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プロローグ2

「サトシ、お疲れ様でした。」


突然響いた声に少年が上空を見上げると、そこには金色の瞳を持つ長い白銀の長髪の美女が浮かんでいた。


その言葉にすぐに応えることができずに、少年が下を向いたままでいると、彼女は更に言葉を続けた。


「私の妹のミシエルが、あなたにかけてしまったご迷惑は本当に申し訳なく思っております。」


その言葉に少年はハッとしたように面を上げた。


「あいつはあんたの妹だったのか!なぜこんなことになるまで放置したんだ。あんたなら他にやること、できることいくらでもあっただろ!」


その言葉に美女は僅かに眉を顰めながら応えた。


「彼女は、この世に生きとし産まれた物の全てを護ろうとしました。私は導くことのできない者達を犠牲にして、私達を信じる者を優先して護ろうとしました。それがお互いに譲ることのできなかった神質です。秩序を司る私と博愛を司る彼女は闘うしかなかったのです。」


その哀しそうな表情を浮かべる彼女にサトシは噛みついた。


「あいつにも何度も言ったけど、そのために多くの民が犠牲になるのはおかしいだろ!住む場所を分けるとか他にいくらでも方法はあっただろ!」


「何度も試してみたのです。住む大陸を分けたりすることも試みました。でも結局は同じでした。ある程度文明が発達すると交流を持つようになり、お互いに自分に無いものを求め、相手を支配下に置こうとするのです。そして疲れてしまった私は反抗する彼らを諦め、自分の民を護ることに決めて彼らを排除することにしました。でも、彼女にはやはりそれが許せなかったのです。彼女は彼らを排除しようとする私の民と戦い、彼らは誤解して彼女を自分達を護る神として崇めたのです。結局、私の民からも慕われていたはずの彼女はいつしか民から憎まれるようになり、魔神として恐れられるようになってしまいました…」


その女神の言葉にサトシは見開いた目からポロポロと大粒の涙を流した。彼にはこれまでの彼女との戦闘の中で、あまりにも思い当たる所がたくさんあった。


「相手の民も思いやる彼女には殲滅などの残酷なことができるはずもなく、いつしか自分が護っている民からも蔑まれるようになってしまいました。」


その言葉は、彼女が魔王やその配下達と一線を画して一人で闘っていた事を否が応でもサトシに納得させた。彼女は魔人の神ではなく、全ての人の神であろうと最後まで頑張ったことが彼には理解できた。


「あの子を貴方に託します。貴方のこれまでの生き様を見てきて、貴方と彼女は本当によく似ていると思います。よろしくお願いします。」


そう言って彼女が頭を下げて来た時に、あまり意味は分からなかったが、サトシは素直に頷いていた。


しばらく彼女と話をした後に、彼女は約束のことを持ち出した。


「最初のお約束通り、あなたを元の世界に返しますが、この世界で多くの魔素や力を得たあなたは既に歳を重ねることのできない身体になってしまっています。元の時間軸へと返せば良いですか?それとも現在の時間軸へと返しますか?」


その彼女の言葉に一瞬躊躇した口調を感じたサトシは、そのまま彼女にその真意を尋ねた。


「今の言葉を素直に受け取ると、私がその時間軸に戻ることに、些か躊躇いを持たれているように感じ取れるのですが…」


「そうですね。その通りです。あなたがこちらに転移してからしばらく経った後に、神界で一つの問題が提議されました。いくつかの世界で地球より転生、転移してきた者達が、その世界を根底から破壊するような破壊行動をとってしまっているから罰を与えるべきだとの議論が持ち上がったのです。」


その言葉にサトシは絶句した。確かに自分のいた世界では異世界物が大流行しており、その中にはそれと似たような展開を描いた作品も数多く存在していたからだ。


「そして、被害を受けた神々に地球の創造神は世界の有り方そのものを変革するように強要され、排除してきた魔素の復活、その供給元としてのダンジョンの創成を受諾させられることになったばかりか、その罰として地球に生まれたダンジョンコアの一つとして幽閉されたのです。」


あまりの現実に、サトシは頭の中をぐるぐる掻き回されるような混乱に陥ったが、その結果生じる展開に気づき、慌てて彼女に質問を重ねた。


「もしかして、今の地球には魔物が溢れているということですか?」


彼女はその言葉に頷き、更に言葉を続けた。


「その通りです。最初はあなた達の科学を用いた兵器で対応できていたのですが、ご存知のように物理無効な魔物も存在しますので、いつしか一進一退の状態となり、ドラゴンダンジョンが溢れた時点で、多くの国が壊滅的な打撃を受けたようです。そのダンジョンは、原子爆弾と呼ばれる兵器で破壊されたようですが、その時からあなた方の文明は衰退の道を辿り始めたようです。」


「…マジかぁ、原爆使ったのか…」


言葉に詰まってしまったサトシに確認して、女神は更に現況を説明していった。


「溢れた魔素は、産まれてくる赤子達にも影響を与えました。魔素に適性の高い者達の中には、獣人やエルフ、ドワーフとして生を受ける者が現れ、光に適性の高い者達の中には、あなた方の言う天使や妖精の姿を取る者がいたり、闇に適性の高い者達の中には、魔人や魔族としての姿を持つ者達も産まれたりしたようです。当然、この世界と同じように差別的な争いが行われ、魔物との争いだけでなく、人種間の争いも始まり、人族の文明は尽く失われていきました。あなたがこちらの世界に来てから五千年以上の年月が過ぎています。現在の地球は文明のかけらもない混沌とした魔物が跋扈する魔境と呼んでも差し支えありません。」


「返してください!今すぐに俺を元の時間軸へ返して下さい!その状況なら俺にしかできないこともたくさんあるはずです。俺はすぐに戻るべきです!」


浮き上がり両手で女神の手を握って強く願うサトシの言葉に、彼女は手に持つ大きな杖に魔力を込め始めていた。


光を増し続ける杖を高く掲げた女神は、最後にサトシを優しく見つめ、心からの感謝を伝えて魔法を唱え、サトシの姿は徐々に薄れて世界から消えていった。


「本当にありがとう…ミシエルをよろしくお願いします。それと、あなたの助けとなるであろう方達に心当たりがあります。彼らにもあなたのように現状を伝えることにします。頑張ってくださいね。」


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