お台場ダンジョン7
宴の後で、僕達はミライヤとその部下三十人程の部隊と共に階層を下り始めた。
「ミライヤ達の担当するダンジョンも十層から構成されると思ってたから、これは意外だったな。」
二十二層へと向かう階段を降りながら、僕はミライヤに尋ねた。
「他は違ったのか?」
僕の問いかけが意外だったのか、ミライヤはそう尋ねてきた。
「そうだね、最初の十層はゴブリンとオークがメインのダンジョンで、次の十層はウルフを主体にしたダンジョンだったよ。ボスは知性のある存在だったけど、それ以外は純粋に魔物だと言えたね。」
彼は少し考える時の癖なのか、顎に親指を当てて考えるように答えた。
「俺達獣王国が支配している階層は、二十一層から七十層までの五十層だ。当然、他の魔物も湧いてはくるが、各階層ごとに部隊を設置して対応している。当然、十層毎に存在するボス部屋には精鋭の部隊を配置してあり、出現するや否やに討伐することを心がけているんだが…」
その言葉を聞いて、僕は不思議に思った。獣王国の部隊がボスを討伐しても、これまでは世界の声がダンジョン制覇を伝えることはなかったと聞いていたからだ。
「ダンジョンボスを討伐した際に、世界の声が響いたということはありませんでしたか?」
「世界の声?それは何だ?神託のようなものか?」
驚くことに、僕達が上層を攻略した際に響いたあの声は、その階層より下には響いていなかったことが判明した。更には、ダンジョン内の魔物がダンジョンボスを倒しても、世界の声はアナウンスされないことも知った。
「時に、この辺りの階層にはどんな魔物がおったんじゃ?」
「二十台の階層の魔物は、全て昆虫型で、ボスもマンティスエンペラーだった。炎系の魔法に耐性のある魔物はいなかったんで、物理攻撃やその他の魔法に耐性のあるような魔物には、酸素不足にだけ気を付けて炎系魔法で対応すれば問題なかったから、攻略は意外と楽だったな。」
僕はその説明に納得したが、三十層のボス部屋を通過する時に、世界の声が響くかどうかが気になっていた。
そして、三十層を通過する時にそれは起こった。
【台場ダンジョン、第三十層のダンジョンボスが討伐されました。二十一層から三十層を閉鎖させることが可能となりました。閉鎖しますか?】
予想はできており、既に二十台の階層の魔物の素材は必要ないこともミライヤに確認してあったので、僕は即座に閉鎖するように伝えた。
【了承しました。台場ダンジョンに二十一層から三十層を閉鎖します…完了しました。】
「これが世界の声か…神託の時に聞かされたメギド様の声に似ているように思うんだが…お前ら、どう思う?」
ミライヤが部下達に尋ねていたが、何分にも五十年以上も前のことだったので、聞いていない者が殆どであり、結論は先送りにされた。
既に彼らが攻略済みの階層であることから、階下へのルートもはっきりしており、昼食後に、僕達は湿原の中に配置されている大石を飛び移りながら移動を続けていた。
「この階層は、蛙とか蛇の類かの?」
ちょうど沼から湧いてきた三メートルはあるであろう蛙の首を風魔法で飛ばしながら、ミィが周辺の獣人達に尋ねていたが、それは事実だったようで、三十一層から四十層までは湿原が続いており、時折り見かける魔物は全て爬虫類、両生類の系統の魔物だった。
「ねぇ、ミライヤ。このままボス部屋まで続くの?」
「いや、三十六階層からはリザードマンも姿を見せる。奴らはつるむことも知っているんで、他のと比較すると少々性質がわるい。」
「それは知的な、文明を形成できそうなリザードマン?」
「知的?言っている意味がよく判らんが、せいぜいオーク程度のレベルだぞ。ほっておくと集落を作るが、会話は全く成立しない。」
「そうか。ところで、この階層には獣王国の人達の食糧になりそうな魔物とか、素材になりそうな魔物とかはいるの?」
「全くいない。討伐担当になったものは、体毛がベトつくし、臭いし評判は悪いな。蛙は食料になる可能性もあるが、好きこのんで食べる奴もいない。飢えに襲われた時ぐらいだろ。」
そして、たまたま僕達がボス部屋に到達時した時に、ボスの一軍が湧いた。
リザードマンエンペラーを頭に、簡単な鎧や武器で武装したジェネラルやキング、メイジやソルジャーで構成された百騎程度の軍勢が姿を見せた。
「儂の出番じゃな。皆のものを引かせてくれるかの。」
ミィの言葉に合わせて、獣王国のボス部屋担当部隊が僕達の所へと戻り、ミィを残して僕達は十メートル程後ろに下がった。
ミィが空間庫より取り出した自分の背丈の倍近くある、金色の巨大な宝珠のついた鑓を構えると、宝珠より放たれたプラズマのような稲光が、ミィと鑓に纏わりついた。
あれはやり過ぎだろ。こっちの迷惑考えろと思いながらも、僕がミライヤを始めとした獣王国の人達に目を瞑って耳を塞ぐように指示をしたのと、鑓より飛び出した無数の稲光が宙を駆け巡るのはほぼ同時だった。
「「「目が、目がぁ〜!」」」
そんな悲鳴が巻き起こったが、ミィが鑓を空間庫へと戻し、少し顎を突き出して、両手を腰に沿えながら更にお腹を少し突き出したポーズで立っているのを見て、僕はムカッとして後ろから頭を叩いた。
「やり過ぎ。みんなに迷惑かけてるよ。」
そう言われて、頭を抱えながら後ろを振り向いたミィは、かなりの数の獣王国兵士が目を押さえながら苦しんでいるのを見て、申し訳なさそうに頭を下げた。
「素晴らしい魔法でした。ミィ殿は魔法も天才的なのですね。」
ミライヤの言葉に、
「彼女の本来の姿は魔法使いであって、剣術や槍術、格闘術はおまけですよ。」
と僕が教えてあげると、そんなミィのパンチ一発に沈んだ彼はショックを受けたようだった。
【台場ダンジョン、第四十層のダンジョンボスが討伐されました。三十一層から四十層を閉鎖させることが可能となりました。閉鎖しますか?】
その世界の声に同意を示すと、
【了承しました。台場ダンジョンに三十一層から四十層を閉鎖します…完了しました。】
さほど間を開けることもなく、世界の声は、新たな階層の閉鎖並びに消滅を宣言した。




