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明治神宮ダンジョン2

これ以上の配信はダンジョンが深くなることを理由にして中断したが、単に僕が面倒くさくなったことが理由だった。


その日は第二十一層前の広場で一夜を明かして十分に休憩を取ると、翌日からの僕達は、雷公の背に乗り、まるで普通のダンジョンと変わらぬ様相の明治神宮ダンジョンを駆け抜けていった。雷公のスピードについてこれるような魔物は全く見当たらず、仮に偶然前に立ち塞がっても、彼の稲妻であっという間に灰へと変わり、僕達三人の出る幕は全くと言って良いほどなかった。


彼の背に自分の身体を魔法で固定しているので、落ちる心配など全くすることなく、それこそお茶しながらのダンジョン制覇は楽で良かったけど退屈だった。ダンジョンボス戦だけは、ミィとメギドが交代で行うこととなり、リザードマンキングのその近衛隊、キングミノタウロスとその仲間達、珍しい所では、ライオンと蟻の特徴を兼ね備えたミルメコレオと呼ばれる蟻獅子、エンペラーワイバーンの四頭が大きな魔石へと姿を変えた。


世界の声が響き渡る中、ダンジョンはその都度閉鎖していき、六十一層の、前の広場で二夜目を明かして休憩した僕達の目の前には、生者の匂いに集まってきたのか、隙間がないほどにびっしりと並んだワイト達がいた。見た目は生前の姿とほぼ変わらず衣服も身に着けており、剣を持つ者もいれば、杖を持つ者や弓を持つ者もいた。しかし軍隊としては全く統一されておらず、そのワイトを率いる存在はどこにも見当たらなかった。


「今回のダンジョンはアンデッドの関連かもしれんの。」


「じゃあ、マスターはエルダーリッチか真祖あたりかな?」


「行ってみれば、判るのじゃ。二天収縮胞、光天と焔天。」


メギドから放たれた浄化の焔が階層を右から左へと蹂躙し、ワイト達は一瞬で灰へと変わっていった。


六十二層はグール、六十三層はゾンビときて、それぞれミィの浄化の豪雨とメギドの二天収縮胞、光天と水天によって浄化し洗い流してもらった。


「グールもゾンビも臭いからね。あの匂いはホントに我慢出来ないよね。身体に染み付いちゃうもんね。」


そう呟く僕の言葉に二人と雷公はウンウンと頷いていた。


次の階層に降りて周りを見渡すと、辺り一面に墓石が並んでおり、レイスやファントムなどのゴースト系の魔物がフラフラと浮かんでいた。


「これまた簡単なフロアじゃの。光魔法で一発じゃな。」


そう言って、ミィが全身から目を開けられないほど眩しくなるくらいに光り輝くと、それらは蜘蛛の子を散らすように僕達の周りから姿を消していた。


「別に討伐する必要ないなら、これで充分じゃろ。さぁ雷ちゃん、急いで行くのじゃ。」


そうして僕達は難なく六十四層を駆け抜けた。


第六十五階層前の広場でお昼休憩をとることにして、空間庫に保存していたサンドイッチをテーブルに並べ、各種果汁の入ったデキャンタを隣に置いた。体力的には全く問題なかったが、不死系の魔物は、相手が人間の姿をしていることで、つい生前の姿を想像してしまい、精神的には今でも少しキツくて僕の食欲はあまり進まなかったが、二人と雷公にはあまり関係ないようだった。


「レンは何を気にしてるのじゃ?不死系の魔物は生まれた時から死体じゃぞ。元々は生者の不死系魔物など滅多におらんぞ。というか、ダンジョンでは見たことないぞ。」


その言葉に驚いた僕は、あまりの内容に衝撃を受けた。


「えっ?あの魔物達って、元々は生きてた人間じゃないの?」


「そんなわけないじゃろ。ダンジョンが誕生して、まだ誰も中で死んでないのにスケルトンやらグールが出てくるんじゃぞ。魔素から生成されるに決まってるじゃろ。」


その言葉に、僕は目から鱗が落ちた。何千年とダンジョン内で戦い続けたが、出てくる不死系の魔物はダンジョン内で死んだ人達から生成されたものだと信じ込んでいた。言われてみれば出来たてのダンジョンに入った時にも不死系魔物は湧いており、どれだけ燃やし尽くしてもその出現が止まることはなかったことを思い出していた。たった今、僕の殺された人をもう一度殺すのかと悩んでいた不死系魔物に対するトラウマは消失した。


「次の階層からは僕に任せてくれるかな?」


そう言って、第六十五層に足を踏み入れると同時に、僕は強烈なテンペストを発動させ、階層内の全てのスケルトンが粉々になるまで一匹たりとも渦の中から逃さずに、声を出して笑いながら処理した。


「レンの知らない一面を見たような気がする。」


二人がそんなことを話していたことには気づいていたが、僕は無視して次の六十六層のキングやジェネラル含めたスケルトン軍団全てを粉に変え、最終的にはその粉を固めて記念碑まで作ってあげた。


「レンやりすぎじゃ。」


「我もそう思う。」


ミィの言葉にメギドと雷公も頷き、次の階層からは再び三人に主役を譲ることにした。


次の階層は、デュラハンとリッチが支配する階層だった。物理攻撃力の高いデュラハンと魔法攻撃力の高いリッチの組み合わせは、通常なら些か厄介な相手のはずだが、僕達三人と一匹にとっては物の数にも入らなかった。


僕の展開する魔法障壁を貫通する魔法が射てるわけでもなく、僕の展開するドーム型障壁を突破できる物理攻撃を使えるわけでもない騎士や剣士は、ただの木偶の坊と変わりなく、僕達は雷公の背でのんびり揺られながら、ただ通過していくだけの階層だった。


第六十八階層の広場の前には、銀髪の二十歳くらいのイケメンの男が一人だけで立っていた。


「なんか用?」


「こっちは長いこと待っていたのに冷たい態度だな。おじさん、ちょっとガッカリしちゃうぞ。」


驚いたことにこの吸血鬼(ヴァンパイア)らしき男は、人の言葉を話した。ダンジョン内の魔物にしては珍しい存在と言えたが、豊洲ダンジョンの時と同じようにコアにされた存在に付随してこのダンジョンに飛ばされたと考えると、おかしなことでもなかった。


「このフロアにはおじさんしか居ないの?」


その質問にその男はニヤリと笑った。


「やっとまともな会話をする気になったみたいだね。感謝するよ。あぁ、質問の答えだけどね、この層とこの下の階層にいた魔物はすべて処理してしまったよ。もし魔石獲得を考えていたなら迷惑をかけたかもしれんな。」


彼の言葉は真実も含んでいたけど、自分に都合の良い虚偽も交えているのが判ったので、何とか情報を引き出そうと僕が主体となって、障壁越しに会話を続けることにした。


「おじさんは、どうしてこのダンジョンに閉じ込められたの?他の人達は居ないの?」


その質問に安っぽい歪な笑みを浮かべながら、少し大げさに同情を引こうとするかのように彼は言葉を続けた。


「それはもう突然、気がついたらここにいたって感じだよ。まぁ、それ以前に僕達の暮らす星には異変があったんだけどね。」


「どんなことが起こったの?」


「子供には難しいかもしれないけど、突然ある時を境に生命を持つ物全てが死に絶えたんだよ。動物だけでなく植物や、それこそ判らないかもしれないけど微生物と言われる目に見えない生物まで全てが死んだ。世界に残っていたのは、俺達吸血鬼(ヴァンパイア)を含めたアンデッドだけだった。」


想像するのが難しかった。ある一瞬を境に突然生命が死に絶えることがあるのだろうかと思考を重ねていると、横からメギドが口を挟んだ。


「通常の神や魔物の即死攻撃が、星全体に拡がるなどとは考えにくい。その生物が生命維持に絶対に必要となる酸素とかが消失したとしても、一瞬の突然死は生じない。」


その言葉に吸血鬼は驚いたように声を漏らした。


「お嬢ちゃん、小さいのに物知りだねぇ。仲間のボスが言うことによると、微生物までもが死に絶えることは通常では起こり得ず、ルールつまり世の理が書き換えられたとしか考えられないって言ってたね。例えば生を拒否する神が降臨したとかね。それこそ僕達の主神に相応しい存在だよね。」


僕はその言葉にまず違和感を持った。吸血鬼(ヴァンパイア)は生物の生体エネルギーを糧とする魔物であり、生者のいない世界で存在し続けることは不可能だったからだ。僕はこの時点でこいつから得られる情報はもうこれで終わりだなと考えていた。奴の頭の中には僕達から血を吸うことしかないのが理解できていた。


「このダンジョンには、他には生物いないから僕達から血を吸うことしか考えてないよね。」


その言葉に表情を変えた奴が、高位の魔法を次々と僕達との間にある障壁へと放ち始めたが、それはびくともせずに僕達は呆れたような表情で奴を見ていた。


「開けろ!開けやがれ!てめえらみたいな劣等種は、さっさと俺の餌になれば良いんだよ…」


その言葉を言い終わらぬうちに、彼の身体はグチャグチャグチャと押し潰されるように縮み始め、ビー玉程の大きさになった時点で目の前から消えた。


「どこに飛ばしたんじゃ?」


「五十八層の火山フロアの中心にあった一番大きな火山の火口の奥底にあったマグマ溜りの更に奥のマントルに放り込んだ。燃え尽きなかったとしても出てこれないと思う。」


「しかし、弱そうな奴じゃったの。あんなんで、二階層制覇なんてできるんじゃろか?」


「どうやら、吸血鬼のボスがダンジョンボスに挑むために、フロアにいた同族やリッチを連れて行ったらしいよ。それで全滅したらしいけど、奴はボスを前にしてビビって死んだふりしてやり過ごしたらしい。」


「元々死んでるのに死んだふりとは呆れるな。よく見逃してもらえたな。」


「たぶんダンジョンボスも呆れたんだろうね。」


そんなことを雷公の背で話しながら、階層を降り続け、三十分後には、僕達は七十階層のボス部屋の前に立っていた。

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