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第160話 帰宅

 翌日早朝。開店前の食堂にぎゅうぎゅうに集まっている面々に、私は驚いてしまった。


『そんなに悩むなら、本人達に聞けば良いな!』


 昨日にかっと笑いながらそう言っていたヴォルフガングの顔を思い出す。彼のアイデアは要するにアンケートのようなものになるだろうか。確かに、その方が皆が望むものが分かりやすい。

 私が了承すると、彼は本当に数時間でこんなに人を集めてしまったのだ。狭い部屋にたくさんの人がひしめき合っていると、あの大きな体は入りきらない。ヴォルフガングは外で待機し、追手が来ないか入り口を見張っていた。


「皆さん、ようこそお越し下さいました」


 私は変装魔法で黒髪ピンク目の姿のままだ。服装も質素だが、仕草で貴族と言うのは伝わるのだろう。たとえ身分が下の人が相手でも誠意を示さねばと、私はカーテシーで深々とお辞儀をした。そんな私の姿を見て、人々は静かになる。


「今日はお嬢様のためにお越し下さりありがとうございます。ヴォルフガング殿の説明の通り、お嬢様はソプレス王国の民を救おうと邁進しておられます。今回は、生活に必要なものが行き渡りやすいよう補助金を出そうとお考えです」


 隣で赤髪の青年に扮したシヴァが、前に出て発言する。その発言を、人々は真剣な顔で聞いていた。


「食堂の開店まで約2時間。それまでに、補助金が出たらありがたいものを教えて下さい。意見の多かった物や、皆さんの説明から確かに重要性が高そうだと判断した物から補助金を出します」


「お店の邪魔にはならないよう、お話が終わったら速やかにお帰り下さい。追手も撒いて下さり、皆さんの協力には本当に感謝しています。捕まって、このまま終わらせるつもりはありません。復興支援のため、よろしくお願いします!」


 二人で深くお辞儀をすると、どこからともなく拍手が聞こえてきた。拍手はどんどん大きくなり、部屋中に響く。

 彼らは国が滅んだ後もこの場を離れず、ヴォルフガングと共に頑張ってきた面々だ。そんな彼らが浮かべる笑顔や真剣な表情に、胸が熱くなる。


 私達がやって来たことは間違いではない。

 だから、まだまだやれることを頑張ろう。


 再び覚悟を決めると、私は二階の部屋に最初の数名を連れて行った。






***






 その日の昼には、皆の意見が集まった。話を聞きながら、どんな意見が多いのかは自然と分かってくる。


「ありがとうございます! ヴォルフガング様」


 書類を集めて統計を取りながら、私は大きな体を縮めて床に座るヴォルフガングにお礼を言った。大きな体の彼は、床に座るとちょうど目線が合う。


「お役に立てて良かった。これで明日にはここを発てるな」


「……ありがとう」


 笑顔で答えてくれるヴォルフガングに対し、私と一緒に書類を整理していたシヴァがぽろっと言葉を漏らした。ヴォルフガングも驚いたのか、ぽかんと口を開けている。

 しばらく間を開けると、ヴォルフガングは嬉しそうに笑った。大きな掌でシヴァの背を叩き、そのまま彼と肩を組み始める。シヴァは照れたように組み解こうとしていたが、単純な力では彼に敵わない。


「良い! 良いな!」


 ヴォルフガングは本当に嬉しそうだ。ニコニコと満面の笑みを見せていた彼は、ふと噛みしめるように言葉を口にした。


「……本当に、幸せそうで良かった」


 それはシヴァの父親のような、親友のような。そんな表情をしていて。照れたシヴァは容赦なく彼の目を手で覆った。


「そんな辛気臭い顔してんなよ! お前はいつものままでいろ!」


 そう言われてシヴァの手を外したヴォルフガングは、再びいつもの明るい笑顔に戻っている。仲の良い二人の様子に、私もつい頬が緩んでしまった。




 翌日の昼には用事が終わり、後は持って帰った資料で学園に提出するレポートを作成するだけだ。一通り荷造りを済ませると、私とシヴァは部屋を貸してくれていた食堂のオーナーに礼を言い、馬車の置いてある廃城へと向かった。

 道中、一般人に扮した護衛がいるものの、明らかに私達を探している追手の姿も見える。外に出たのはニ、三日ぶりで緊張していたが、どうやらバレてはいないらしい。鎧を付けた仰々しい騎士とすれ違っても、見咎められることが無かったことにほっとする。そうして私達はなんとか廃城に到着した。


 背の高い草が生え、荒れ放題になっている廃城の庭を、皆に手伝ってもらいながら進む。草で隠されていたが、進んでいった先にあったのは間違いなくモンリーズ家の馬車だった。

 豪奢な造りにモンリーズ家の紋章。この馬車で外に出れば一発でバレてしまう。


「……これにも、変装魔法ってかけられる?」


 私の問いに頷き、シヴァは馬車に触れた。魔力を流すと、馬車はモンリーズ家の紋章が消え、少し煤けた木の色に変わる。しかし、馬車の形自体は大きく誤魔化せないのだろう。普通の乗合馬車ではありえない天井の高さと、車輪の大きさだ。


「う~ん……まだ普通の馬車には見えないわね」


 私の言葉にシヴァも隣で考え込む。そこで私は、学園で習ったばかりの魔法を思い出した。シヴァは繊細な魔力操作は得意なようだが、一気に大量の魔力を放出するような使い方は苦手だ。対して私は繊細な操作は苦手だが、魔力量には自信がある。

 確か、基本的には物を修復する魔法だったが、要するに物質の形を変形させる魔法だ。剣を作る際に金槌で叩くように、大きな魔力で思いっきり物質を叩いて変形させる。そんな魔法だ。

 腕まくりをすると、私は馬車に触れた。学園で何度か練習した程度だが、落ち着いてやれば車輪を小さくしたり天井を低くして、その分横幅の広い馬車に変えるくらいはできるはずだ。


 ……元に戻せる保証はないが。

 まあ、お父様なら許してくれる。バルバラには怒られそうだが。


 帰宅した後のことを考え苦笑いすると、私は一気に魔力を放出して馬車を変形させた。

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