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第162話 セドリックとの話し合い

 やってきた人物は、ブロンドの短い髪を揺らしていた。まだ少し幼めの顔立ちには、女物の髪飾りも違和感がない。いつもの学園の制服ではなく、今日は白を基調とした上着にディープパープルのベストを着ている。思えば、彼がこんなにしっかりした服装をしているのを見るのは始めてかもしれない。

 私が驚いていると、彼の大きな菫色の瞳と目が合う。私の存在を認識した彼は、嬉しそうに微笑んだ。


『先輩!』


 耳馴染みの良いライ語に、声変わり途中なのか少し高い声。この声は、間違いなくセドリックのもの。それを理解する前に、彼は駆け寄って私を抱きしめた。


 何故、彼がここにいるのか。私が王城にいることも、アレクサンド様のことも、彼には何も言っていないはずなのに。そうやって混乱していると、セドリックの背後のドアからこっそりとアレクサンド様が出ていくのが見えた。元から、私達を二人にするつもりだったようだ。


『ご無事でしたか? 連絡をもらって驚きました』


『私の方こそ……何故、貴方がここに?』


『リリアンナ先輩から連絡が来たんです』


 一度体を離し、ソファで隣同士に座る。彼の説明で、私は納得した。あの行動力のある彼女ならやりかねない。手紙を出したとしたら辺境伯邸に着いてすぐ。そこからの移動時間を考えると、昨日か一昨日にはセドリックに手紙が届いていたのだ。


『それで、会いに来てくれたのね。久しぶりに会えて、本当に良か』


『先輩』


 笑顔で話を逸らそうとする私に気付いたのだろう。私を見つめる彼の目は真剣だ。




『僕と婚約はできないって、本当ですか?』




 誤魔化そうと思っていた本題を突きつけられ、私は息を飲んだ。


 リリアンナがわざわざ手紙を出した。その内容など、これ以外には考えられない。まさか今起こっている両親の不正などについて、手紙で教えるようなへまはしないだろう。そう考えると、理由は伝えず事実のみを伝えたとしか考えられない。

 それを聞いたセドリックならば、疑問に思うはずだ。近すぎるくらいに素直で真っすぐな彼ならば、直接私に聞いてくる。それを受け止めるのが怖くて、避けようとしたのに。


『それ、は……』


 私が逃げられないようにするためか、腕をしっかり掴まれている。それでも彼の目から逃れたくて、私は顔を逸らした。

 自分の口から、はっきり彼に告げるのが怖い。彼は、はじめて私だけを見てくれた人だった。目を逸らさずに、私だけを見て愛情を注いでくれていた。今まで、そんな人はいなかった。


 彼のことは好きだ。

 でも、そんな彼を犯罪者の娘と付き合わせるわけにはいかない。


 覚悟を決めて、私はセドリックに向き直った。その瞬間、唇に温かな感触が伝わる。


『え……?』


 驚きすぎて体の力が抜けると、私はあっさりとソファに押し倒されてしまった。上に乗っているセドリックが、いたずらっ子のような笑みを見せる。


 キス、されたの……?


 その事実に気が付いた時、私の顔が一気に赤くなった。驚きすぎて、彼から目を離すこともできない。

 そのまま再び彼の顔が近づく。二度、三度と触れるだけの軽いキスを落として、彼は満足したのか私の顔を見た。もう私はされるがままだ。




『僕はずっと待ってますよ、ロミーナ』




 そう言うと、彼は私の胸に頭を埋めた。ぎゅっと抱きしめられ、温かな感触が伝わってくる。こうして抱きしめられてみると、見た目に似合わず彼の力は強い。ちゃんと男性だったのかと、なんだか実感してしまった。


『そんな……ダメよ。だって貴方には、輝かしい未来があるじゃない』


 彼の優しさに包まれて、たまらず私の目に涙が零れる。泣き顔を見られないように顔を手や腕で覆いながら、私は言葉を続けた。


『貴方ほどの魔法の使い手なら、きっと王宮魔導士になれる。きっと一番の出世頭よ。そんな人が、一生私みたいな人間を待って、独身を貫くなんて……そんなこと、世間は許さない』


 彼の未来を想像する。王宮魔導士の制服に身を包み、アレクサンド様の側近として仕える彼はどれだけカッコいいだろうか。

 レオナルド様とステファン様とヤコブ様。彼らと並んで仕事に明け暮れる姿は、きっとどんな女性からも声をかけられるほど人気になるだろう。

 見た目だって、まだ男性にしては背が低いがまだまだ成長途中。大きくなって凛々しくなれば、きっと目を引く美男子に成長する。ますます女性が放っておくわけがない。


 そんな時、自分は何をしているのか。

 きっと両親は裁判にかけられて貴族籍を剥奪。私も貴族ではなくなり、平民として暮らすようになるだろう。

 運がよければライハラ連合国の遠縁の親戚に引き取られるだろうが、そんなの希望的観測に過ぎない。犯罪者の娘となった私を引き取ってくれる可能性など、途方もなく低い。それに、引き取られたところでライハラ連合国の準男爵程度の地位だ。とてもセドリックとは釣り合うとは言えない。


 様々な想像をしてどんどん気持ちが暗くなる。こうして彼が私に愛を伝えてくれていることすら、奇跡のようだ。


『だから、ね? ……もう私のことは諦めて。セドリック』


 無理に笑みを作って微笑む。胸元に顔を埋めながら視線を寄こしたセドリックは、拗ねたような表情をしていた。


『嫌です』


 彼の返事ははっきりしていた。


『僕は絶対に、ロミーナから離れません』


 私から一度離れ、体を起こすと、両手でソファに手を付き再び私を真正面から見つめた。彼のブロンドの髪が私の頬に当たって、少しくすぐったい。


『なんで……なの?』


 そんな彼を見て、私は素直にその疑問を口にしていた。思えば、ずっと前から薄々思っていたことだ。


『私には、貴方にここまで好かれる理由がないわ』


 はじまりは、入学式のあの日。書庫でばったり、同じくライ語を話せる人間と出会ったこと。

 それからは、あくまで先輩と後輩として、アレクサンド様の側近候補の方々も含め、皆でそれなりに仲良くしていたつもりだ。それなのに彼は、いつも私の後を追ってきていた。


 まるで、刷り込みでもされた雛鳥のように。


『そんなことありません』


 そんな可愛らしかった雛鳥は今、私を組み伏せて私に愛を告げている。


『ロミーナは、僕の初恋だから』


 私の髪を一房手に取り、軽く口付けながら彼はそう言った。

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