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東京

目の前に広がるのは品川駅だったビルだった。まだ中学一年生だったあの頃の僕は、この広場で外国人の暴動に巻き込まれて、突き飛ばされて転んだところを多くの人間に踏まれて死んだと説明されたが、その広場のタイルはほとんどが剥がれ落ち、二十メートルほどの樹木に覆い尽くされていた。


左手にあった高階層のビル群もその殆どが崩れており、僅かな原型を留めているだけだった。


とりあえずは浮遊し、かろうじて起立している中でも一番高いビルの屋上へと舞い上がり周囲を見渡すと、東京の殆どは緑に覆われていて、所々に高層ビルの成れの果てが残存していた。


線路には取り残された新幹線や列車の残骸が散らばり、見える範囲では、人類の文化的な構造物と呼ばれるもので無事な姿で残存するものは見当たらなかった。


気配を探っても、魔物は何匹も感知するが人間と思えるような存在は感知できず、都会から逃げ出して地方へ移ったのか、隠れ潜んでいるのか、それともその殆どが殺されてしまったのか、今の状況では判断できなかった。


壊れたビルの中へ入っても、物品や食糧は殆ど残されておらず、見つかるのはゴミとしか呼べないものばかりであった。腐った食料さえ既に存在していなかった。


「缶詰とかは、少しくらいは期待したんだけどな。」


駅周辺の捜索は諦めて、僕は海沿いに建つかつて高層マンションだった自宅へと向かった。


運河にかかる橋はかろうじて残っており、近くにあった大学はジャングルと化していた。探知すると、かつてのグランドにはオークと思われるような魔物が集落を作っていることが判った。


こんな近くに魔物が集落を形成しているとなると、周辺マンションで暮らしていた人達は、もう残っていないだろうなと考えながら、自宅マンションの入り口を塞いでいる瓦礫をどかすことなく、大きく崩れることなくまだ起立しているマンションの五階付近のベランダへと飛び上がり、そこの割れた窓から部屋の中へと侵入した。


部屋の中は殆ど荒らされておらず、声をかけながら進んでいくと、開いたままになっていた寝室のベッドの上に僅かに膨らむ布団を見つけた。


恐る恐るその布団をめくり、僕は思わず息を呑んだ。そこにはエルフと思われる赤子を抱いたままミイラになったと思われる夫婦の遺体が残っていた。


そっと布団を掛け直し、両手を合わせて冥福を祈ると、入ってきた窓に鍵をかけて閉め、テーブルの上にあった鍵を手にして部屋を出て鍵を閉めた。


部屋の中に水や食糧は全く残されておらず、おそらくは自分達や子供の将来を悲観して心中することを選んだと思われる彼らを思うと、僕は涙が止まらなかった。


僕は廊下に出てから試しに大きな声で、


「誰か居ませんか?水や食糧を持っています。どなたか必要な人は居ませんか?居たら声を上げてもらえませんか?」


そう叫んだが、それに応えてくれる人は誰も居ないようだった。


非常階段を鍵を使って開き、一つ上の階へ昇るたびに大きな声で叫んでも、それに応えてくれる反応は一つもなく、とうとう自分の暮らしていたフロアベッド辿り着いた僕は、持っていた自分の鍵で部屋の扉を開けた。


チェーンロックがかかっていないことから推察すると、既に家族揃って家を出たことが想像できた。


部屋には薄っすらと埃が積もっていたが、荒らされたあともなく、部屋は整然と片付けられており、一つ一つの家具やディスプレイを見ながら、その懐かしさに胸を熱くして、僕はかつての自分の部屋の扉を開けた。


すべてが懐かしい物ばかりだったが、机の上に積み重ねられた十数冊のノートが目に付いた。


恐る恐る開いてみると、そこには懐かしい妹の字が綴られていた。その懐かしさに読むこともできず、僕はそのノートを抱えて弟と妹の部屋へと入ると、妹の指定席である二段ヘッドの上の部分に腰を掛けた。


ベッドの周囲には、僕がプレゼントした某ランドのキャラのぬいぐるみが多数並べられており、一番のお気に入りのキャラだけが見当たらなかった。


心を落ち着けてノートを開くと、僕が駅前の暴動に巻き込まれて行方不明となり、警察に捜査を依頼したこと、家族全員で駅前でチラシを配りながら情報を募ったことから始まり、偽の情報に踊らされたり、メディアに都合よく利用されて落ち込んだりしたことが書き綴られていた。


その日僕は飲水も忘れて、その全てを読み込み、僕がこの世界から消えてからの歴史を知った。


僕が異世界転移したおよそ一年後に、世界中に無数の隕石が落下し、その落下した場所にダンジョンが生まれ、東京では明治神宮とお台場に特級と呼ばれるダンジョンが誕生し、その二年後には魔物が溢れ、東京中に広がったこと。


警察や自衛隊任せで、何も戦うすべを持たなかった一般住民も、バットやゴルフクラブや包丁で身を固めて外出するようになったこと、アウトドアグッズの斧や鉈、火起こしの道具や簡易かまどは一般必需品となったことなどが書かれており、更には食糧を得るために裏の運河で魚を釣り、水を浄化するための道具なども準備したことが書かれていた。


それでも一般人が魔物に対抗することは難しく、都会を離れる人達は少しずつ増えていったが、決定的になったのはヒマラヤに出現したドラゴンダンジョンが核により破壊されたことで、いつか東京の特級ダンジョンでも同じことが起きるかもしれないという噂が広がり、一気に東京から人口が流出し始めたらしい。


その後も東京で頑張っていた家族だったが、妹の産んだ子供が双子のエルフで、周囲からの協力も無くなり、子供が大きくなるに従い、更にあからさまな差別をされるようになったため、父親の弟を頼って、三重県へと移住することを決めたと書かれていた。


最後のページには、自分のことや家族のこと、産まれた子供のことが熱く書かれており、私は決してお兄ちゃんのことを忘れないと綴られていた。

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