某国国防軍最高司令部からの日本国防衛軍本部
「東京、台場にある特級ダンジョン周辺に強い熱源を感知しました。火災は急速に周辺に波及しています。」
多くのモニターが設置された部屋に突然響き渡ったその監視官の言葉で、その空間に一斉に緊張が広がり、極東を担当していたその監視官とモニターに注目が集まった。
「火龍が、また特級ドラゴンが出現したのか!」
司令官の言葉に再び緊張が増したが、次の監視官の言葉に、その場の誰もが戸惑いを覚えた。
「ち、ち、違います。もっと小さな存在です。大きさで言えば、子供くらいの体格だと言えます。すく傍にそれよりも小さな存在も確認できます。ただ、高エネルギーは、その宙に浮かんだ大きい方から噴出しています。その勢い、と、止まりません!」
「か、観察を続けろ!残存している周辺の偵察衛星の焦点を可能な限りそこに合わせるんだ!」
その日、日本より遠く離れた大陸の地下深くにある基地は大騒ぎの状態となった。
地球にダンジョンが生まれ、そこから魔物が溢れて混乱が発生した時に、この国で真っ先に起こったことは住民の暴動だった。至る所で暴動や略奪が発生し、治安は一気に悪化した。
住民を守る為に出動した軍は、魔物ではなく暴徒と化した集団に襲われ、攻撃を躊躇した軍人達は次々と武器を奪われ同胞であるはずの人間に次々と攻撃された。そこから住民の治安を回復するためだけに国は六ヶ月を要し、その間に溢れた魔物はあっという間に周辺へと広がっていった。
「当時、かなりの数を占めていた移民達には自分や家族を守るという信念はあっても、国を護るという意思は無かったから当然の結果と言えるんだがな。」
そんなことを呟きながら、モニターに目を向けていた司令官の目は、炎の中心部より外れた対岸に突然箱様の建築物が出現したのを捉えた。
「おい!台場の対岸の埠頭のモニターを拡大して映し出せ!」
その指示に従って映し出された巨大モニターには、箱状の建築物の前で焚き火をし、料理をしている二名の子供が映し出されていた。
「こいつら何をしてる?魔物が恐くないのか?」
と言ってるそばから、草叢から飛び出したウルフと思われる獣が、そこから離れた何もない場所で弾き飛ばされている光景が映し出された。
「な、何が起こった!」
「お、おそらくは結界のようなものだと思われます。」
「あの二人は、普段通りに活動しながら常時結界を展開できる能力があるというのか?」
「わ、判りません!もしかすると結界を展開する魔道具のようなものかもしれません。」
「そんな報告は、日本からは上がってきていないぞ!おい、自衛隊本部に繋げ、直接俺が確認する。」
そう怒鳴って、椅子にドカッと腰を下ろした彼が組んだ両手の指をイライラと動かしていると、自衛隊本部と繋がったという連絡が入った。
「私は合衆国国防長官のスミスだ。近藤防衛大臣か、土方防衛副大臣をお願いする。」
暫しの時間のあと、焦ったような近藤の声が響いた。
「おまたせしました。近藤です。お話を伺います。」
「単刀直入に聞こう。貴方方自衛隊は東京台場の特級ダンジョンの現況をどう捉えている?」
「東京台場?特級ダンジョン?」
この言葉だけで、自衛隊が現在東京で進行している事態を何も把握していないことが判った。この国は昔と何も変わっていない。呆れたスミスは彼に現況を確認するよう伝えて連絡を切った。
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「ヤバい、ヤバい!突然あんなことを言われたら答えようがないよな。バレなかったかな?」
モニターや無線機、その他諸々の機器が並ぶ少し暗めの部屋の中で、がっしりとした体格の軍服をまとった中年のおじさんが少しテンパっていた。
「大丈夫ですよ。実際焦っていたみたいですから、何も知らない風を装えたと思います。」
その近藤大臣の言葉に応えたのは、まだ二十代にも見える長いストレートの黒髪を持ったスラッとした女性で、背中には太刀と呼んでも問題ないほどの長さを持った長刀を背負う土方副大臣だった。
「まぁ、実際にダンジョン観察用に設置されていた器具は全て破壊されていますので、現況は全く把握できていないというのは事実なのですけどね。」
「現地に向かわせた部隊は、どうなっている?」
その質問に、あまり結果が芳しくないのか土方副大臣が嫌そうに答えた。
「陸上からの探索は、魔物の多さから不可能と言えるのですが、横須賀の前線基地から数名の特殊部隊員を小型特殊潜航艇を利用して派遣しました。ただ海竜や巨大魚の魔物も多く、困難を…」
話している途中に連絡が入ったのか、土方副大臣は口を閉ざした。
「海からの偵察も失敗したようです。こうなれば夜間に虎の子のドローン使うしかないかもですね。夜なら鳥型の魔物に襲われるリスクも減りますから。観察場所は台場ですと熱で破壊されるリスクが高まりますから、対岸の品川埠頭でよろしいですか?」
「あぁ、それで構わん。お前に任せる。」
その指示に敬礼を返した土方は、部下にテキパキと指示を伝えていた。
その夜、ドローンの暗視カメラから送信されてくる映像には意外な光景が映し出されていた。
「日の出埠頭、芝浦埠頭、品川埠頭、大井埠頭、その何れにも魔物は確認できません。更にその周辺の天王洲地区、旧海洋大学などの運河に隔たれた地区にも魔物の姿を捉えられません。駆逐されたと判断します。」
監視員の言葉は、皆が待ち望んでいた言葉の一つではあったが、理解は全くできなかった。
「その地区には、優に万を超えるどころか数十万の魔物が巣食っていたはずだ、それらを大地を破壊することなく、一匹残らず駆逐したということか?一体、何が起こっている…」
その頃には既に夜が開けていたが、魔物の襲来もないため、ドローンは更に探索を続けていた。
「品川埠頭に人工の建築物を確認。あっ、中から少年と幼女と思われる人族と思われる姿を確認しました。少年の視線がこちらを向いています。捕捉されたようです。」




