東京3
自分の記憶を頼りにいくつかのホームセンターやデパートの跡地を探したけれども、どれもこれも瓦礫に埋もれており、原型を留めるものは一つもなかった。
薄っすらと夜が明け始めた頃、旧東京駅周辺で半壊したビルを見つけた。
「あっ、あそこのビルは◯善という書店だった所だから何か見つかるかもしれない。」
そう言って、崩れ落ちたビルの前に立ち、土魔法と風魔法を応用して、瓦礫を次々と吹き飛ばしていくと、燃えかすとなった本以外にも、まともな姿を残した物がかなりの量見つかった。それらを分別することなくまとめていくと、それは小山のような量となっていた。
「結構残っているもんだね。関係ないのもたくさんあるけど、何に使えるか分からないから、とりあえずは一旦全部収納してしまうね。僕の空間庫なら必要な物だけ取り出せるから。」
そんなことを言いながら片付けする僕に飽きたのか、ミィはかつての東京駅の方へと探索に出かけた。僕は漫画の本も見つけていたから、まだ読みかけだった作品を頭に浮かべると、僕が居た頃の最新巻以降にも、三巻ほど発行されていたことが判った。僕は即座にそれを取り出して読み始め、それを止めることができずに読みふけっていると、頭をスコーンと叩かれた。
「お主は何をやっておるのじゃ?それはそんなにも大切なことなのかの?」
ミィの問いかけに顔を真っ赤にして言い訳する僕を見て、彼女は僕が手にしていた漫画を取り上げるとそれに目を通し始めた。
「読めるの?」
僕の質問に答えることもなく、彼女はそれを一気に完読してしまった。
「続きは?」
「へっ?」
彼女は怒ったように僕の襟首を掴んで睨みつけた。
「早く続きを出せ!」
僕は空間庫からその次の巻を取り出しながら、恐る恐る彼女に尋ねてみた。
「最初の巻から揃ってるみたいだけど…読みますか?」
すると、彼女は手にしていた巻をそっと丁寧に隣に置いた。
「当たり前なこと聞くものではない。素直に出せ!」
その日は一日その近くの建物の屋上だった所で時間をつぶすことになったが、餌がないためなのか周辺に魔物の数は少なく、せいぜい三百匹程度のゴブリンやオーク、コボルトなどを処理したぐらいで、オークを討伐したあとで、空間庫で収納解体して手に入れた肉を加工して、薫製やジャーキーを作製するのに要した時間の方が長かったぐらいだった。
ちなみに僕の空間庫は、魔物を丸ごと収納すると、その必要な部位だけを取り出すことができるので、一々解体する必要が無く、しかも当然時間停止機能付きなので、そのまま保存しておけば永久に新鮮なままの保管が可能だった。
空間庫の中には自分での処理が不可能だった多くのドラゴンやゴーレム、海竜や巨大魚などなど様々な魔物達が収納されたままになっていたが、今の僕にはどうすることもできず、時間停止機能付き容量無限大を良いことに放置していた。
先ほど討伐したオークのロースやヒレを加熱した石の上で焼き、不安はあったがデパートの探索中に見つけたスパイスや塩を使って味付けしたものを食べながら、僕はミィと今後の方針について話をした。
「まともな物は残ってないと思うし、さっきの本屋でかなりの情報は手に入れることができたから、この後の方針として、港にあったコンテナから綺麗な物をいくつか手に入れて、中に周辺のホテルや建物から原型を留めている風呂やトイレを持ってきて拠点となるホームを作りたいと思うんだけどどう思う?」
その僕の提案に、ミィは眉を顰めていた。
「一つ聞きたいんじゃが、海の近くに巨大な魚のような形をした船のような物がゴロゴロ転がっていたが、あれは何に使うものなのじゃ?」
「えっ?あ〜あれは、そうかクルーザーなら中に必要な物が揃ってるかもしれない!さっそく明日横浜の方へ行ってみようか?」
次の日の朝、ミィを肩に担いで、僕が知っている中でも最大級のハーバーである横浜ベイサイドマリーナへと向かった。
「殆ど壊れておるの。」
小さな船では、必要な物が揃ってないと考えたので、比較的大きな物を探したが、どれもこれも踏み潰されていたり、真っ二つに割れていたり、焦げ付いていたりした。
「ドラゴンか海竜が襲来したみたいじゃの。殆ど破壊されておる。」
諦めて帰ろうとした時、綺麗になって透き通った海の中に、二十メートルほどの船が沈んでいるのが見えた。
「あっ!あれはどうかな?」
その船は幾つかの鉄骨のような大きな建材で押し付けられるように海底に沈んでおり、船体はほぼ無傷な状態のようにも見えた。試しに僕が水魔法でその船周りの水を操作して大きな瓦礫を除去していくと、その船は自分の力で海上へと浮かび上がってきた。
「これ、中に海水も入ってないみたいだし、かなり状態良いんじゃないのかな?」
僕は船底にある水を操作して、それを陸の方へと移動させ、更に水ごとその船を陸の上へと揚げた。
船体は水苔や貝殻で覆われて見るも無残な状況となっており、海水に浸かっていた部分はまともに使用できる状態とは思えなかったが、そのハッチを強引に開けて中を見たその瞬間に、僕の心は感動に震えた。
確かに固定されていない家具や食器などの物品が散らばっていたが、船内は水に沈んでいた船とは思えないほど良好な状態と言えた。
「これは使える!」
そう判断した僕は、船体周辺にアイアンボックスを土魔法で作成し、その中に船体を収めて隙間には土魔法で砂を詰めて固定した。デッキ部分の汚い部分を風魔法で切断し、ハッチ以外をやはりアイアンプレートで塞ぐと、目の前には中に小綺麗な1LDKを閉じ込めた鉄の箱が、その存在感を強烈に主張していた。
「できた。これをダンジョン探索の拠点にしたらどうかな?」
そばで僕のやることを冷めた目で見ていたミィが、ボソッとした声で僕に尋ねた。
「これって、光は光魔法でどうにかするとしても、外界と全く連絡ないから風も通らず、空気がかなり悪くなるのではないか?儂らは空気など無くてもどうとでもなるが、あまり気持ちの良いものでもないの。それにここまで加工するなら、これまで見てきた建物の中にも原型を留めていた部屋が たくさんあったから、それを同じように利用すれば、窓もあるし風も流れるような部屋を作ることが可能ではないのかの?」
「あっ!」
そうして僕は、できたばかりのアイアンボックスを海へとポイ捨てし、海沿いにある倒壊したマンションの中で、いわゆる最上階の物件で原型を留めていた物を探し出して風魔法で切り出すと、その周辺にアイアンプレートを設置することで補強して拠点を作成してみた。




