第167話 ゲームとは違うエンディング
イザベラの言葉に、私とレオナルドが固まった。何かを察したのかヤコブも苦笑いしている。知らぬはイザベラとメロディばかり。
「そ、そうだったのね……まあ、お家が色々忙しいみたいよ」
「リリアンナなら休暇中一緒にいたはずだしと思って聞いてみたけど、何か色々あったのね」
そう言いながらイザベラは何かを考えこむ。少しだけ間を置いて、再び口を開く。
「まあ、皆何かしら事情はあるものよ」
こうして小ざっぱりと考えを割り切れる彼女が好きだ。イザベラが気にしないからか、メロディも頷いて特に何も言わない。
この場は収まったものの、徐々に学園内でロミーナとステファンの婚約解消と、休学の噂が流れていった。
噂の的であるロミーナは不在。自然と、ステファンが何かしたのではないかという余計な推測も立ってくる。どうなることかと心配していたが、食堂で会うステファンはいつも通りだった。
赤い瞳を冷たく見据えて、淡々と食事をしている。時折、メロディと視線が合うと少しだけ表情が柔らかくなるが、その程度。巻き込まないようにメロディとは一度距離を置いているらしい。少し寂し気にしながらも、メロディも何も言わなかった。
ロミーナの空席だけが目立つ。そんな空席を、セドリックだけは何度も何度も眺めていた。あれからどうなったのかは、なかなか聞けるタイミングが無かった。アレクサンドからは無事二人を会わせられた報告だけは受けている。しかし、その後は二人の問題だ。これ以上外野がどうこう口を挟める状況でもない。
そんな状況に、アレクサンドは何も言わない。彼が何も言わないと言うことは詮索不要なのだと判断して、他のメンバーも誰も口を挟まなかった。もうすぐステファンも卒業する。そうすれば噂も自然と消えるだろう。
そんな微妙な空気でも日常は送れるようで。
期末試験の期間になり、その結果発表がされ、あっという間に三学年の卒業を祝うパーティの日が近づいていた。
来年は第二王子のレオナルドがアレクサンドの立場を引き継ぐ。そんな引継ぎも期末試験の後に少しずつ進められた。レオナルドがいなくなれば、次はセドリックがその務めを果たす。せっかくだからと、レオナルドと共にアレクサンドから引継ぎと指導を受けるセドリックは忙しそうで、ロミーナとのことについて尋ねる暇はなかった。
そんな中、私とアレクサンドの婚約解消を伝える場も近付いている。私自身それどころではない。
あえてアレクサンドとは全く違うデザインのドレスを選び、髪型とメイクを決め、宝飾品を選んでおく。イザベラやヤコブにも最低限の説明は済ませておいた。そうして、とうとう卒業パーティの日がやって来たのだった。
***
卒業パーティ当日。私とアレクサンドは皆の注目を集めながら登場した。
アレクサンドは、今年は白と金を中心とした色合いの服装だった。卒業生と言うことで、金糸の装飾が付いたマントが付いており、昨年よりもさらに豪華な服装だ。
私はといえば、彼とは全く対にならない、黒と薔薇色を中心としたドレスだった。折角だからと選んだが、まさかドレスの選択肢の中に、ゲーム内でリリアンナが断罪された時の衣装があるとは思わなかった。
少し恥ずかしくはあるが、豊満な胸を露出させてウエストをぎゅっと引き締めたデザイン。肩も露出させて黒い透かしのある手袋が色っぽい。裾は一番下に薔薇色の布を縫い付け、その上に薄い黒の布を何重にも重ねて綺麗なグラデーションを作り出している。
悪女らしい雰囲気はあるが、さすがリリアンナによく似合っている。私の姿を見たヤコブは、少し呆れたように笑っているのが遠目から見えた。
同じくイザベラとも目が合うが、彼女の反応は違う。ゲーム内で見たのと同じ光景が繰り広げられていることに感無量なのか、誰よりも全力で拍手して私達の会場入りを喜んでくれていた。
そんなイザベラの様子に、すぐ隣で腕を組んでいたアレクサンドが微妙な顔をする。たぶん視線から彼女が自分ではなく私の方を見ていたと気付いているのだろう。後でイザベラがアレクサンドにどんな目に合されるか、想像すると怖くなったのでツッコまないことにした。
イザベラはゲームとは全く違う服装だった。淡い桜色のドレスに黄緑色の模様。胸からドレスの裾に向かって、綺麗なラインで大きな桜色の花があしらわれている。髪も下ろして同じく桜のような小花の散った髪飾りをしていて、いつもより少し幼く可愛らしく見える。ゲームの悪役令嬢らしいドレスのデザインとは真逆を行っている。
彼女の隣にいたメロディは、ゲーム内でステファンと結ばれた時のドレスに身を包んでいた。ステファンのルートはプレイしていないので詳細は分からないが、ゲームの紹介動画で見たことはある。
赤を中心としたドレスには黒いリボンが幾重にも重ねられており、だいぶ大人っぽいデザインだ。可愛らしい彼女には似合わないように思えるかもしれないが、それが普段とは違うギャップを生み出していて、それもそれで魅力的だ。赤い羽根飾りから見え隠れする、まん丸のレモン色の目が色っぽく見える。
ゲーム内ではステファンと結ばれると、この場でロミーナが断罪されて婚約破棄されることになっている。しかし、明らかにゲームと違う道を進んだせいか、この場にロミーナはいない。
本来だったらメロディの傍にいて、彼女の肩を抱いているステファンも存在しなかった。彼はといえば、この後私とアレクサンドが上る壇上の傍の会談で、警護をするかのように控えている。
そんなステファンの後ろ。パーティ会場の端の壁に、各家の従者達が立って控えていた。何かあればすぐに自分の主人のところへ駆けつけていけるようにだろう。視線を送ると、すぐにシヴァと目が合う。
黒い髪を後ろできつく纏めてあり、合間からシルバーグレイの髪が覗いている。他のメイドよりも背の高い彼は、よく目立つ。
私達は壇上に上がると、皆に声をかけるためアレクサンドが一歩前に出た。私は後ろで静かに控えている。
「私と同じ三学年の皆さん、卒業おめでとうございます。皆さんはこれから各々の家に付き、働き、社交界へと羽ばたいていくことでしょう。たくさん苦労することがあるかもしれませんが、学園で学んだこと、知り合った人々のことをどうか忘れず頑張って下さい。今宵は最後に、在校生も含めて皆さんで楽しみましょう!」
アレクサンドがグラスを掲げると、会場の皆もグラスを掲げて盛り上がった。乾杯の合図と同時にアレクサンドはグラスに口を付ける。
本来ならばこのままパーティが始まるはずだが、まだ壇上に残るアレクサンドを皆は不思議そうに眺めていた。周囲のざわめきが徐々に引いていき、ある程度静かになった頃。再びアレクサンドは口を開いた。
「そして、この場で1つ報告したいことがあります」
この卒業パーティが、本来であればゲームのエンディングに相当する物だ。ステファンと結ばれた彼女は、ロミーナを断罪して結ばれて幸せになる。そんな運命は、もうすでに大きく変わり、狂ってしまった。
これから先は、どうなるか予想もつかない。
これで良かったのかすら、私には分からない。
「リリアンナ・モンリーズ公爵令嬢。君との婚約は解消させてもらう」
それは、あのゲーム内で見た台詞と全く同じだった。




