明治神宮ダンジョン
今回の攻略は、僕とミィとメギドの三人で進めていくことになった。僕達はその実力から全く様子を見ることなく、ただサクサクと攻略だけを念頭に進めれば良かったので、一層を攻略するのには十分もあれば充分だった。
「なんか面白みのない階層ばかりじゃの。お主らも前回の攻略はかなり退屈だったんじゃないのかの?」
メギドの言うように、ここの第一層から十層は、台場ダンジョンと同じように、ゴブリン、コボルト、オークが主体であり、時折りボアや角兎、ウルフが出現する程度で僕の出番はほとんどなく、合衆国国防軍が使用している携帯カメラを回しながら実況するのが、今回の僕の役割のようだった。
「おそらく、ダンジョンマスターの影響が出てくる階層は、少なくとも三十階層、場合によっては五十階層以下になると推察できるから、遠慮せずにバンバンやっちゃっていこう。」
と言ってる側から、ミィの放った直径十メートル以上の大火球が、大地を焦がしながら飛んでいき、魔物だけでなく数百メートル先までの大地さえも真っ黒に焦がしていた。
個人的に身体強化を完璧にこなす僕達は、環境とかを考慮する必要も全くないので、融けた大地の上を平気で走り続け、出会った魔物を片っ端から屠っていき、結局二時間弱で十層のボスフロアへと到達した。
「ここのボスフロアには、どんなボスがおるのかの?」
と言いながらメギドが扉を開けると、そこには千を越えるゴブリンとコボルトとオークの武装した兵が整列しており、背後にはそれぞれの種族のジェネラルやキングの数十匹がそれらを従えるように並んでいた。
「つまらんの。お台場の時とあまり変わらんの。」
ミィの言葉が終わらぬうちに、メギドの二天収縮砲の光の帯が右から左へと流れ、その場にいた魔物はキングも含め一刀両断されて光の粒子へと変わっていった。
「あっけないの。次はもう少し手応えがあると良いのじゃが…」
そのメギドの言葉が終わらぬうちに世界の声が響き渡った。
【明治神宮特級ダンジョン、第十層のボスが討伐されました。一層から十層を閉鎖できますが希望しますか?】
「へぇ、これが世界の声かの?初めて聞かせてもろたけど、なんか無機質な声で愛想があんまりないの。これで閉鎖するを希望するとその支配下にあるダンジョンを閉鎖できるんやろけど、私はこんな経験するの初めてじゃないやろか。」
「そうじゃの、儂も初めてじゃったからの。」
【どうしますか?閉鎖しますか?十、九、八、七…】
「ヤバい、こらさっさと返事する!閉鎖します!閉鎖をお願いします!」
【了承しました。明治神宮ダンジョン一層から十層を閉鎖します…完了しました】
「感想を言い合うのを否定する気はないけど、やることやってからね。」
「「はぁい!」」
「判ればよろしい。じゃあ、少し早いけど食事にするね。今日のお昼は、君達の大好きなフワフワパンケーキがベースだからね。」
そうして僅かな時間で食事とデザートを済ませ、僕達は更に下の階層へと向かった。次の十層は台場ダンジョンと同じように獣系の魔物が主体を占めていたが、ゴブリンやオークのような亜人種の姿は激減しており、ウルフ系、ボア系、ディア系を始めとして、ベア系やバッファロー系がよく見らやるようになり、ミノタウルスの姿を時折り見かけるようになっていた。
再びミィとメギドの魔法が連発され続け、僕達はあっという間に階層を駆け降り、やはり二時間弱でボス部屋へと辿り着いた。
「今度は、儂が開けるのじゃ。また雷公みたいなのだったら嬉しいんじゃがのう。」
「ん?雷公って誰なのじゃ?」
「あれ?会ったことなかったっけ?あっ、そうか。忙しかったから世界樹の部屋に預けたままにしてた。」
そう思い出して、僕が世界樹の間を覗いてみると、体長が十メートル以上にもなり、三本の角を生やし、蒼白い毛並みに縞模様の黄金の毛を生やし、全身から青白い雷光を放っている蒼い目をした雷氷狼が、睨むようにこちらを見ていた。僕はヤバっと思ってそっと部屋を閉じた。
「ん?どうしたのじゃ?」
「怒ってる。たぶん放置されてたことですごく怒ってる。」
僕の言葉にミィは、少しムッとした顔になった。
「あ奴は誰が自分の主人であるか判っておらんのか?少し説教する必要があるのじゃ。」
「じゃあ、説得お願いね。」
と言って、僕はミィを世界樹の間へと放り込んだ。
「しばらく時間掛かると思うから、少しお茶しようか?」
そう言って、僕はテーブルと椅子を出し、メギドと二人で、甘々のロイヤルミルクティとチョコレートクッキーでティブレイクを楽しんだ。メギドは僕と二人の時間が嬉しかったのか、満面の笑みで紅茶もクッキーもおかわりをしていた。ミィと雷公が出てきたのは、一時間ほど経ってからのことだった。
疲れ切った葉っぱや花びらや土まみれの姿で、ほっぺを涎でベトベトにされたミィが僕たちを見て、
「儂がこんなに苦労しているのに、お主らばかりズルいのじゃ!」
と言ってテーブルをひっくり返したので、軽く詫びを入れて雷公も含めたティブレイクをセットしてから、自分の姿に気づいてなかったミィにグリーンをかけてあげた。
「寂しがっていただろ?その姿があまりに可哀想で怒るに怒れなくて、じゃれてくるままにしてたらそうなったんじゃないの?」
僕の言葉にミィは頷いた。
「雷公、お前もミィに良い所見せたいだろ。次のボス戦はお前が頑張ってみるか?もちろん危なかったら、僕達も手伝うけど、お前なら心配ないだろ?任せて良いか?」
僕のその言葉に雷公は満面の笑みで答え、ミィはまだ少し不安だったみたいだが、次のボス戦は彼に任せることとなった。
ダンジョンボスは千頭以上の狼達を従える体長三十メートル以上ある闇黒狼で、配下には十メートル以上ある炎狼や氷狼が十頭程は確認できたが、僕達が確認できたのはそこまでだった。
雷公は全身から青白い稲妻を撒き散らしながら宙を駆け、あっという間にボス達の所に到達したかと思うと、両腕を交差するように振り、そこから放たれた八本の雷刃が炎狼と氷狼を真っ二つに切り裂き、口から放たれた巨大な雷球がボスへと放たれると、全身を雷に覆われたボスは直に光となって消えた。
【明治神宮特級ダンジョン、第ニ十層のボスが討伐されました。十一層からニ十層を閉鎖できますが希望しますか?】
「ワン!」
雷公が吠えると、それに世界の声が応じた。
【了承しました。明治神宮ダンジョン十一層からニ十層を閉鎖します…完了しました】
僕達は、目を丸くして雷公の活躍を見ていた。奴がここまでできるとは考えておらず、世界の声と会話できていることにも驚いていた。
ーーーー
日本国政府執務室では、岸破首相と石田大臣、某国駐日大使、秘書二人が目を皿のようにしてモニターに釘付けになっていた。
彼らが見始めたのは、第十層のボス戦からであったが、時折呟きが漏れる以外は殆ど会話もなく、それ以後の戦闘をひたすら画面に集中して見続けていた。
「私は国に帰ります。先ほどの私の提案は無視して頂いて構いません。あんな化け物共を私達人間が何とかできるとは思えません。かつて特級ダンジョンに原爆を撃ち込んだ時の二の舞はゴメンです。あのドラゴン共の悪夢は今でも容易に思い出せます。私は全力で国を説得します。」
そう言い残して駐日大使は執務室を出ていった。
「ドラゴンなんかより知性がある分余計にリスクが高い。奴らが、あの化け物共がこの国を敵だと認定すれば、この島なんて一瞬で滅ぶぞ。私は、もう真日本国や地球連邦共和国には絶対に関わらない。」
岸破の言葉に石田は驚いた。あの業突く張りの人間が潔く身を引く姿を見たのは初めてだったが、それならばそれで良いと受け流した。ただ自分は違うと新たに決意を固めた。石田はあの驚異的な破壊力を好意をもって受け止めており、あのグループにうまく入り込めれば、自分の栄誉は思うがままであり、世界を手中にできるかもしれないとまで身の程知らずに考えていた。今はその策を練る時だと考え、嫌らしい笑みを浮かべながらその部屋を後にした。




