お台場ダンジョン6
「迷惑をかけてしまったな。誠に申し訳なかった。」
目を覚ますと僕達の前に正座して頭を垂れたミライヤは、開口一番に謝罪を入れてきたので、
「儂も初見では相手の強さは十分に理解できんかったから、やりすぎてしもた。反省しとる。」
と家の幼女も詫びを入れた。これでこの件は終わりにしようと話も纏まり、テーブルを囲んで椅子に座りながらミライヤは今回の件の経緯を説明してくれた。
「我が獣王国の王は巫女の力も有しており、神託が降りることがあるのだが、今より少し前にこの地に希望の星が舞い降りるとの神託が下った。詳細まで知らされておるわけではないが、我はその方を獣王の所まで案内する役を命じられてここに来た所存だ。しかし、素性の分からぬ得体の知れないものを王に直接会わせて良いものかと、他の四天王から苦情が入っての、一見しただけで安心できる存在と我は判断できたが、あんなことになってしまった。本当に申し訳なかった。」
更に頭を垂れようとするミライヤを制して、こちらは全く気にしておらず、あの子がやり過ぎてしまって、こちらこそ申し訳なかったと改めて僕は詫びを入れ、それに納得してくれたのかミライヤはやっと普通の笑顔を見せてくれて砕けた会話を交わせるようになった。
「しかし、レンの国の魔人というのは、ホントに強いんだな。俺達が元いた世界にも魔人はいたが、俺でも何とか対応できる程度の強さだったんだが、ミィよりはかなり格下だったのかな?」
「ん?お主勘違いしておらんか?儂は魔『人』ではなく、魔『神』じゃぞ。人ではなく神じゃぞ、魔人ごときに不覚を取るわけにはイカンじゃろ。」
その言葉にミライヤの顔が面白いほど蒼白になった。
「俺は神に喧嘩を売ったのか…」
消え入りそうな声で呟くミライヤに、
「久しぶりの殴り合いじゃったからの、儂は満足じゃの。」
ガハハと大笑いしながら答える幼女の声は届かないようだったので、僕は場の雰囲気を和ますために一つの提案をした。
「やっぱり、お互いの蟠りを無くすのには宴でしょ。僕が主催するから皆で宴を開催しよ。みんな〜宴だ!酒を飲むぞ〜!」
そう言いながら、酒を飲めもしないのに僕が宴を提案すると、事情を知らない周りの獣人達が喝采を上げた。
僕がこんな時の為に準備してあった蛮族用の宴会セットその①を空間庫から取り出して広場に設定していくと、女性の獣人を始めとした若い獣人達が喜んで協力してくれて、三十分もかからぬうちに、広場には松明が焚かれ、提灯がぶら下げられ、至る所に酒樽が準備されて、テーブルの上には丸焼きの巨大肉や巨大魚、色とりどりのフルーツやぼくお手製のデザートが並んだ。
「宴じゃ!宴じゃ!皆のもの飲み明かそうぞ〜!」
その声に周囲からは大喝采が上がったが、僕はその張本人の頭を軽く張って、お前はジュースだろと葡萄ジュースの入ったジョッキを渡した。
「え〜」
非常に残念そうな声を上げた彼女だったが、本来こういうことが大好きだった彼女の顔には満足そうな満面の笑顔が浮かんでいた。
「こんだけバカ騒ぎをしている仲間達を見るのは久しぶりだな。」
ジョッキを傾けながら、幼女と騒いでいる部下達の姿を見ながら黄昏ているミライヤを見て、僕は彼らのことについて尋ねてみた。
「ミライヤ達は最初からこのダンジョンで暮らしてたの?」
その質問に、彼は昔を思い出すように言葉を紡いだ。
「いや俺達が暮らしていたのは、こんな閉鎖されたダンジョンではなく、普通の世界だった。兵士と言ってもまだ素人同然の小僧だった頃に、先代の巫女様に突然託宣が下ったんだ。」
そう言いながら、彼は苦虫を噛み潰したような顔を見せた。
「『我は他の神々の謀りに気付かなんだ。お主達を巻き込んでしまうことを許してほしい。こんな情けない姿を晒さねばならぬこと誠に申し訳なく思う』そう御子様が叫ぶと同時に、光の柱に囚われた我らの信仰するメギド神の姿が天空に映し出されて、驚く俺達の目の前で、メギド様は四方から目もくらむような強烈な四色の光を浴びせかけられて、虹色に輝く宝玉へと姿を変えてしまったんだ。俺達は何を見せられているんだ?誰もがそう思ったと思う。そしてメギド様が目の前にできた真っ黒な渦のようなものに吸収されるのとほぼ同時に、我らの国の周りに真っ暗な深い闇が出現して、それが国を覆い俺達は意識を失った。気がついたら、ここにいたというわけだ。」
そう言って、ミライヤは拳でテーブルを強く叩き、慌てた僕は倒れかけたジョッキを支えた。
「メギドとやらは、他の神々にダンジョンコアへと変質させられたんじゃろ。彼女をダンジョンに封じる際に、それと紐付けられておったお主達もここに封じられたというわけか。」
「わ、判るのか!?」
驚愕の表情を浮かべたミライヤが、掴みかかるようにミィに詰め寄った。
「落ち着け、お主達の国はかつての世界でかなり有力な、それこそ最強の国だったのではないかの?」
「そ、その通りだ!何れその世界を制覇するのは間違いないとまで言われていた。王にその気がないので積極的に他と関わることなく、領土を拡張する気などサラサラない国だったが、周辺の住民達は民と共にある我らが世界を制覇することを夢見ていた。」
その説明を聞いて確信を持った僕も口を挟んだ。
「君達のいた世界は、国ごとに崇める主神が異なるのかな?」
「そうだ、我らの神メギド様を崇めるのは獣人以外にはいなかった。その獣人の中でさえ、全員がメギド様を讃えるわけではなかったが…」
「そのメギド様を信仰していなかった、あまり信じていなかった人達は、この世界に姿を見せた?」
「い、いや、見かけていない。」
僕達の会話に、周辺の獣人達は騒ぐことを止め、一言も聞き逃すまいと沈黙を守っていた。
「これはあくまでも推測であって現実ではないけど、おそらくこのダンジョンのコアは、メギド様だと思う。彼女と魂的に繋がりが強かった者だけが、一緒にこの世界へと呼ばれ、このダンジョンに閉じ込められたと考えると辻褄が合う。構想から見て、ここのダンジョンは複数の新造されたダンジョンを強引に一つに纏めたものだと思うけど、それを維持するためにはかなりの魔力が必要になる。それを供給する為のエネルギー源として、彼女を利用したんだと思う。」
「メ、メギド様は神に戻ることは可能なのか?」
情けない表情を見せるミライヤに変な希望を持たせたくなかった僕達は断言した。
「元の神に戻ることはまずない。おそらくは彼女もそれを望まない。」
「儂のように神としてではなく、この国で皆と暮らすことを望むかもしれんの。儂の姉のような気立ての良い神だったようじゃからの。」
ミィが自分と言わなかったのが偉いと感じた僕は、後で美味しいデザートでも作ってあげようと考えていた。




