お台場ダンジョン11
狂乱の宴が終わり、王宮の高層階にある客間で、風呂に入る余裕もなく眠りこんでしまった僕の口と鼻が塞がれて、苦しくなった僕が目を開けると、ネグリジェ型パジャマからはみ出たミィのふくらはぎがドンと僕の顔に乗っかっていた。
いつものことと、むっちりした足をどかしてベッドを出て、部屋に備えられた浴室で身体を綺麗にして、先日確保した歯ブラシと歯磨き粉、洗顔剤で身支度すると、城の中庭を見ながら、保管庫から取り出したジャムとあんこの自家製菓子パンを主食にして、やはり自家製のコーヒー牛乳を飲んだ。
ミィが起きそうにないので、部屋を出ると掃除をしていたメイドさんが目に入ったので、中庭への行き方を尋ね、お礼に自家製キャラメルを渡した。
中庭には色とりどりの花が咲き乱れ、綺麗に整えられていたが、僕以外には人の姿が見当たらなかった。
「こんなに綺麗に整えられているのに勿体ないな。」
そう呟いた僕の一言を耳にしたのか、背後から少し幼い透き通った声が響いた。
「そうなのよ!あいつら全然わかってないの!私がここを整えるのにどれだけ苦労しているのかを全く理解してない!花は見られてこその花。無視されるならただの雑草でも全く問題ないのよ。」
「花は見られてこその花かぁ、良い言葉だね。花も嬉しいだろうね。」
「あんた、判ってるじゃ…あんた私の言葉聞こえるの?」
その言葉に後ろを振り返ると、そこにはミィぐらいの背丈をした、輝くうぐいす色の頭に二つの花簪をつけたくるくる巻き毛の。目をまん丸くした幼女がいた。
「こ、こんにちは。どなたですか?」
「こ、声が聞こえるだけでなく、私の姿も見えるだと。ファッキュー!なんてこった!こんなのは初めての経験だぜ!」
そんなことを言いながらしがみついてこようとする幼女をスッと躱すと僕はその場に立ち上がった。絶対に面倒になるパターンだと理解していた。
「じゃあ、僕は行くね。またね。」
そう言った僕の身体を、大地の至る所から伸びてきた蔓がぐるぐる巻きにして大地に転がした。
「この私が、あなたみたいな貴重種を逃がすと思っ…てんの…?」
彼女が言い終わらぬうちに僕は巻きついた蔓を絶対零度の氷魔法で瞬間冷凍し、少し力を入れて粉々にすると再び立ち上がった。
「君みたいな可愛い幼気な幼女を甚振る趣味はないんだけど、どうしても戦いたいなら拒否はしないよ。」
「も、申し訳ありませんでした。」
彼女は即座にその場に土下座して僕に詫びを入れた。当然、子供に優しい僕は、即座に許して近くのテーブルへと彼女を案内して、ケーキや紅茶、チョコレートやジュースを並べた。
「ジュ、ジュルッ。こ、これ食べても良いのかな?」
今にもヨダレを流さんばかりに、テーブルのお菓子達を見つめて、目を逸らさない彼女の姿にほっこりしながら許可を出すと、彼女は両手で片っ端から食べ始めた。
「まだまだたくさんあるからね。そんなに慌てて食べなくても大丈夫だよ。誰も取る人はいないよ。」
僕のその言葉に彼女はニパッと笑い、左手にグラス、右手にお菓子を持ちながら次々と消費していくので、僕は慌てて空間庫から取り出したお菓子を追加した。
「あ!あ〜っ、儂のお菓子を食べてるのは誰なのじゃ!」
頭上から声が響き、僕達の所に少しウェーブのかかった白くて長い髪をハイツインテールにまとめたミィが飛び降りてきた。
指差す彼女を見て、その幼女は口を大きく開けて目からポロッと涙を零した。
「えっ、えっ、えっ、何なのじゃ、儂は虐めてしまったのか?大丈夫じゃぞ、少しだけ、ちょっとだけ腹は立ったけど、そんなに怒ってはないぞ、どうせレンがすぐに作ってくれるからの。」
動転するミィに、お前のためだけのお菓子じゃないだろと思っていると、
「これまで、ただの一人も私に気づいてくれなかったのに、お前達は何なんだ?」
両手にジュースとお菓子を持って、顔をクリーム塗れにした幼女が大声だしてわんわん泣き始めると、ミィの怒りは霧散してしまい、困ったような顔をして僕を見た。
少し落ち着いた彼女に話を聞いてみると、彼女はおそらくはこのダンジョンのコアにされているメギド神の友人の一人らしく、前の世界では植物神の一柱で、かろうじて上位神に数えられる立場だったたらしい。
たまたまメギドの治める地に遊びに来た所、この災厄に巻き込まれ、気がついた時には、この庭園の中に閉じ込められ、誰にも気づかれることなく数十年間生きてきたらしかった。
「しかし、お前達は、どうしてこの庭園に張られている結界には弾かれなかったんだ?」
「あ〜、あれ結界だったのか。あの程度のものだと僕達には薄っぺらな紙ほどの障害にもならないかな。」
それにショックを受けたのか、幼女はは少し引きつった笑顔を見せた。
「私は出ようと思っても、全く出れなかったのに、一応これでも神の一柱なのに…」
そう言われて、改めて僕は結界を観察してみると、特定の相手にのみ強く働く結界であることが判った。
「それは仕方なかったみたいだよ。この結界は対象相手が限定されてて、外の獣人の人達と前の世界の神様だけに強く働くようになってるから、多分このコアを管理するメギドさんが設定したんだと思うな。だから、外の世界の住人である僕達には効果が乏しかったと考えて良いと思うよ。」
僕の説明に、その幼女はハッとして顔を上げ僕を見た。
「あと、そろそろ名前を教えてもらっても良いと思うんだけど、因みに僕の名前はレン、こっちの子はミィ。一応僕のパートナーになるのかな。」
その説明に身悶えしているミィはほっといて、その子は自分の説明を始めた。
「あっ、気づかなくてゴメンね。私の名前はウィストリア。ここに閉じ込められているメギドの友達で、植物を司る神の一柱だよ。」
その言葉にピンときた僕は、タマモを殺すことなくダンジョンコアに到達できる可能性に気づき、ウィストリアに尋ねた。
「単刀直入に聞くけど、ここの庭園には、ダンジョンコアへの入り口があると思うんだけど、どうなの?」
僕のその言葉に、ウィストリアは驚くほどはっきりと狼狽し、その声を震わせた。
「…メギドを殺すのか?」




