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第150話 辺境伯へ向けて

 アマトリアン辺境伯領へ行く日は快晴だった。シヴァと共に馬車に乗った私は、途中でロミーナを拾うと王城にも向かう。


「おはよう! いい天気だな!」


 大声で挨拶してきたのはヴォルフガング。本来ならば裁判後にすぐ帰るはずだったが、シヴァが心配なのと私達がちょうど数日後に旧ソプレス王国へ行くのを知って、せっかくだから一緒に帰ることになったのだ。


「おはようございます」


「お久しぶりでス」


「おお、アマトリアン嬢か! 久しいな!」


 挨拶を返したロミーナにヴォルフガングは握手を求め、手を繋ぐとすごい勢いでぶんぶんと振る。このままではロミーナが吹き飛ばされそうなのでシヴァが制止した。


「シルヴィアも元気そうじゃないか! 倒れた時は心配したぞ!」


「そういうのを大声で言わないでください」


「エ⁉ 倒れられたんですカ!?」


「ほら、こうなった……」


 裁判に参加出来ず、事情を知らないロミーナが心配そうにシヴァを見てくる。そんなに大事にされたくなかったシヴァは、ギロリとヴォルフガングを睨みつけた。しかし、彼は気にしない。


「そうなんですよ! 祖国の話を聞いて色々ショックだったみたいで。だから裁判には参加するなと言ったのに」


「それハ、心労もあったでしょうネ」


 シヴァを気にかけるような様子を見せるが、ただの心配にしてはロミーナの表情が暗い。声をかけようとしたが、それよりもヴォルフガングがみんなを馬車に乗るよう先導するのが先だった。


「ヴォルフガングは? 乗れるのか?」


 私とシヴァ、ロミーナは同じ馬車に乗るつもりだが、どう見てもヴォルフガングの巨体は入らない。

 質問したシヴァにヴォルフガングはこれまた大きな馬を自慢気に見せてくれた。ここまで来る時はシヴァと同じ馬車に乗って来たそうだが、帰りのために愛馬を連れてきたんだそうだ。あれだけ背の高い馬ならヴォルフガングが乗っても大丈夫だろう。

 各々が馬車と馬に乗る際、思い出したようにヴォルフガングは懐から封筒を取り出した。


「そうだそうだ。忘れるところだった」


 その封筒を、馬車の窓越しに私に差し出してくる。


「アレクサンド殿下から」


 封筒を受け取り、何事かと首を傾げる。私の前に座ったロミーナは、戸惑ったように俯いていた。




 王城の門をくぐり、しばらく進んだ後に私は封筒を開ける。いつもの業務的な内容ではあるが、その内容は驚くものだった。


「……あの、ロミーナ。これって……」


 私が読み終わった後、手紙を受け取ったシヴァも内容を読んで目を見開く。人目に付いたらマズい内容だ。指示を出して、シヴァには魔法でその手紙を燃やしておいてもらった。

 私達から視線を向けられたロミーナは手にぎゅっと力を込める。


「……ご存じの通リ、アマトリアン辺境伯家は取り潰しでス。私は平民落チ」


 どうしてこうなってしまったのかと頭を悩ます。私が知る限り、ゲームにこんなストーリーは無かった。

 学園祭の後に旧ソプレス王国の反乱が発生。それをメロディや他のキャラで解決してエンディング……というのが基本的な流れのはずだ。

 いやまさか、私がプレイしていないステファンやセドリックのルートで、アマトリアン辺境伯の没落エンドがあったとか⁉

 ヤコブやイザベラに確認したいが、もう出発もしてしまったためすぐに聞くことはできない。手紙でのやりとりでこの内容を話すわけにもいかないし、完全に手詰まりだ。


「アレクサンド様からは、貴女を手伝ってあげて欲しいと来ていたわ」


 手紙の内容はアマトリアン辺境伯夫妻の不正についてだけではない。なるべくロミーナを巻き込まないためにも、ロミーナが証拠を見つけてきて持ち込んだ、摘発者であるということにしなくてはならないのだ。


「なんでも言って。手伝うわ」


「ありがとうございまス」


 安心したのか、ロミーナは目に涙を浮かべている。シヴァがハンカチを差し出すと、礼を言って受け取ってくれた。

 到着から2、3日以内に証拠を集めたらロミーナはアレクサンドの所へとんぼ返り。その際に護衛のほとんどを連れて行く計画とのこと。私はレポート作成があるし、ヴォルフガングの屋敷でお世話になることになるだろう。この話を彼は知っているのだろうか。道中、休憩のために停泊したら確認しないといけない。


「そういえば」


 ふとあることが気になり、私は涙を拭いているロミーナに声をかけた。


「セドリック様とは、どうなったの?」


 私の質問に、ロミーナは再び表情を暗くした。そういえば、手には銀の指輪をつけている。その宝石の名前は分からないが、それはセドリックの瞳を思わせる紫色だ。

 視線に気づいたのかロミーナは慌てて指輪を手で隠すと、鞄から封筒を取り出して見せてくれた。


「昨日、それをもらったノ……それデ、その後アレクサンド殿下から今回の話を聞いテ」


「じゃあ、この事態をセドリック様はまだ何も知らないと」


 私の言葉にロミーナは頷く。渡されたのは正式な婚約申込書だ。カンナバーロ伯爵家の当主のサインと捺印もあり、セドリックの名前も記入してある。後はロミーナとアマトリアン辺境伯当主の名前が記載されれば、婚約は確定してしまう。


「本当は帰省したラ、両親を説得してサインをもらうつもりデ……ステファン様との婚約解消の手紙ハ、もうそろそろ屋敷に着いているはずなのデ。それにサインするしかない以上、絶対に両親は次の婚約者を決めようとすル」


 背もたれに体を預け、全てを諦めたようにロミーナは語り続ける。


「大金で私を買ってくれル、成金の男の婚約者にでもネ」


「……じゃあ、この婚約申込書はどうするの?」


「新しい婚約者を決められる前ニ、サインさせるつもりだったんですけド……今セドリック様と婚約してしまったら彼にも迷惑がかかるワ」


「もういいの? セドリック様のことは」


 そう私が尋ねると、諦めたようにロミーナは微笑んだ。

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