第一回会合
「こちらが、第百三十三代天皇陛下智仁様でございます。そして、その傍らに控えている龍人が彼の師匠となるテキです。言葉も通じますから天皇陛下との交渉は彼を介すと良いかもしれません。」
五歳くらいの豪華な椅子に座った紺色の髪で、目の大きな少し耳の尖った少年は、穏やかで利発そうな表情を見せていたが、人には慣れていないようで、その紹介に軽く目を伏せて挨拶を返すに留めていた。
「儂がテキじゃ、智仁はまだ幼いがゆえに交渉事は全て任されておる。よしなに。」
そう言って龍人は頭を下げたが、その言葉と風格に周囲は少し身を引いたが、ただ一人土方だけは緊張に身を震わせていた。
「私達は日本国国民の保護を一番に優先して頂きたいと考えています。その為には、この身をどのような策に利用して頂いても構いません。」
そのテキの言葉に、土方は眼力を籠めて僕を見て、一つの提案をした。
「現在の日本は、天皇御一家も日本国政府も淡路島へと移動しており、周囲を日本国防衛軍で固めて、魔物の侵入を防いでおりますが、全国に散らばる一般国民は殆ど放置されています。現況では、私達の仲間の防衛軍の展開する地域に僅かな数を保護するのみとなっております。私達は何度も何度も政府に献策、陳情しておりましたが一向に動く気配はなく、日本国民の数は日増しに減少し続けております。」
その言葉に智仁天皇とテキの表情が曇り、更に土方に発言を促した。
「そこで私達は、天皇陛下に許して頂け、かつその先頭に立って頂けるというならば日本国国民の保護、日本国の再生を旗頭にした新たな真日本国を興そうと考えています。ぜひとも良いご返事を頂きたいのですが。」
「面白い!儂も、国民を二の次とし淡路島に逃げた一党については腸が煮えくり返っておったのじゃ。智仁天皇陛下あなたは、新しいこの国の王となるご覚悟はおありですか?」
そのテキの即答に、困ったような表情を見せた智仁天皇陛下は、そっと僕の顔を伺ってきたので、他の人に見えないように僕はそっと親指を立て、それを見た彼はホッとしたような表情でそれに応えた。
「私で良いなら、喜んでその旗頭となろう。よろしく頼む。」
皆がグッと手に力を入れたことで話は纏まったと考え、僕は次の話題へと移った。
「それでは次の討議に移らせて頂きます。こちらに控えているのは、台場特級ダンジョンに封じられていたメギド様、ウェストリア様、アルマキア獣王国女王タマモ様、筆頭執事シルク様、近衛軍大将ミライヤ様です。彼らはダンジョンから出て、旧日本国内に新たに国を興そうと考えていますが、それについてのご意見をお聞かせ下さい。」
「それは独立した国を興すということか?」
少し戸惑うような口調で近藤大臣が尋ねてきた。
「私達の国は、ダンジョン内に展開していますが、現在の国民数は十万人程です。その殆どがダンジョンの外への移住を希望しています。食糧、治安を考えると闇雲にダンジョンを開放して解散することは、地元の方にご迷惑をかけることになりますから、ゆっくりとした融和を我々は望んでおります。幸いにも我々はダンジョン内での食糧生産、工業生産が充実していますので、新たな真日本国には十二分に協力できると思います。いかがでしょうか?」
そのタマモの言葉に、テキは眉を潜め、智仁天皇は同年代のタマモの可愛らしさと凛とした態度に頬を染めた。
「食糧の提供ということですが、どれくらいの量を融通頂けるのでしょうか?もし、こちら側から提供できるものがあるとすれば、どのような物が必要でしょうか?」
「食糧は、主食である米や小麦ならば十万人分の提供が年単位で可能です。必要な物は鉱物資源ですが、拝見したところ建物にもかなりの鋼材が使用されていますので、それの自由摂取、回収を容認して頂けるのであれば、無償で提供します。」
シルクの言葉は、土方の心を強く揺さぶったようであった。すでに瓦礫と化している建物も整理され、殆ど無償で十万人分の食糧が手に入るということは、これからのことを考えれば非常に有り難かった。
「ここで提案ですが、真日本国とアルマキア獣王国が連合国として協力していくなら、僕からは半径三十キロの魔物除けのドーム障壁をそれぞれにプレゼントしたいと思いますがいかがですか?既に内部に存在する魔物やダンジョンは、自力で何とかして貰わないといけませんが、原宿にある特級ダンジョンはお祝いとして、僕が攻略します。一考の価値はあると思いませんか?」
それは驚くべき提案だった、沖田の頭の中の地図には品川を中心とした半径三十キロエリアが線引かれ、北は川口、川越付近まで、南は横浜、横須賀付近、西は府中までもがそのエリアに含まれることに身体が震えた。
「その場合、真日本国は皇居を中心に据えるとして、アルマキア獣王国は何処を中心に据えるおつもりですか?」
「レン様からは成田を中心としてはどうかと言われています。どうやら大きな空港もあるようですから、将来的なことを考慮すると交通の要は必要だと言われています。それとイザという時にお互いに空路を使って連絡が取れるのは良いことだと思えます。」
土方とシルクの交渉は、その後更に細かな所まで詰められたが、国境をどうするかとなった時に、僕は更に口を挟んだ。
「それは僕から提案があります。荒川を国境としてはいかがでしょうか?上流のダムが既に破壊されているので水量もありますし、橋も殆どが壊れているので越境も簡単ではありません。それに加えて、緩衝地として僕が舞浜に拠点を作ろうかと思います。間に僕が入ればお互いに不安も少なくなりませんか?」
「それは良い。そうして頂けると我々も安心できます。ぜひ宜しくお願いします。」
それまでだんまりだった近藤大臣が躊躇うこともなく即答し、それに智仁天皇陛下とテキも同意したことから、僕はまんまとお望みの舞浜エリアを手に入れた。もちろん狙いは夢の国だったが、ここにいる人間達はあの時代のことをあまり知らないので、簡単に同意しているのだろうと納得していたが、智仁天皇陛下だけが必ず招待して下さいねと僕に念押ししていた。彼がまだダンジョンに囚われていなかった頃には、その神通力は残存していたようだった。
その後、真日本国とアルマキア獣王国の成立、更には二国間での日本連合国の成立を取りまとめ、それを世界に発信したが、発信後に淡路島の日本国政府から、智仁天皇陛下の身柄の確保、安全確認の要請が入ったが、時は既に遅かった。
それと同時に土方は、南方防衛軍守備隊、裏日本防衛軍北陸守備隊、東日本防衛軍北方守備隊に連絡を入れ、日本連合国は同胞の窮地には必ず協力する旨を伝え、それぞれ一万人の一年分の食糧を提供する為の軍艦を派遣したことも合わせて伝えた。
沖田の齎した情報から、淡路島の日本国政府がどのような行動を取るかは容易に想像がついたことで、先手を打ったとも言える。
更に日本連合国を国際的に承認してもらう必要があることから、斎藤を介して、数日後に米国国防軍最高司令部参謀との会談も行うこととなり、その三日後に東京国際空港、旧羽田空港に真っ黒い機体の超音速偵察機SR73ブラックバード改が着陸した。




