某国国防軍最高司令部からの日本防衛軍品川前線部隊司令部
「な、なんだと!」
某国国防軍最高司令部長官の椅子から、大声をあげてスミスが立ち上がったが、その思いはその場にいる誰もが考えていたことだった。
「この前第二十層のダンジョンボスが倒されてから一ヶ月も経っていないだろ!どんな魔法を使えばこうなるんだ!しかも、七十一層だと!ありえないだろ!」
スミスはそう怒鳴って手にしていた書類を机に叩きつけた。
「長官!ジャクソン大統領よりお電話です。」
「まぁ、そうなるわな。このテーブルに繋いでくれ。」
「了解しました。繋ぎます。」
ワンコールもしないうちに、スミスは電話を取った。
「ジャック、要件は了解している。こちらでも既に一ヶ月前から配下の者を動かせているが、まだ碌な情報がない状態だ。」
「・・・・」
大統領の言葉に、スミスは部下に命じて手元に幾つかの資料を持ってこさせた。
「あぁ、日本国政府の情報把握は、おそらく我々よりも少ないと思われるから、その程度の返答しかできないはずだ。奴らは保身とエゴと金儲けの塊の醜いクズだから、どうせマトモに調べようともしてないだろ。自分達だけ安全な島に閉じこもって、国民を護ろうとしない人間を政治家扱いする必要はない。」
「・・・・」
資料を開きながら、スミスはまだ確認が取れていない状況を大統領に報告することにして椅子に腰を下ろし、部下に命じて今は貴重なブラックコーヒーを持ってこさせた。既に豆から作るコーヒーは極めてレアで、大量に五十年前に作成されたインスタントコーヒーでさえ今では貴重だった。
「まだ未確認だが幾つか面白い報告が上がっている。日本の旧首都東京の品川近辺の魔物が駆逐されて、品川に日本国防衛軍前線部隊が進出した情報は既に上げてあるが追加の報告だ。どうやら奴らは旧東京国際空港羽田も開放したぞ。」
「∏∑∃∆∏・・・」
「怒鳴るなよ。この五十年の間で一番の快挙と言って良いかもしれん。しかも情報に間違いなければ、魔物殲滅後は奴らの侵入さえ許してない…」
「√∥∬Ης・・・」
「そう、そうなんだよ。そんなことは常識的にありえないんだ。奴らは空も飛べるし、水も問題としない。排除されてもすぐに湧いてくるのが魔物だ。そうならないということは、奴らは魔物の侵入を拒む何らかの手段を手に入れた可能性がある…」
「Η∏√∥∬∆∑・・・・」
「その通りだよ。そんな手段や魔法、魔道具があるなら世界に公表されるべきものだと私も思っている。しかし、日本国政府にさえその情報が上がっていないということは、ダンジョンで時おり発見されるレリックをその前線部隊が隠匿している可能性がある。」
「・・・・」
スミスは少し冷えたコーヒーを一口口に含んだ。
「そうだ。奴らは日本国政府からの独立を考えているかもしれん。前線部隊の指揮官は防衛大臣の近藤、副隊長として副大臣の土方が就いており、他にも優秀な隊員が多く、愛国心の強い連中の集まりだと聞いている。今の日本国政府に不満を持っているのは間違いないはずだ。部隊も護衛艦空母伊勢、護衛艦情報収集艦熊野、その他にも黒潮を筆頭とした潜水艦隊、吉野を中心とした護衛艦隊等の世界最新の近畿防衛部隊をほぼ無傷で所有している。空母伊勢に備えられている戦闘機も一番旧式なものでもF35B、新しいものでは垂直離着陸可能なX3改良型で日本名はOO…」
「∬∑∆√Η・・・」
「当然じゃないですか。零戦や心神見てても分かりますが、あのオタクで凝り性な国民があのまま放置するわけないでしょう。護衛艦の主砲なんて絶対全部あの国お得意のレールガンに決まってます。火薬もいらないし省エネになりますからね。艦船の動力に魔石採用したのもあの国が最初ですから、艦載機の武器にも魔石仕様の小型のレールガン採用していても全く驚きませんね。」
「∬∑Η∬√・・・」
「何処かに潜っていると思いますが、品川があの状況になったことで、合流する可能性は高いですね。」
「・・・・」
「ところで未確認ですが、面白い情報があります。画像を送りますね。」
そう言って、スミスは手元の資料から必要な画像を数枚大統領に送った。
「ここに写っている少年と幼女の映像は、今でも東京で暮らしている住民がたまたま撮影したものです。この直後に新宿方面で雨が降るように堕ちた無数の雷と、特大の雷光が確認されていますから、撮影者は二人が神の申し子ではないかと簡単な説明文をつけています。希望は入っていると思いますが、事象が彼ら由来ならその可能性は否定できません。かつ、その存在が日本防衛軍前線部隊と関わりがあると考えるなら、現在の彼らの活躍も簡単に説明できるといえます。」
「・・・・・」
「了解です。前線部隊に潜入している草を動かし、相手の同意が得られ次第、私自らが日本に飛びます。僭越ながら条約締結が速やかに行えるよう、特命全権大使としての派遣を要請します。」
「・・・・」
「そのご命令を謹んでお引き受け致します。良い結果をご報告できるよう全力を尽くします。」
その会話を終えて電話を置くと、スミスは即座に全ての職員に命令を下した。
「日本へ、品川へ行くと決まった。すぐに手配をしろ。空軍にSR-73ブラックバードⅢを使えるように準備しろと伝えてくれ。目的地はかつての新東京国際空港羽田だ。」
その言葉に部屋中のスタッフが息を呑んだ。かつての米空軍が秘密裏に開発したSR−73が実在することにも驚いたが、国防長官自らが大統領代理として日本に旅立たねばならぬほどの事態が発生したことが理解できたからだ。




