三国会談3
「先ほどの僕の言葉には実感が湧かないと思いますので、取りあえず皆様に体験して頂きたく思います。皆さんはその位置から動かないで下さいね。」
レンがそう言ったのと同時に、周囲の壁はすべて消え去り、彼らは椅子に座ったまま東京上空に浮いていた。
「床がなくなるのは不安だと思いますので、それは残しておきました。外界からは結界で遮断されていますから、風はないし、寒くもないと思いますから、このままいろいろと見学しましょうか?」
先ずは近場の富士山山頂、その絶景に目を奪われている暇もなく、次は氷山がたくさん浮かんだ北極海の上空、その白と青のコントラストに驚いている暇もなく、次に見えたのはニューヨークのリバティ島に立つ自由の女神像の倒れた姿であった。倒れてはいても原型はほぼそのまま残されており、スミスの目からはポロポロと涙が溢れた。
「もう、もう二度と見れないと思っていた…」
彼が感慨に耽っていると、地上から全長百メートル近くあるであろう竜が飛び上がってくるのが見えた。
「竜だ!巨大な竜が上がってくる!」
「ただのトカゲが我らの道を塞ごうというのか!無粋な奴じゃ、格の違いも判らんのか。」
そう言って、メギドが手を一振りすると、結界をすり抜けた黄金に輝く三日月状の巨大な刃が空を舞い、合衆国精鋭軍部隊をもってしてもその討伐は困難を極めていたその竜の頭を、その刃はいとも簡単に一刀両断して斬り落としてしまった。竜はその目を驚きに見開いたまま落下していき、大地を破壊する前にその姿を消した。ミィはニヤリと口角を上げ、ヨダレを啜った。
スミスは今上がってきた竜が、かつて友と共に出撃した我が米国第三艦隊を完膚なきまでに破壊したニューヨークの災厄と呼ばれる竜であることに気づいていた。その竜があんなにも簡単に討伐されることを目前にして全身が震えた。
「申し訳ありませんが、ここまで来たのならお立ち寄りして頂きたい場所があります。そこでぜひともにお会いして頂きたい方がいます。」
「その方はあなたの国を統べる大統領ですか?」
その言葉にスミスは大きく頷いた。
「座標は判りますか?」
「ここです。」
地図に示された場所はフロリダ州マイアミにあるコーラル・キャッスルで、その地下に現在の合衆国の政治拠点が築かれているということだった。
「あなたも普段はそこに?」
「いえ、私は普段はテキサスの方にいます。私達合衆国住民はダンジョン侵略が始まると同時に魔物だけでなく多くの移民達に排斥されて、食糧や水が確保しやすい南方へと移動しました。そこを拠点として徐々に勢力を広げましたが、沿岸沿いを確保するので精一杯です。」
「追い出した側の人達はどうなったのですか?」
「十年も過ぎる頃には、三十年は保つと言われていた食糧備蓄も略奪や横流しで尽きてしまい、纏まりを失った彼らはそのほとんどが魔物の餌食になったり、内紛で命を落としていると言えます。外見とは裏腹にあの街には文明は残っていません。」
「でも、あのニューヨークには…なんでもありません。」
レンの探知能力は、ニューヨークの地下に千人ほどのコロニーが数ヶ所形成されていることを摑んでいた。それがどんなものなのか判らぬ以上これ以上の言及は余計な御世話と言えた。
「では、とりあえず移動しましょうか?皆様もご一緒で良いですか?」
皆が頷くのを確認して、レン達はフロリダ州マイアミへと飛んだ。
ーーーー
とりあえずマイアミのコーラル・キャッスルに飛んだレン達一行は、階下へと続く階段上に立って、最下部に見える重厚な扉を見つめていた。
「ここに魔物侵入防止用のドーム型結界展開しても良いですか?半径一キロ程度の規模の小さいものですが?」
「良いのか?ぜひ、ぜひとも宜しくお願いしたい。」
そのスミスの言葉に頷いて、結界発生装置を空間庫より取り出して稼働させると、レンは近くの魔物を討伐しているミィとメギドを呼んだ。
「ここ中心に結界張ったから、中にいる魔物の殲滅をお願いしても良いかな?中型より上は全部処理しておいてもらいたいんだけど。」
その言葉に二人はニンマリと笑顔を見せた。
「了解じゃ、少し身体が鈍っとったからの。たょうど良い。」
「レン殿、儂も行ってよいか?二人の闘いを側で見ていたいんだが。」
これまでずっと黙ったままだったミライヤが初めて口を開いたと思ったらそんな感じで、それに乗せられて近藤君も同行を希望した。
「足手まといになるようなら捨てて行くぞ。それで構わんというならついて来い。」
そう言われて、二人は背中に背負った武器を抜いて満面の笑顔で駆け出していった。
「良いのでしょうか?」
「居ても何の役にも立ちませんから、良いんじゃないかな。」
土方の疑問に沖田が辛辣に答えていた。
「では、案内します。」
そう言ってスミスが一行を先導し、扉横にあるインタホンを操作した。
「国防軍司令部長官のスミスだ。大統領にぜひとも会って頂きたいメンバーを連れて来た。開けてくれ。」
【顔認証完了しました。ベンジャミン・スミス長官と断定します】
そんなアナウンスの後に扉はゆっくりと開いていき、中には十人ほどの重武装した怖い顔をした軍人達が銃口を一向に向けたまま並んでいた。
その状況に驚きに皆が固まっていたのも一瞬で、瞬きする間にそこに立っていた軍人全員が素っ裸となり、レディは目を隠し、男共はその展開に呆気にとられ、やがて大笑いしていた。
「レン、お前って最高だな!」
龍人のテキがレンの肩をバンバン叩きながらそう言うと、
「僕に全く効果がないまでも銃口を向けたんですからね。このくらいは返さないと不公平でしょ。『人を殺そうと思うなら殺される覚悟を持て』ですよ。」
レンも笑いながらそう答えた。ただ一人だけ、スミスは真っ青な顔をしていた。
「お前ら呆けてないで、さっさとその格好をなんとかしろ!合衆国軍人として、これ以上恥を晒すな!レディにも失礼であろう!」
スミスの筆頭護衛官のその一言で、軍人の人達は我に帰り、ダッシュで下がっていくのを見て、それじゃダメだろ。もし僕達が不審者だったらそのまま基地内侵入しちゃうじゃん。裸でも立ち向かう気概がないといけないんじゃないかなと思うレンだった。




