お台場ダンジョン12
「えっ?どうしてそんな発想になるの?殺すわけないじゃん。むしろ仲間になってもらいたいと思ってる。」
その言葉に、ウィストリアは明らかにホッとした笑顔を見せて、先ほどの質問に答えてくれた。
「確かにこの庭園の中央には、おそらくはコアに向かう階段らしきものがあるけど、そこの封印はすごい強力で、私なんかじゃ全く刃が立たないの。結界の作り方にメギドのクセがあるから、おそらくは彼女が作ったものだと思うけど、それ以上は判らないの。ゴメンね。」
「じゃあ、昼ごはん食べ終わったら、そこへ案内してくれるかな。一度様子を見てみるよ。」
「えっ?お昼?これはお昼じゃないの?」
「こんなのただのおやつだよ。別腹ってやつかな?それとももう食べれない?」
その僕の言葉に彼女はブンブンと首を振り、昼ごはんの支度をしている間に、ミィはタマモやシルクにこれからの予定を報告しに部屋へ戻っていった。結界の中を簡単に舞い上がり、二十メートルほど高い所にある窓からミィがやすやすと部屋に入っていくのを、ウィストリアは目を丸くして呆然と眺めていた。
フレンチトースト・たっぷりフルーツ生クリーム添えと、異世界で僕が見つけた日本のせとかのようなオレンジを使ったジュースでお昼を取っていると、タマモとシルクからの伝言をミィが伝えてきた。
「『私達のことは気にせず思う存分に振る舞って頂いて構いません。メギド様のことは、レン様に一任します』ということだったのじゃ。彼女の状態がどういうものか判らぬ以上、この言葉はありがたいの。」
僕は黙って頷いてウェストリアを見て頭を下げた。
「申し訳ないけど、メギド様の所まで同伴してもらっても良いですか?これだけ長い間封じられている彼女が、マトモな精神状態でいられる可能性はかなり低いと思われます。その場に知人であるあなたがいれば正気に戻る手助けになると思うので。」
「もちろん行くよ。彼女は多分僕を巻き込まないようにこの中庭に閉じ込めたと思うんだ。そんな彼女をほっとけるわけないじゃん。」
僕のお願いに快く承諾してくれた彼女に案内してもらって、僕達は中庭中央に位置するダンジョンマスターの階層への入り口と思われる場所に立った。
「かなり強固な結界だね。ミィ何とかなる?」
僕の問いかけにミィはニヤリと口角を上げ、
「儂を誰だと思ておる。こんな姿に縮んでしまったが、かつては世の半分を支配しておった神の一柱じゃ。しかも創造神の双子の妹じゃからの。こんな結界の解除なんて簡単じゃ。」
自信満々に語るミィの顔を驚いたように見つめるウェストリアの前で、すぐに彼女の両眼が紫色に輝き始めて結界の解析に取り掛かると、その眼の輝きが瞬く度に入り口を覆う結界の光は薄れていった。
「これだけ厳重な結界かけるとはの、メギドとやらはお主のことが本当に大切じゃったのかもしれんの。」
そんな言葉を口にしている間も、結界の光と輝きはどんどん薄れ、三十分もしないうちに入り口を覆っていた結界は消失し、下層への真っ白い石でできた階段が露わになった。
「終わったのじゃ。見える範囲はサーチしてみたが、簡単に判るような罠や細工は見当たらんの。」
自信満々なミィの言葉に頷いて、僕が先頭に立って階段を降り始めると、その歩みに従うかのように両サイドの白い筋状の石が輝いて、通路を照らしていた。
「僕より五メートルほど後ろをついてきてね。僕を中心に十メートル程度の障壁を張っているから、通常のダンジョントラップ程度の罠ならどうにか防御できるから。」
「儂の全力のトラップも簡単にクリアした人間のセリフじゃないの。」
「えっ?レン様とミィ様はもともとお仲間だったんじゃないんですか?」
僕達の会話に不思議そうに尋ねるウェストリアにミィが答えていた。
「その通りじゃの。簡単に言えば天敵じゃの。不倶戴天の敵と呼んでも良いかもの。なんせ成り行きとは言え、儂の作りあげた全世界の半分を破壊し尽くした男じゃからの。」
「え〜っ!どうしてそんな人と一緒にいるんですか?恨んで当たり前のことされてますよね。」
そんなウェストリアの言葉に、ミィは穏やかな笑顔で答えた。
「どうしてかの?気づいたら傍におって、それからはずっと一緒に居る。何にも恨んでなどおらんし、傍にいて心地良いんじゃ。お主にもいつか判ると思うぞ。」
「へぇ〜、確かに今でも一緒にいてなんかポカポカした気持ちになりますもんね。」
そんな二人の会話を聞いて耳を少し痒くしながら、僕達は既に千段以上の階段を下ってきていた。
「なかなか着きませんね。もしかしたら同じ所をぐるぐる回らされているとかないですよね。」
少し不安そうなウェストリアの問いかけに僕は下ってきた階段の入り口を指さしながら答えた。
「入り口の大きさが、あのサイズなら楽に三百メートルは下ってきてるからトラップというわけではないよ。理由は判らないけどね。」
それから更に千段以上下って、ようやく僕達は高さ三十メートルはあるであろう真っ白い石でできた大きな門の前の広場に立つことができた。
「ようやくだね。」
そのウェストリアの言葉に僕は黙って頷き、これからの予定を話した。
「今日はここまでとして、夕飯をしっかり食べて準備を整え、明日朝早くから突入しようと思うけど、それで良いかな。」
皆に納得してもらったので、空間庫から野営用の居住ボックスを取り出して広場に設置し、ウェストリアを案内すると、その居住性の高さに彼女は驚愕していた。
「な、なんなのよ!この扉の奥はお風呂、こっちの扉の奥は物置、それにこれは何?もしかしてトイレ?こんな綺麗なもの見たことないんだけど!それに台所だって、コンロもいっぱいあって、流しの蛇口も二つある。ダイニングボードの中の食器はまるで美術品みたいに綺麗だし、テーブルも何これ?何人用なの?艶も色も見たことない一枚板のテーブルに加えて、細かな細工を施した椅子。ありえないわよ。創造神の部屋だってここまでのもの揃ってないわよ。ベッドなんて論外よ。天蓋付きでこの大きさこの柔らかさ、使われてるレースのカーテンなんて妖精の国で見た女王様のベッドのそれと同レベルよ。それと、それと…」
あまりのセリフの連続になんの言葉を挟むこともできず、僕達はそれを黙って聞いていた。僕達が非常識と言われるのは今に始まったことではないからだった。
「お主、今これが僕達の常識などと考えておらんかったかの?」
ミィの問いかけに頷くと、
「儂をお主と同じにするな!儂はこの生活が当たり前だなどと思っておらん!お主の常識だけがずれておるんじゃ!」
そう言われて、頭を叩かれた。
その日は、僕手作りの夕食をご馳走し、涙を流しながら食べるウェストリアを、食後にミィがお風呂に入れてあげ、三人でベッドに寝た。もちろんお子様二人に欲情する僕でないことは、キチンと宣言しておきたい。




