お台場ダンジョン5
第二十一層へと降りてきた僕達を迎えたのは、軽装備の鎧を纏い、刀や斧などの武器を装備した数十人の獣人達だった。
「これは時間がかかるかもしれないから、一旦外に出て一寝入りしてから突入し直そうか。」
「儂もそう思う。言葉も通じそうじゃし、一悶着あるように思う。」
二十一層の入り口に三重の結界を張り、既に日が落ちて暗くなったダンジョンの外へと出た僕達は、ホームを設置して夕食を取り、お風呂に入ってからリビングの椅子に腰を降ろして、熱いミルクティを飲みながら、ビスケットを摘んでいた。
「いやぁ、本当に二十層から上の層は消滅してしまったんだね。ビックリだね。これまでにも幾つものダンジョン制覇してマスターにもなったけど、ダンジョンごと消すんではなくて、フロア毎に消せるなんて初めて知ったよ。」
「魔神だった儂でさえ知らなんだことじゃから、この世界のダンジョンが特殊なのかもしれんの。幾つかのダンジョンを無理やり合成して一つのダンジョンにしたなら、こんなことも可能かもしれんがの。」
「第十層のボスでも、そこいらのA級ダンジョン並みのボスの強さじゃったし、二十層のボスのあいつもA級或いはS級クラスの魔物じゃったからの。下に行くほど強くなるというより、十層ごとに異なる種類のダンジョンが出現するのかもしれんの。」
そんなことを話しながら、二十一層に集まっていた獣人達を思い出していた。
「一言ぐらい会話してから、入り口閉鎖した方が良かったかな。面倒くさそうだったから、即座に閉めちゃったけど…」
「仕方ないじゃろ。最初から友好関係が築かれているわけでもないんじゃから、喧嘩を売ってくるなら買えば良いだけじゃ。」
そんなことを話しながら僕達は床に入り、日の出と共に活動を開始して、僕の作った特製フレンチトーストと大きめサイズのマグカップに淹れた甘さたっぷりのカフェラテを飲んで第二十一層へと向かった。
階段を降りて昨晩の二十一層の入り口に来ると、その前には広場が作られて無数のテントが張られており、至る所で朝餉のための煙が立ち昇っていた。
「いやぁ、なんかほのぼのして良いですね。僕達もお願いすれば仲間に入れてもらえますかね。」
「どうじゃろか?あっ、ほれっ、気づいたみたいじゃの。」
入り口に張られた結界の向こう側に立つ僕達を見つけたのは、焚き木を運んでいる猫耳と長い尻尾を持つ明るい褐色の毛をした少女だった。
ただでさえ丸い目を、驚いて更にまん丸にして、僕達をジッと見つめると、突然持っていた焚き木を放り出して僕達を指差し、絶叫しながら全速力で駆けていった。
「どうする?少し待ってみようか?」
そんなことを話していると、二メートル以上のガッシリとした体躯に、白銀の部分鎧を身に纏った、いかにも幹部ですという雰囲気を持った虎型獣人の青年が数十人の部下を引き連れて姿を現した。
「>∏∑∆∃√∥∨∧∬∈∇」
その言葉に聞き覚えはなかったが、すぐに原語理解スキルが仕事をしてくれて、彼らの言葉での会話が可能となった。
「原語理解スキルを発動させたから、もう一度言ってくれる?」
僕のその言葉に、その虎型獣人は驚愕の表情を見せた。
「やはり只者ではなかったか、我らは恥ずかしながらここより上の階へは自力で上がっていくことは敵わんだ。そこを打ち破って降りてきた強者を我らは歓迎する。」
その虎型獣人の言葉に続いて、そこに集まった獣人達からは、勝鬨のような歓声が上がった。
「我の名は、獣王国アルマキア四天王が一人ミライヤと申す。もし宜しければ、一戦手合わせをして頂きたい。その結果を見て我らが王に会う価値がある存在か否かを判断するように申し付けられておる。いかがであろう?有るや無しや?」
「面白い!我が受けて立つ!」
僕が返事を返す前に、ミィが即座に受けて立ち、彼の前へと飛び出すと、ミライヤと名乗った獣人は困ったように僕を見た。まだ幼女と言われても仕方ない彼女が相手とあれば、彼の困惑顔も仕方ないことと言えた。
「大丈夫ですよ。かつての世界で魔神と呼ばれていた実力は申し分ない人ですから。」
その言葉に、彼はハッとしたような表情を見せ、両頬を平手で強く叩くと、気合いを一新して彼女の前に立ち、
「申し訳なかった。無礼を詫び全力でいかせてもらう。」
そう言ってから、腰に差してあった二本の太刀を抜いて、馬でも斬り捨てることが可能であろう大刀を彼女に構えた。
「その潔さや良し、我も全力でいかせてもらう。(ただし、魔法は抜きでの)」
最後の部分が小声だったのは、彼女が魔法を使用すれば一瞬で決着がついてしまい、下手をすると彼の生命を奪いかねないと判断したからと言える。
両手にアダマンタイトなナックルガードを嵌めた彼女が、挑発するように掌を上に向けて人差し指をクイクイしたと同時に、ミライヤは大型獣人と思えぬ程の速さで彼女に近づき、左手は薙ぎ払うように、右手は打ち下ろすように太刀を振るった。
彼女はその太刀をまるで受け流すかのように交わすと、桜の花が舞い散るように彼の眼前に姿を現し、右手の拳を振り抜いた。
全く交わすことのできなかったその拳を頬で受けた彼の顔は大きく歪み、成す術なく数十メートル程宙を舞い、直径数メートルはあるであろう大木に直撃して、倒れてきた大木の下敷きになった。
「すまんのじゃ!調子漕いてしもた!レン、急いで回復するのじゃ!」
多分そうなるだろうなと思っていた僕は、ミィの言われる前に現場へと向かい、片手でその倒木をどかして、彼に回復魔法ケアルを唱えた。
それら一瞬の攻防に、周囲の獣人達は成す術なく口をあんぐり開けて茫然としており、さっきの猫型美少女は、自分達が戦わずに済んだと考えたのか、あからさまにホッとした顔を見せて腰を抜かしていた。
獣人達は、僕達とミライヤをかなりの間隔を開けて見守っていたが、ミライヤの歪んだ顔や、あらぬ方向に曲がってしまった手足がゆっくりと元の形に戻り、至る所で張り裂けて骨が顔をのぞかせていた皮膚の傷が塞がり、僕のクリーンで血の汚れも無くなると、半分興味本位で近づいてきて、彼の容態を確認していた。
顔の血色も戻り、暫くして彼は目を覚ました。




