お台場ダンジョン14
眼の前にいたはずのメギドが消え失せると同時に天井に暗雲が立ち込め、雷光が輝いた時点で、僕が周囲に高さ三十メートルほどのミスリル製の鑓状のものを十本ほど錬成すると同時に、暗雲から無数の稲妻が僕めがけて襲いかかってきた。
あまりの威力だったので通常の金属にせずミスリルを使用したのは間違いなかったと確信し、このレベルの戦闘だと巻き添えで竜達は全滅する可能性が否定できないので、ダンジョンの維持で面倒が生じると困るという判断から、とりあえずそいつらを結界で隔離した。
作業を終えて周囲を確認すると、空間一面に無数の蒼白い鬼火が漂っており、その一つに指先で触れてみると力の一部が吸われたように思え、即座に魔法障壁を展開して身を護ったが、すぐにそれは僕を包み込み、障壁のエネルギーを吸収し始めた。
視界一面が蒼白く染まったが、魔法障壁を重ねて十層ほど展開してから、自ら放出している魔素と神素を極端に絞ってほとんど生身となってから僕は天井付近へと転移して、メギドの位置を探ってみると、白く太い九本の尾を持ち、大きな白い尖った耳を持つ着物のような衣装を身に着けた大人の女性が、部屋の一番奥まった所に悠々と腰を下ろし、鬼火を見つめていた。
即座に彼女の傍らに転移し、思いっきり右ストレートを撃ち込むと、彼女は吹き飛ばされてサイドの壁にぶち当たり崩れた瓦礫に埋もれた。
「狂化といっても大したことないんだね。その程度の神様なんてザラ…」
そのセリフを言い終わらぬうちに、僕の右隣に突然現れた彼女は三本の尾を纏めた太い尾で僕を張り飛ばし、飛ばされた先には既に彼女がいて、再び張り飛ばされた。
「やればできるじゃん。その調子だよ。」
壁に両足で着地した僕は、そのまま壁を蹴って彼女の元へと到着すると、左の回し蹴りで再び彼女を壁へと蹴り飛ばした。
攻守が次々と入れ替わる目にも留まらぬ肉弾戦の応酬に壁は至る所で崩れ、轟音が部屋中に響き渡っていた。
「ねぇねぇ、あれって大丈夫なの?」
「全然問題ないよ。レンは全く本気出してないから余裕かな。相手の溜まった鬱憤を発散させる為にかなり手を抜いてる感じかな。メギド様はどうなの?」
その言葉にウェストリアはじっと戦闘を眺めていると、軽く笑顔を見せながら答えた。
「かなり本気は出してるけど、すごく楽しそう。彼女がよく使うのは魔法とか魔術が多いけど、肉弾戦が苦手というわけでもなくて、彼女が本気出すとすぐにみんな壊れちゃうから使わないって言ってたから、ああして殴り合えるのってすごく楽しいんじゃないかな。」
そんな会話を交わす二人の前では、相も変わらず殴り合いを続けていた。着ていた服はかなりのダメージでボロボロになっており、メギドの身につけていた着物も至る所で裂け、素肌を晒していた。
二人ともに回復力が高く傷はすぐに塞がるため出血量は大したことはないように見えていた。
小さなテーブルと椅子をミィの空間庫から取り出して、そんな二人の戦闘を眺めている小さい組の二人は、テーブルのマグカップのような少し大きめの器にミルクをたっぷり入れたホットミルクティーと小籠に煎餅やらマカロンを詰め合わせたものを楽しみながら、お茶会のような雰囲気を醸し出していた。
「大丈夫かなぁ、こっちに吹き飛ばされてこないよね。」
「その辺は大丈夫じゃの、レンは明らかにこちらに被害が出んように加減しているからの。」
「でも、もう六時間くらいずっと戦いっぱなしだよね。大丈夫なのかな。」
「こんなのはまだまだ序ノ口じゃの。儂とレンの最後のバトルはまるまる一ヶ月続いたからの。」
平気な顔してそんなことを言うミィを、ウェストリアは目を丸くして見つめていた。
「じゃが、今回のあの二人の場合は、メギドの方がダンジョンに神素を抜かれていたこともあって、あんまり体力もたんからそろそろ決着がつくかもの。」
「えっ?メギドちゃん、そんなに弱ってるんですか?そんなこと判るんですか?」
「判るの。身体から無意識に放出されている神素や魔素を誤魔化すには、レンのようにかなり微細なコントロールが必要で、それを継続するにはかなりの労力を注がないと難しいからの。あやつもそろそろ気づいているのではないかの。」
そんな会話をしている時に、たまたまレンがこちらの方へと凄まじい勢いで吹き飛ばされてきたが、レンの障壁とミィの神性防御の働きで何事もなく終わった。
「レン、判っておると思うが、あまりに体力使わせると、戦闘後にあやつも消滅する可能性があるからの。」
「判ってる。あっちも多分気付いていると思うから、直に最終奥義の発動になると思うよ。」
そう告げて、レンは再びバトルへと戻っていった。
「ちょっ、ちょっと待って!今、最終奥義って言ってなかった?メギドちゃんの奥義は、昔私達の世界を半壊させた前科があるよ。大丈夫なの?」
そんな焦った表情を見せるウェストリアに、ミィはニカッと笑って答えた。
「あやつはの、星そのものを破壊する儂の奥義も何とかした輩じゃからの。多分メギドの奥義であろうと問題ないじゃろ。」
「…星そのものを破壊…」
とんでもないことを平然とした顔で言うミィの横顔を、顔を青くしたウェストリアが背中に冷や汗を流しながら見つめていた。
それ以後のウェストリアは、あれほど美味しかった煎餅やマカロンがうまく喉を通らず、カップに入ったミルクティをチビリチビリと飲むことしかできなかった。
「あっ!そろそろ決着みたいじゃの。」
ミィの言葉に彼女は顔を上げ、戦闘音が静まった二人の闘いの場へと目を向けた。




