某国国防軍最高司令部からの日本政府総理官邸
「ど、どういうことなんだ!いったい何が日本で起こっているんだ!」
総司令部内に、国防軍最高司令部長官スミスの絶叫が響き渡った。
「二十層から三十層のダンジョン制覇の報告が上がってから十二時間も経たないうちに、新たに十層のダンジョン制覇だぞ!特級ダンジョンだぞ!そこらの野良ゴブリンしかいない雑魚ダンジョンじゃないんだぞ!」
興奮するスミスを横目に、情報捜査官の一人である士官が口を挟んだ。
「しかし、判明した事実もあります。特級ダンジョンには最低でも五十層以上の深層があるということです。これまでの報告では最高でも十層のダンジョンボスとの戦闘しか報告されていませんでしたが、特級ダンジョンの制覇はそんな甘いものではなく、それをはるかに超える戦力や補給のシステムを構築する必要があるということが判りました。」
その士官の言葉にスミスは目を細めた。
「お前は本気でそう思っているのか?それなら相当の阿呆だな。」
そのスミスの馬鹿にしたような口調に、その士官はムカッとした表情を見せたが、次の彼の言葉に唖然とした。
「良いか!日本の台場ダンジョンを攻略中の戦力は、僅か二週間程度で四十層まで攻略しているんだぞ。おそらくは一ヶ月程で攻略を完了するだろう。ここまでは理解できたか?」
スミスの言葉に、士官は渋々頷いた。
「世界に特級ダンジョンが幾つあるか答えてみろ。」
そのあまりにも簡単な質問に答えようとした時に、士官もある事実に気がついて黙り込んでしまった。
「気づいたようだな。世界にある特級ダンジョンの数は72ヶ所だ。一ヶ月でダンジョン攻略する戦力なら、僅か六年で地球にある特級ダンジョン全てを攻略できる計算になる。どれだけ長く見積もっても十年あれば、地球から特級ダンジョンが消滅するんだ。そのことが事前に判っているのに、ダンジョン制覇の為だけに我々が貴重な人材や資材を消費する必要があると思うか?」
「あ、ありません。その後に備えて人材や資材を浪費することなく備蓄することこそ国のために有効な手段と言えます。」
その士官の言葉に満足したのか、スミスはニヤリと口元を歪めた。
「その通りだ。我々が今成さなければならないことは、優柔不断で隣国に諂うあの国の政府に働き掛けて懐柔し、現在ダンジョン攻略中の戦力をこちら側に引き込むことこそが最優先の課題となる。」
すると、別の席に座っていた士官が面白い報告があると口を挟んだ。
「今回の騒動に伴い、日本国防衛軍横須賀前線部隊を、近藤防衛大臣が独断で品川埠頭へと移動させ、新たに品川に前線部隊本部を設営したのですが、現在では旧羽田空港さえその支配下に加えようとしています。その戦力と何らかの繋がりがある可能性があるのではないでしょうか?」
「それだよ。そういう報告を待っていた。現在その前線部隊の中にこちらと紐付きの隊員は存在するのか?いないなら親族とかに弱みを持つ隊員で懐柔できそうな奴はいないのかを検討してみろ。」
そのスミスの言葉に、その士官はすぐにデスクへと戻り、前線部隊隊員の全データを呼び出して、その検索に移った。日本のデータはダダ漏れである。第二次世界大戦の頃と何も変わっていなかった。
ーーーー
「総理!やりましたね。今の日本は全世界から注目の的ですよ。」
その自分をヨイショする小判鮫議員に少し辟易しながらも、満更でもない笑みを浮かべる岸破だったが、彼についている秘書は自分の業績でもない事象に小躍りしながら歓喜する議員達を冷めた目で見ていたが、その集団に紐付きは間違いないとまで言われている別の公設秘書が声をかけた。
「ご歓談中申し訳ございません。総理や自民党を強く支援されているあの方より、最近の日本国の素晴らしい業績を讃えて、是非とも慰労会を開催させて頂きたいとの申し出が入っています。」
それを聞いた小判鮫議員達が満面の笑みを浮かべていた。
「もちろん、岸破先生を支持される皆様方もご一緒にとのことです。」
その一声に歓声が上がっているのを見て、もうこの辺りが引き時かなと思う秘書だった。
「それと、現在品川前線部隊に出向しておられる近藤防衛大臣や土方副防衛大臣、もしダンジョン攻略中の部隊の関係者の方がみえるなら、是非ともご一緒に参加してほしいとのことでした。」
その言葉に岸破は明らかに不快感を示し、その公設秘書に告げた。
「彼らはね、そういう会には参加しないと頑ななんだよ。僕から頭を下げて彼らに出席を乞えということかな?」
公設秘書は顔色を変えて慌てて言い訳した。
「そ、そういうことではありません。あの方はあくまでも岸破先生を慰労したいとのことでしたので、わ、私の伝え方がうまくなかったようです。申し訳ありません。」
そんなバカ騒ぎの部屋を後にして、秘書は久しぶりに高校の先輩だった土方女史に連絡を取ることに決めた。
当然支給されている携帯やらPCは、政府や犬に盗聴されているはずなので、部屋に戻った秘書は、モニターの前のゲーム機のスイッチを入れた。
普段お世話になっているMMORPGを起動して、そのコミュニティサイトの中から、登録者が三十六人のチャンネル『独り身女の一人飯』を開いた。
「さてさて、最近はマトモなご飯食べてるのかな?」
そんな言葉を呟きながら、掲載されている画像を眺めていくと、
『缶詰使った簡単スパム丼』
『塩と沢庵と白飯とお茶さえあれば生きていける』
『マヨネーズこそが我が生涯の友』
『塩こんぶと田舎あられのお雑煮』
などなど、決して年頃の女性が口にしてはいけない単語の並ぶ題名が並んでいた。
「あの人はホントに変わらないな。」
そう言いながら、『マヨネーズこそが我が生涯の友』という題名の画像を開いた。
ーーー
[今日は魔物退治に忙しかったので、ご飯チンして、マヨネーズご飯にしました笑]
と書かれた後には、何も書かれていないコメント欄に書き込んだ。
[醤油が抜けています怒。パシリ]
そう書いてから、伝えたいことをまとめていった。
[昔よく行っていた中華から、新メニューのキンピラの案内が届きました。かなりの人に声かけしているようですが、僕としてはそんなゲテモノには関わりたくないのでスルーしました。先輩はどうするんですか?大先輩OBさんも今度にしよう。と言われましたが、甘辛タレたっぷりで病みつきになるような味付けらしいです。僕としてはオススメしませんが、先輩はどうしますか?]
(訳:以前からしつこい中◯の主席が、ちょっかいをかけてきており、今度大規模な集まりが企画されています。かなりの人間に声掛けがあり、首相に近藤大臣や僕、そしてあなたも誘うように提案されていました。かなりの賄賂、ハニトラ等が用意されているようです。参加は断るのが最善だと判断します。決まりましたら連絡下さい。)
「こんな文でも内容解読されたら、連絡なんてもう無理だよな。」
そう思いながら、岸破首相宛の辞表を書いていると、部屋に通知音が響いた。
「おっ、意外と早かったな。」
[私もやめとくわ。ところでパシリ!最近私の画像へのコメント少ないぞ!もっと協力するように。私はいつでもウェルカムだぞ(私も参加はしない。最近情報提供少ないぞ。もっと仕事しろ。嫌ならこっちへ来い)]
自分の本意が無事に伝わり、自分を受け入れてくれることを理解した秘書は、書き終えた辞表を備え付けのテーブルの上に置き、配布されていた制服やその他の秘書グッズも全て備品のタンスの中に納め、大きめのバックパック一つに収まった私品を背負って、その日のうちに部屋を出た。
翌朝、掃除に訪れた職員がテーブルの辞表に気づき、首相の元へそれが渡った時には、彼は既に淡路島から友ヶ島、地ノ島を経て、旧和歌山県和歌山市へと到達していた。




