地域の統治をモンリーズ公爵家に任せようと考えている。リリアンナ嬢には、公爵家を継ぐ者としてぜひ励んで頂きたい」


 アレクサンドが差し出してくれた手を取り、再び私は深くお辞儀をする。その様子を見て納得したのか、会場の混乱は収まった。

 それを確認すると、隅から現れた事務長官が、事前に準備してあった婚約解消の書類を差し出してくる。皆の前で、私達は順にサインを記入していった。サインを終えると、事務長官は書類を確認しアレクサンドに向かって頷く。書類をくるくると丸めると、一礼して奥へと引いていった。


 再び会場をアレクサンドが見渡す。貴族の人々の反応は様々だ。

 困惑している者、冷静に周囲を観察する者、面白そうに笑う者や、今後自分が王子と婚約出来る可能性を考えほくそ笑む者。

 上にいるとよく見える。だが、こんな生活とはもうおさらばだ。

 アレクサンドと違い、さらっと会場を見渡した私は、壁際で控えていたシヴァを見つめた。驚かそうと思って彼に黙っていたからか、目を見開いて驚いているシヴァ。心配そうに眉根を寄せる姿に、私は胸を熱くした。


 これでようやく、自由になれた。

 身分差から結ばれることは無くとも、モンリーズ公爵家の後継者とその側近として、共にいられる。

 それが何よりも嬉しくてたまらない。


 この後は何をしようか。あの幼い頃の時のように、こっそり会場を抜け出してダンスでも踊る? それとも、誰にも言わずに会場を抜け出そうか。

 この卒業パーティは、名目上は自由参加のためわざわざ最後まで残る理由もない。アレクサンド第一王子の婚約者でなくなった今、尚のこと残る理由が無いのだ。


 そんなことを考えながら、彼の空色の瞳を見つめると、私は微笑んだ。






***






「……聞いてない」


 壁に寄りかかりながら腕を組み、拗ねたようにシヴァは呟いた。


 あれからパーティが開始されたが、まだ正式に次の婚約者が決まっていないアレクサンドが堂々とイザベラと踊るわけにもいかない。そうなれば、他の女子生徒からイザベラがどれだけ睨まれてしまうかも想像がつくから。

 そんなこともあり、ファーストダンスはアレクサンドと踊った。アレクサンドはそれからマルグリータと踊り、他の公爵家の遠縁だとかいう女子生徒と踊り、ようやく今は念願のイザベラと踊っている。さすが二人はポーカーフェイスが上手く、一見すると普通に楽しそうに踊っているようにしか見えない。


 私はといえばアレクサンドの後はレオナルド、ステファンと踊りこうして壁の花になっている。別に元々ダンスが得意だったわけでもなかったのだ。多数の男子生徒から視線を向けられていることには気づいているし、合間に実際声もかけられている。それらを全て断り、こうして壁際で軽食を取りながらシヴァに会いに来たのだ。


「ごめんごめん。秘密ではあったし、今回はシヴァを驚かせたくって」


「だからって、あんな見世物みたいになる必要なかっただろ⁉」


 少し言葉が強くなる。語気を荒げることが少ない彼の言葉に驚くが、それと同時にどうしようもない喜びが溢れてくる。それくらい、シヴァは私を心配してくれていたということだ。


「ありがとう、シヴァ」


 笑顔で返すと、少し頬を染めたシヴァがちらりとこちらを見てすぐにそっぽを向く。


「ねえ、この後……」


「モンリーズ嬢」


 パーティ会場を抜け出すことを提案しようとすると、何度目か分からない男子生徒が再び声をかけてきた。彼は確か伯爵家の次男だったはずだ。


「よろしければ、次のダンスの相手を……」


「今日は靴擦れが痛くてもう踊れませんの。ごめんなさい」


 笑顔で圧力をかければ、相手はそれ以上何も言えなくて引いてくれる。美人と言うのは便利だ。私だって、こんな風にリリアンナに笑顔で凄まれたら引くしかない。


「踊ってくればいいだろ」


「ダンスはあまり好きじゃないもん……シヴァとのダンス以外」


 こそっと呟くと、そっぽを向いていた彼の手が伸びてきた。横目で見ると、彼が私に手を差し出してくれている。

 一緒に抜け出して良い合図だと判断した私は、笑顔で彼の手を取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ