お台場ダンジョン3
その日、陽が昇ると同時に僕達は台場ダンジョンへと向かった。
周辺一帯はドロドロに溶けた大地が広がっており、旧テレビ局のあった所には、宙空に直径二十メートル程の真っ黒な闇が渦を巻くように存在していた。
僕は何の躊躇いもなく、ミィを担いだままその中へと飛び込んでいった。
空間が歪むような気配を感じた後に硬い地面に降り立った僕達の前には、壁が薄く光るゴツゴツした岩肌の洞窟が伸びていた。
「洞窟型かぁ、じゃあ、最初はゴブリンかな?」
ミィがライトで生み出した光球を追いかけるように、僕達が散歩でもしているかのように足を進めていくと、横穴から五匹のゴブリンが飛び出してきた。
「どうする?始めのうちはミィが戦ってみる?」
「そうじゃの、儂も力を取り戻していかなあかんからの。風刃。」
ミィから放たれた大きな風の刃は、一瞬にして五匹の部位に関係なく当たった部分を切断した。それが通り過ぎた後には、声を上げることもできずに両断されたゴブリンの死体が転がっていた。
「少し威力が大きかったかの?オーバーキルじゃの。」
そんな感じで、一階は僕が戦うことは一度もないままに、一時間ほどで周回が完了して僕達は下の階へと向かう階段を降りた。
数十分で魔物が再度出現してくるダンジョンもあれば、数日経たないと新たな魔物の出現がないダンジョンも存在するが、気配を察知しても全く感知できないところから、ここのダンジョンは、魔物の再生に時間がかかるように思えた。
次のフロアには、ゴブリンの集団に加えてオークが混ざるようになり、ゴブリンの中にもメイジやソルジャー、ストライカーなどのジョブを持つものが増えてきていた。
「二階層でジョブ持ちが増えてくることを考えると、十階層のボス部屋にはゴブリンキングとかいそうだね。」
「そうじゃの、さして脅威にはならんがの。」
そんなことを会話しながら、僕達は足を止めることなく進み続け、十時間ほどで、九階層の三十匹程で徒党を組んだゴブリンとオークの混合部隊が出現してくる階層を蹂躙して十階のボス部屋の前に立っていた。
「さてさて、ここで一息つけるけど、ボスを倒してから休憩するか、ボス戦の前に休憩するかだけど、どうしようか?」
「希望を言っていいなら、儂はご飯の前に戦闘を終わらせて、終わった後にお風呂に入ってからゆっくりしたいの。」
「そうだね、それが良いね。」
そう言いながら、何の躊躇もなく僕はボス部屋の扉を開けた。まるで東京ドームのように広い空間には、千匹以上のコブリンの頭が視界を覆い、その後ろに、鎧で身を固めたゴブリンソルジャーやメイジが並び、その後ろに更に武器を持ったオークの兵士達が列を成しており、更にその奥にゴブリンジェネラルやオークジェネラル、更には一番最後尾に通常のゴブリンの十倍程の体躯を持って、全身鎧と長剣で武装したゴブリンキングと思われる存在があった。
「こんなに数を揃えても意味ないのにね。やっぱり判んないのかな。」
そう言って、僕は魔法を唱えた。
「暴風、更には石弾乱れ撃ち。」
僕は暴風の魔法の中に、数十発の石弾を織り混ぜて、その集団の中に撃ち込んだ。
「相も変わらずエグい魔法じゃの。」
呆れたようなミィの言葉に、
「ミィだって、早く終わらせてお風呂に入りたいだろ?」
「そうじゃの、その通りじゃの。」
僕が尋ねると、軽くため息をつきながら彼女も答えた。
暴風が五分ほどその空間を蹂躙した後に立っていたのは、二頭のオークジェネラルと怒りに我を忘れたゴブリンキングだけだった。
足を鈍らせるオークジェネラルにゴブリンキングが咆哮のスキルで気合を入れると、彼らは一目散に僕達に向けて突進を開始した。
「そうじゃの、こちらでの魔物の強さはまだ十分理解できていないから、儂がジェネラルの方に対応してみようかの。」
「了解。」
そう話しながら、ミィは空間庫より自分の背丈よりも長い片刃刀を取り出し、僕は死神の鎌のようなデスサイズを取り出した。
ミィは抜き身の刀を腰に添えたまま走り出し、僕はデスサイズを背中に担いだまま走り出した。
あと三十メートルほどになった時に振るったミィの刀は離れたオークジェネラルの身体を二頭まとめて両断しており、そこから前方高くに飛んだ僕は、ゴブリンキングが振るった剣を軽く交わして、キングの頭よりも高い位置へと飛び上がり、その振り下ろしたデスサイズは刃の部分が巨大化して、ゴブリンキングの脳天から突き刺さり、胸の心臓当たりの部分から先端が飛び出してきた。
「相変わらず鋭いのう、儂はお主と敵対せんでホントに幸せやと思う。」
そんなミィの言葉が終わらぬうちに、三頭の死体は空間に塵のように消えていき、そこには赤褐色のバレーボール大の魔石と黄褐色のソフトボール大の魔石が二つ残されていた。
「終わったの。」
ミィがそう呟いたと同時に頭の中に世界の声が響いた。
【台場特級ダンジョン、第十層のボスが討伐されました。一層から十層を閉鎖できますが希望しますか?】
「へぇ、この世界のダンジョンはボスを倒すと、その支配下にあるダンジョンを閉鎖できるんだね。珍しいね。」
「そうじゃの、こんな形態聞いたことがないの。」
【どうしますか?閉鎖しますか?十、九、八、七…】
「ヤバい、閉鎖します!閉鎖をお願いします!」
【了承しました。台場ダンジョン一層から十層を閉鎖します…完了しました。】
その日、地球で初めて特級ダンジョンの一部が閉鎖され、それは世界の声を経由して全世界へと伝えられた。




