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第159話 課題

 辺境伯に指示された騎士達はロミーナを追っていた。町の目撃証言は、モンリーズ家の馬車がニ台、それぞれ二方向へ走って行ったということだけだ。

 証言を整理すると、片方は旧ソプレス王国方面、もう片方は隣町への山道を移動したことになる。囮も警戒し、辺境伯は騎士を二手に分けて馬車を追わせた。街を出た後、どう移動したかは分からない。そのためさらに何組かに分かれて、道を移動していた。


 そうしてその中の一組が、ロミーナの馬車を見つけたのだ。




「本当に大丈夫なんですか⁉」


 馬を走らせながら、不安定な体制で辺境伯の騎士の一人が叫んだ。まだ若い男で、貴族の血が混じっているからか魔法が少し扱える。そのため、馬車を魔法で止めろと指示されたのだ。


「このスピードじゃ、下手したら横転……」


「無傷でとは言われてない! お前も伯爵様に叱られたいのか⁉ 手段は選ぶな!」


 彼に馬車を止めるほどの力はない。せいぜい初心者用の物を宙に浮かせる魔法が使える程度だ。それすらも不安定な体制で使っているせいで、出来が悪い。

 なんとか馬車を浮かせはしたが、数ミリ地面から浮いた程度だ。馬車が横転でもしてくれたら良いがとても無理だろう。


「でも無理ですよ! ああやって浮かせるのがせいぜいです」


「じゃあ続けろ!」


 先輩騎士の指示で魔法を使用し続ける。そんな中、自分の周辺にいる騎士達はロミーナの護衛達にどんどん倒されていった。もう後は無いのだ。

 騎士は最後の魔力を振り絞って、馬車を浮かせる。ようやく三センチ程浮いた馬車は、運悪く石に車輪が当たって体勢を崩す。そのまま車体は大きく揺れ、横転しそうになる。


「やった……!」


 その瞬間、車体は不自然に体勢を取り戻した。再び何事もなかったように走り出す。


「おい! どうなってるんだ⁉」


 その様子を見ていた先輩騎士が叫ぶが、彼に事態が分かるわけがない。混乱しながら馬車を見ていると、不意に窓が開き何者かが軽やかに馬車の上に乗った。目を細めてみれば、それは若い女性騎士のようだった。

 彼女は片手を前に出すと、その手から光を放つ。魔法に詳しくはない彼でも、彼女が格上の魔法を扱えることが容易に想像できた。


「危なっ……」


 彼が止める間もなく、味方の馬がまとめて宙に浮く。そのまま大きく揺さぶられると、手綱をきつく握りしめようが関係なく、全員が馬から振り落とされていた。




 馬車の屋根から戻ったベアトリクスがふっとため息をつく。


「全く、遅い上にまどろっこしいんですよ。情けない」


「面目ない」


 そう拗ねたように呟く彼女に、外にいた騎士が困ったように謝罪していた。あんな一瞬で敵を無効化してしまうなんて凄いと、ベアトリクスが不在の間に二つのトランクを抱えていたロミーナは感心したのだった。






***






 追手が来たのは翌々日の夕方のことだった。ソプレス王国の旧王都へやって来た騎士達はみんな疲れたような表情をしていたと聞く。たぶんシヴァが準備していたあの大量の変装魔法をかけた女性達に翻弄されていたのだろう。

 あの中に本物がいるかもしれないと探すのは、骨が折れることだ。元々アマトリアン辺境伯は反感を買っていたから、協力が得られなくて手こずるのもしょうがない。


 そんな話がヴォルフガングの下に入ってきたため、私はシヴァに変装魔法をかけてもらい、ヴォルフガングの馴染みの店に匿ってもらっていた。シヴァも同様で赤髪の青年になっている。お陰様で調査は順調で、後は調査結果を聞いて指示を出したり手続きをしたりして、家に帰るだけだ。


「とうとう追手が来たみたいだけど、大丈夫かしら……」


「まあ、ヴォルフガングに任せておけば大丈夫だろ。この辺のまとめ役で人望があるから、皆も協力してくれる」


 食堂の二階の部屋を借り、そこで私はシヴァとお茶をしていた。テーブルの上に広がるのは、周辺の地図と今現在集まっている情報だ。せっかく道路も整備したのだ。後は流通が上手くいけば良いと、補助金でも出そうと思ったがどこに出せば良いのか判断が難しい。のんびりもできないし、早く決めてしまいたいのだがそう簡単にはいかなかった。


「でも、ゆっくりはできないし。明日明後日で結論を出さなきゃ」


「やっぱり一番生活に関わる食料品か?」


「食料品にはしたいけど、嗜好品含めて何でもかんでも補助は出せないわよ。小麦は既に手を貸しているから、何か別の物にしないと。他にも日常生活で欠かせないものはたくさんあるし……」


 そうしていると、扉がノックされた。シヴァがドアを開けると、そこにはヴォルフガングが立っていた。


「よう、追手はなんとか撒いてるぞ。モンリーズ家の馬車も廃城に隠してあるから、まだ見つからないはずだ。目撃証言も皆に適当言ってもらってるからな。まだ数日は何とかなる」


 彼は気軽にそう言うが、情報操作がバレて民衆と追手が揉めてしまったら困るのだ。そこまでのことは望んでいない。

 返事に困っていると、シヴァが座っていた隣の椅子にヴォルフガングがどかっと座り込んだ。彼の巨体にはこの椅子は小さいようだが、背を丸めて座っている。


「焦るな焦るな! なんとかなる! というかするからな! アマトリアンの面々には皆イライラしていたんだ。良い気味だ!」


 励ますつもりなのかバンバンと背中を叩かれる。加減しているんだろうが、どうしても痛い。


「やめろ」


 私の表情に気付いたのか、横からシヴァがヴォルフガングを足蹴にする。元々小さい椅子に不安定に座っていたヴォルフガングは呆気なく床に倒れた。


「まったく、いつの間にこんな柄が悪くなってしまったんだか……」


「余計なお世話だ」


 色々悩んでいたけれど、二人のやり取りを見ているとなんだか馬鹿馬鹿しくて気が抜けてくる。普段とは違い遠慮のないシヴァの様子も、面白くて好きだ。

 ふっと息を吐き、二人のやり取りを聞きながら改めて書類を手に取る。食料品なら肉と野菜と魚。日用品なら衣服や火種、薪や食器など。様々な物が項目に並び、それとそれらの商品を扱う商人達のリストになっている。


「もう面倒くさいし、いっそ誰かに決めてもらいたい……」


 書類とにらめっこしながら、ついそんな弱音を漏らす。


「それなら……」


 何かに気付いたように、ヴォルフガングが口を開いた。

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