再び、某国国防軍最高司令部からの淡路島日本国政府総理官邸
「いったい、どうなってるんだ。攻略が早すぎるだろ!通常ダンジョンは、日を跨ぐと倒した魔物が全部同時に復活するんじゃないのか?俺はそう聞いてるぞ!」
某国国防軍最高司令部で、国防長官のスミスが部下の一人に詰め寄っていた。
「はい、その通りです。その情報に間違いはありません。重武装の連隊で第五層を中ほどまで攻略した際に日付が変わり、背後より復活した魔物に部隊が強襲され壊滅したのもその理由です。」
タラタラと冷や汗をかきながら顔面蒼白の痩せた士官がスミスに答え、隣にいたそれよりも階級が上と思われる軍人が更に説明を加えていた。
「おそらくは現在の通常兵器でも、弾薬の補給が十分であれば、第二十層の魔物の掃討は可能だと考えておりますが、先行する部隊に補給するための部隊も新たに出現した魔物を討伐する必要が生じますので、一層の広さが数十キロにも及ぶ特級ダンジョンでは、わが国の部隊全てを投入しても、理論的に難しいと判断せざるを得ません。」
「そうだよ、その通りだよ。じゃあ、なぜ奴らは第二十層まで攻略できたんだ。」
その独り言のように呟いたスミスの問いに、最初の痩せた士官が答えた。
「あくまでも推測ですが、彼らは通常の武器ではなく、なんの補給もない状態で、己の持つ力と魔法のみで第二十層まで到達し、ボスを討伐したと考えます。」
その言葉にスミスは眉を顰めた。ダンジョンが発生し、この国にも多くの魔法を使える人間や、身体能力の高い獣人族、高い魔力量を有するエルフ族などが出現するようになった。しかし、彼らに特級ダンジョンの攻略が可能かと問われれば、いとも簡単に否定できる程度のものだった。
「そんなことができる者が、我が国にも存在すると思うか?」
問われた士官は、口ごもりながら答えた。
「我が国の歴史上、そのような者は存在しないと考えます…ただ、一人だけ今は無理でも将来はと考えさせる者がいます。」
その意外な返答に、スミスは答えを促した。
「ほぅ、誰だ?的外れな答えであっても構わん。教えてくれ。」
「…火焔の魔女、引き篭もりのキャサリンです。」
それは十年ほど前に産まれたエルフの女児だった。この世に産まれた落ちた瞬間の産声と同時に、自分の親や医療従事者、当時の産院を燃やし尽くし、消火に当たった消防隊もほぼ壊滅させてしまうほどの焔を纏い、魔力枯渇に陥って気を失うまでに多くの命を奪っていた。
結局、ある程度の年齢になるまで、延々と薬で思考を鈍麻させて、点滴やカテーテルによる栄養注入で命を繋ぎ、言葉の理解が進んでからは、絶えず魔力枯渇の状態になるように誘導しながら、育成を続けていた。
「…あれか、しかし画像で確認できたあの化け物達の能力は、それ以上に思えるが…」
すると、別の士官が口を挟んだ。
「一度目の世界の声を耳にしたキャサリンは、『私をあのダンジョンへ派遣しろ。飼い殺すくらいならあのダンジョンに棄ててくれ』と騒いだようです。」
ーーーー
日本国臨時政府が置かれている淡路島の総理官邸で、岸破総理は頭を抱えていた。
「近藤君、いったい何をしてくれたんだ。まるで世界の声と連動するかのように、勝手に前線部隊を品川に移動するなんて、少なくとも私に一言相談くらいあっても良いだろ!」
お前に相談しても、やれ周辺の国への根回しやら、国民の理解が必要だとか言い訳しながら、延々と議会でウダウダするくらいで何も決められないだろと思いつつも、秘書はその言葉に慇懃無礼に答えを返した。
「迅速に行動する必要があったのでは。それに加えて日本防衛軍の的確な進軍は、政府のつまり総理の評価に繋がります。野党に足を引っ張られることも無かったのですから良しとすべきです。」
その言葉に納得したのか
「そうだよね。その通りだよね。近藤君も、我が内閣の一員だから、その手柄は私のものだよね。これで私の評価も上がるね。」
突然上機嫌になる岸破総理に呆れるような口調で、秘書は更に言葉を続けた。
「合衆国大統領からも、欧州首脳の方々からも、この華々しい業績を是非とも分け合いたいと称賛のメールが届いております。」
その言葉に大きく頷いている総理を見て、その文外にあるお前達だけで独り占めするのは許さんぞというニュアンスを汲み取れてはいないんだろうなと秘書は感じていた。
「更に周辺の国からは、早急の援助要請が入っています。要請に応じない場合は、それなりの対応を取らせてもらうという一文も加えられていました。」
それを聞いた総理は、苦虫を噛み潰したような顔を見せていた。
「また国会で手先の奴らが騒ぐんだろうな。閣議や国会病欠しようかな。」
とつぶやくのを見て、お前もその一員だろという言葉を秘書は飲み込んでいた。
「そうだ、次の国会には近藤君も呼んでもらえるかな。現在の旧首都東京の現況を説明してもらいたいと伝えといて、それにあの国の紐付きの石田君は、全然聞く耳持たないからおそらくは噛み付いてくると思うんだよ。近藤君がガツンと言ってくれたら少しは大人しくなると思うからね。」
答弁全てを彼に任せる気満々の、あまりの気楽さに秘書が閉口していると、極楽お気軽首相は、信じられない言葉を口にした。
「それに、特級ダンジョンを攻略できるほどの戦力が我が国にあるなら、それを武器に周辺の国のご機嫌も少しは取らないとね。」
「人間かどうかも判明していない存在を自分の都合で振り回すということですか?」
意外な質問を受けたというような顔をして岸破は秘書を見た。
「当たり前だろ。僕はこの国の首相だよ。この国に暮らす者全ては、僕の命令には従わないと。」
その言葉に秘書は真顔になって答えた。
「特級ダンジョンをあっという間に攻略していく武力を持つ者が、その命令に素直に従うとお思いですか?機嫌を損ねて、日本国政府に反旗を翻した場合はあなた自身が責任を取ると理解してよいですか?この国が滅んでも構わないということですよね。」
「何をマジになってんの。冗談だよ、冗談。」
そんなことを考えてもいなかったのか、自分の言葉を笑いで誤魔化す首相を見て、この国の状態は末期どころか、既に終わっていると考えを改めた秘書だった。




