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第151話 手紙

 決して簡単に諦められることではないだろう。私だって、ロミーナがステファンとセドリックの間でずっと悩んでいたことを知っている。セドリックがどれだけロミーナを大切に思っていたのかも。だからこそ、聞いていて辛い。


「セドリック様に迷惑はかけられませんかラ」


 確かに、ステファンと別れてすぐにセドリックと婚約するだけでも、あまり外聞は良くない。その直後にアマトリアン夫妻が犯罪行為を行って家を取り潰されるとなれば、大スキャンダルだ。その時婚約していたセドリックにも、その火の粉はかかるだろう。

 どうにかしてあげたいと思ったが、私に何ができるだろう。ただの友人でしかない私に。


「まア、後はアレクサンド様の言う通り動けバ、路頭に迷うことはありませんかラ」


 大丈夫だとロミーナは笑うが、こんなこと普通は笑えない。今までの慣れもあるのか、さすが表情を取り繕うのが上手い。それがまた痛ましかった。




 道中、休憩のため馬車が止まった。場所は川沿いで、この後は山道が続く。シートを広げているとヴォルフガングがやって来た。


「どうだ? 馬車で酔いはしなかったか? 酔ってたらワシの馬に乗せてやるぞ!」


「ありがとうございまス」


 ヴォルフガングとロミーナが話している間、私の服の裾をちょいちょいとシヴァが引っ張る。何事かと思いながら、彼に促されるまま馬車の裏に回った。


「え? 何?」


「さっきの話だが」


 二人で寄り添い合いながらひそひそと話す。一応チラッと見ると、まだロミーナはヴォルフガングと話しているようだ。


「せめて教えてやればいいんじゃないか? 手紙とか」


「犯罪とかの事情は言えないよ?」


「そこは伏せて、ロミーナ嬢が婚約できなさそうってことだけ伝える。後は二人で話し合うべきだろ」


 シヴァの表情は真剣だ。こうしてそんなに関わりが無かった相手にも気を配れるのだから、本当に優しい。


「何も知らないでいなくなるのはダメだ」


「……うん、分かった。今は無理だから、屋敷に着いたらね」


 嬉しくなって、私はきゅっと彼の手を握った。手袋越しに、私がプレゼントした指輪を探る。


「ありがとう、シヴァ」


「……ああ」


 照れたように目を逸らすシヴァがあまりに愛しくて、抱きしめられないのが残念でならなかった。






 ***






 そうして数日後。もう見慣れたアマトリアン辺境伯領の外壁が見えてきた。

 馬車が中に入ると、街中の様子が見える。住民は皆厚着をしており、冬の寒さが窺えた。雪が降るほどではないが十分肌寒くはある。

 屋敷に到着し、玄関ホールへ向かうとアマトリアン辺境伯夫妻が顔を出した。


「お待ちしておりましたわ」


 夫人の方が私に笑顔を向ける。しかし、ロミーナと一緒に付いてきたヴォルフガングへの視線は冷たかった。ロミーナは表情を強張らせ、ヴォルフガングは何も気づいていないのか興味深そうにキョロキョロと辺りを見渡している。


「ありがとうございます。今年もお世話になります」


 夫人と挨拶を交わしていると、伯爵がヴォルフガングの前に出た。2メートルはあるかという大男を前にすると、伯爵はまるで子供のようだ。


「えっと、ヴォルフガング・バイゲル殿でしたかな? 申し訳ありませんが、ここまで大きいとは思いませんで……貴方ほどの巨体が寝れるベッドの用意がないんですが」


「構わん構わん! なんなら厩に藁でも敷いておいてくだされ」


 ようするに「お前みたいな貴族でも何でもない人間は出ていけ」と言いたいのだろう。それに対するヴォルフガングの返事に、口が引きつっている。いっそ見ていて面白い。

 そんなやりとりに少し和んだのか、ロミーナはほっと息を吐いていた。少し気が緩んでくれたなら良かった。


「あ~……では、そうしておきます。他の方はこちらへ」


 苦笑いしながら返事をし、伯爵は私達を客室へ案内する。ヴォルフガングは藁でできたベッドが完成するのを待つつもりなのか、腕組みしながら玄関ホールに仁王立ちし、私達を笑顔で見送ってくれた。




 客室に到着し、ようやく息をつくことができる。メイドさん達が荷物を片付け終え、引き上げた頃。トントンと扉がノックされた。


「どうぞ」


 入ってきたのはシヴァだった。濃い茶色のチェックのワンピースがよく似合っている。あくまでここでは、メイドではなく一人の令嬢と言う扱いなのだ。


「手紙は書けたか?」


 どうやら心配してわざわざ来てくれたらしい。ちょうど便箋を出して書き始めた所なので、ちょうど良かった。


「今書いてるの。もう少しで終わるよ」


「封をしたら少し貸せ」


 何をするんだろうか? よく分からず首を傾げながら、私は手紙の続きを書いた。これがちゃんと伝わって、せめてしっかり二人が納得できるように話し合いができれば良いと願いながら。


「はい、できたよ」


 蜜蝋で封をするとシヴァに封筒を手渡した。受け取ったシヴァは両面をしげしげと見ながら、何か短い呪文を唱えていた。

 魔法だろうか? シヴァの手から浮かぶ、紫に光る何かが封筒を取り巻き消えていった。


「何をしたの?」


「誰も開けられないように魔法で封をかけた」


「え⁉ それじゃセドリック様も開けられないじゃん!」

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