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第158話 追手

 村中の女性が私とロミーナに……心当たりは一つしかない。


「シヴァ!」


「お嬢様」


 一通り見て回ると、少し離れたところでちょうどシヴァが変装魔法をかけているところだった。

 そこまで魔力の多くない一般人としては、変装魔法で髪や目の色が変わるのが面白いのだろう。魔法をかけてもらった女性が、淡い紫色になった自分の髪を見て喜んでいる。


「これ、どうしたの?」


「目くらましです。魔力が切れれば元に戻りますよ。もって三日でしょうか」


 確かに、こんなに人数がいれば追手が来ても私達には気づきにくいだろう。むしろこの中に混じっているのではないかと探し始めるかもしれない。


「聞き込みをされたらすぐバレるんじゃ」


「魔法をかけながら全員にとぼけるよう頼んであります。我々がどこに行ったのかは知らないと。村長にもそう伝えておきましょう」


 冷静に答えるシヴァがなんだか憎たらしい。変装魔法をかけると言うことは、相手の体の一部に触れるということだ。いくら今、シヴァが女装しているとはいえ、ちょっといい気はしない。

 村長の所へ行こうと、シヴァがやって来る。私の表情を見て察したのか、すれ違い様にシヴァは耳元で囁いた。


「妬いてるのか?」


 その言葉にはっとする。


「そ、そうだよ! 悪い!?」


 慌ててそう返事をすると、シヴァは揶揄うように笑っていた。




 村長にも説明すると、私達の味方をすると約束してくれた。あの惨状をほぼ放置していたアマトリアン辺境伯よりも、この2、3年でしっかり旧ソプレス王国の復興に努めてくれた私達の方に恩があるからと。そう言われて、今まで頑張ってきたことが報われたような気がした。


 村を出て馬車を進める。旧王都への道はしっかり舗装されていた。道中何台かの荷馬車ともすれ違う。どうやらちゃんと使ってくれているようだ。

 それらを確認し、一度ヴォルフガングの邸宅へ。今の所追手は来ていない。大分時間も経ったし追いついてもおかしくない所だが、どうなっているのだろうか。もしかして、追手が全部ロミーナの方へ行ってしまった?

 ヴォルフガングの邸宅の食堂で夕食を食べながら、少し不安になる。


「ねえ、ロミーナの方は大丈夫かな? 追手はまだ来ていないし」


「護衛の中でも精鋭達が揃ってる。いくら辺境伯と言っても、そう簡単に太刀打ちはできないだろ」


「早い馬車は軒並みワシが横転させておいたからな! 残りは旧式のものくらいだ」


 シヴァは冷静だし、ヴォルフガングは豪快に笑っている。打てる手は十分打ったつもりだったけど、本当に大丈夫なのかなぁ。






***






 あれから何時間経っただろうか。町を抜けると、休憩時間は無しで全速力で馬車が走っていく。周囲からは見えないよう背を低くし、椅子に横たわりながら私は時間が過ぎるのを待っていた。

 窓の外はもう暗い。すっかり日も暮れて夜になってしまった。モンリーズ家の馬車は性能がよく、最新式の揺れが少ないものになっている。とはいえ、この山道を急スピードで移動し続けるのだ。普通の乗合馬車と変わらないくらいの揺れが襲ってくる。


「ロミーナ嬢、大丈夫ですか?」


 こんな時でもさすが騎士は強い。ベアトリクスと名乗った女性騎士は、カーテンを少し開けて定期的に外の様子を確認しながらも私のことも気遣ってくれた。


「……なんとか、大丈夫でス」


「このまま夜通し走って、一番近い町は通過してしまいますね。もう1つ先の町まで行けば、一度休憩出来ます」


「貴女達は、大丈夫なノ?」


 私の質問に、ベアトリクスは少し驚いたように目を見開いた。私は何か変なことを言っただろうか。


「大丈夫ですよ。演習や実践で、何度もありますから。一晩寝ないくらい、どうってことありません」


「そう。それなら良いけド……なんだか、私だけ寝てしまうのは情けないワ」


「気にせず寝て下さい。何かあれば起こします」


 ベアトリクスが優しく笑いかけてくれる。その笑みに安心して、私は遠慮なく目を閉じた。




 そこから起こされたのは、完全に私が意識を失っていた最中だった。


「ロミーナ嬢、ロミーナ嬢!」


 肩が揺さぶられ目を覚ます。気付くと目の前にベアトリクスの顔があった。小声で話しているため、つい私も声を小さくしてしまう。


「な、なんですカ?」


「追手です。今は後方の部隊と交戦しています」


 その言葉に背筋が冷えるのを感じた。耳をすませば、激しい馬車の音や馬の蹄の音に混じって金属音が聞こえてくる。


「先方隊に気付かれただけのようで、相手の人数も少なく対応可能な範囲です。しかし、何かあった時にすぐに脱出できるよう準備だけお願いします」


 彼女の言葉に私は頷くと、荷物入れになっている椅子の座面を持ち上げた。そこには私の着替えや部屋から持ち出した大好きだった本、日記などが直接詰め込まれている。その上には自分のトランクが置かれていた。中には大量の両親が隠し持っていたであろう書類や手紙を詰め込んであり、酷く重たい。私はそれを何とか持ち上げると、ぎゅっと抱きしめた。

 反対側の座面の下からベアトリクスがもう一つのトランクを取り出してくれる。それはリリアンナから借りたものだ。ベアトリクスはそれを軽々と持ち上げた。


「先方隊が本隊を連れてくる前に、なんとか撒かないといけませんね」


 そう言うと彼女は馬車の窓を開けた。すぐ横には鎧に身を包んだ屈強な男性が馬で並走している。


「まだ撒けないのですか⁉」


「さすがに辺境伯だ、あれでも騎士の腕は良い」


 周囲の激しい物音に負けないよう、二人共大きな声で叫んでいる。


「本隊が来る様子は!?」


「呼びに行った奴らを潰すために、二人送った。他に隠れてるやつがいなけりゃ大丈夫だ」


 その分、後方部隊の人数が減っている。そのため少し時間がかかっているのだろう。


 大丈夫。

 大丈夫のはずだ。


 そう何度も繰り返しながら、再びぎゅっとトランクを抱きしめる。そうしていると、重たいはずのトランクがふと軽くなった気がした。


「エ?」


 思わず声が出てしまう。軽くなったのはトランクだけではない。私自身の体が、ほんの少し、ふわりと宙に浮いていた。

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