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第152話 辺境伯夫妻の叱責

「落ち着け。カンナバーロ殿がこんな子供騙しの魔法、解けないわけないだろ」


「あ、なるほど……」


 魔法に長けたセドリックなら、解除はできるだろう。でも、シヴァの魔法だからなぁ。実はすごく難しい魔法と言うこともありえる。


「本当に大丈夫?」


「父親が魔法士団団長だろ。最悪父親に頼めばいい。それよりも、万が一中身を誰かに見られる方が問題だ」


 まあ、シヴァの言うことももっともだ。一瞬驚いてしまったが、そういうことなら大丈夫だろう。それなら念押しにと、より大きい封筒を取り出しお父様にカンナバーロ伯爵家へ送るよう伝えた手紙を同封する。

 メイドを呼び、セドリック宛の封筒とお父様への手紙を入れた大きな封筒をモンリーズ公爵家へ送るよう伝えた。

 そうこうしている内に、晩餐会へと招待される。手早く身支度を整えると、私はシヴァと共に食堂へと向かった。




 食堂にはすでにアマトリアン辺境伯夫妻とロミーナが来ていた。それぞれ座っているため、私とシヴァも席に着く。さすがに今回はロミーナに用事を言いつけるような意地悪はしないらしい。

 遅れてヴォルフガングもやってきたが、一番下座だ。彼が挨拶しても白けたように無視をしているのが、なんとも分かりやすい。


「なんだなんだ! みんな白けた顔をして」


 ヴォルフガングは元気に話すものの、この空気は変わらない。空気を読めという、シヴァからの視線にすら気付いているのかいないのか。

 その後、食事が淡々と進められていく。静かすぎるのがなんだか怖い。緊張してしまい、あまり味を感じない。

 後はデザートだけとなった時、口元をナプキンで拭いながら夫人が口を開いた。


「ロミーナ、後で話があるから部屋に来なさい」


「……はイ、お母様」


 婚約解消や、昨年行った脅しの件。どの話になるのかは想像がつかない。同じように考えたのか、ロミーナも体を強張らせながら答えていた。

 緊張はするが、ここからが始まりだ。なんとしても、アマトリアン辺境伯夫妻の不正の証拠を手に入れなければ。

 ちらりと視線を向けると、同じことを思ったのかロミーナも頷いてくれた。






***






 夕食の後、私はリリアンナ嬢の泊まる客間に向かった。本当は両親に呼ばれているが、向かう前に彼女に声をかけておかなければならない。両親が私に何かした時に、すぐにリリアンナ嬢やシルヴィア嬢が助けに来られるように。


「これかラ、両親の部屋に行きまス」


「分かった。ドアを開けておくから、何かあったら大声や物音で教えてね」


 真剣な表情でリリアンナ嬢は頷いてくれる。きゅっと私の手を握り、心配してくれるのがありがたい。リヒハイム王国に来てからというもの、こうして私の味方になってくれる人はいなかったから。


「えエ。行ってきまス」


 挨拶を済ませると、私は両親の執務室へ向かった。冷たい空気を纏った廊下は、冬のせいなのかこの屋敷の雰囲気のせいなのか。足先から上ってくる冷気に身震いしつつ、私は目的の場所に到着すると足を止め、ドアをノックした。


「入りなさい」


 父の低い声がする。中に入ると、両親はすでに揃っていた。執務室の机に父が座り、来客用の革張りのソファに母が座っている。父は私を睨むように見ていたが、何事も無いかのように母はティーカップを傾けた。


「呼ばれた理由は何か分かっているかな?」


「……昨年の、復興資金の横流しの件ですカ?」


 その言葉に、父は目を見開いた。母もぴくりと眉を動かす。どうやらこの話では無かったらしい。だとすると……


「婚約解消の件ですネ」


「その通りだ」


 正解だったようだ。父は再び私を睨むと、激しい音を立てて拳を机に叩きつけた。


「何を考えているんだ!! サンスリード公爵家に上手く取り入れと命じたはずだろう!」


「申し訳ありませんでしタ」


 この音でリリアンナ嬢やシルヴィア嬢が来ていたりするだろうか。父の怒鳴り声から、まだ大丈夫だと判断してくれれば良いのだが。

 そう冷静に考えている自分に気付いて、思わず笑ってしまった。今までだったら、父の怒りに怯えるだけだったのに。


「正式な婚約解消の届けが来たんだぞ!?」


「申し訳ありませン」


「まだ互いの落ち度とする円満解消の申し込みだったからマシだが、金を請求されていたらお前を縊り殺すところたったぞ!」


「申し訳ありませン」


「サンスリードのあの外れに、何か落ち度は無いのか!? あいつらの落ち度だと、金を請求してやる!」


「申し訳ありませン」


 ステファン様を、そうやって愛妾の子供扱いして見下すからこうなるのだ。でも、両親にその自覚はないのだろう。


「お前は、同じ言葉しか言えんのか!」


 父が投げた文鎮が足元に飛ぶ。ドア付近の所で立ったままで良かった。内心安堵していると、母がカップを置いた。


「やめて下さい」 


 一瞬、私を心配してくれたのかという期待が過ぎる。


「私に当たるじゃないですか」


 そんな幻想はすぐに霧散した。


「……申し訳ありませんガ、ステファン様には何の落ち度もありませン。ただたダ、何年も婚約関係にありながら気が合わなかっタ。それだけでス」


 深く礼をして答える私に、父はわなわなと震えている。しかし、正式な書類が出ている上、ステファン様に落ち度があるという明確な証拠はない。

 いや、メロディ嬢のことがあるだろうか。しかし、私と決着が付くまで彼女とは何も無いはずなのだ。両親だったらそれを理由に騒ぐかもしれない。絶対に隠し通さなければ。それが、ステファン様に対する私なりの手向けだ。


「もういい! 次の相手を見つけておくから、大人しくしておけ!」


 父の言葉に礼をして、私は部屋を出た。自室に戻ったように見せかけて、すぐ傍で聞き耳を立てる。得意ではないが、目眩ましの魔法と聴力の強化を使用しておく。やはり、ちゃんと魔法を勉強しておいて良かった。

 そう考えていると、セドリック様のことを思い出した。魔法が苦手な私に熱心に指導してくれた姿が忘れられない。しかし、頭を振って彼の面影を消すと、私は両親の会話に聞き耳を立てた。

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