お台場ダンジョン4
「十一層からはウルフ系の魔物が多くなるんだね。」
襲いかかってくる草原狼を片っ端から僕の石弾とミィの風刃が殲滅していた。
この階層からは、ダンジョンが洞窟から平原へと変化しており、所々にポツンと低木や大岩を確認することができたが、見渡す限りの草原だった。
魔力を感知できる僕達には、草に潜む狼達を感知することは容易いので、これまでの洞窟以上に戦いやすい戦場だった。
空には太陽のように見える光源があり、時間とともに移動していくので、時間感覚も狂うことはないように思
えた。
「夜になると、暗闇狼とかの夜型の狼の襲撃があるかもしれんの?まぁ、拠点を設置できる儂らにはあまり影響ないと言えるがの。」
数十メートル先に地下への階段を見つけ、今日は少し早いがこの地点で夜を迎えることとし、空間庫より1LDKの拠点を取り出して設置すると、周囲に結界を張った。
作り置きしてあった空間庫に入っていた料理は当たり前のように温かく、ボア肉を使ったカツと、異世界産の白米で作ったカツカレーを食べて、デザートに異世界フルーツ盛り合わせを食べた後に風呂に入って寝た。魔物の襲撃の可能性などは全く考慮していなかった。
翌朝、バターとジャムをたっぷり使ったトーストといつもの極甘カフェラテを飲んで外へと出ると、おそらくは結界に体当りして首の骨を折ったとみられる魔物の残骸が転がっていた。
大して役に立たないであろう大きさの魔石であったが、魔道具や魔石錬成の材料には使えるかもと空間庫へと収納して、僕達は攻略を再開した。
第十二層では所々に木立のような林が認められるようになり、チラホラと森林狼の姿を見かけるようになったが、それに加えて狼の餌になると思われる角兎の姿も目につくようになった。十一層でも気配は感じていたが草に隠されており、その姿は確認できていなかったので、少し新鮮な感じがした。彼らは僕達に襲いかかってくることはなかったのでそのままスルーし、狼だけをまるで簡単な掃除をしているかのように駆除し続け、夕刻には第三層の階段に辿り着いた。
一般的には草原狼より森林狼の方が強いと言われていたが、僕達にとっては大して差のない存在と言えた。
休んでは駆除するということを繰り返しながら九日目には、僕達は第二十層のボス部屋の前に立っていた。その頃には出現する狼も体長十メートルを超えるものが時折り出現していたが、魔法適性のあるものは少なく、ただ大きくて力があるだけなら、僕たちにとっては的が大きくなったという程度にしか思えなかったりした。
「この部屋のボスは、やっぱり図体だけ大きい狼なのかな?」
「これまでの傾向から考えると、大きくは外してないと思うの。」
そんなことを話しながら、ボス部屋の扉を開けると、僕達の目の前には一面の銀世界が広がっていた。
「氷系の魔物か、もしかしてフェンリルかなぁ?」
「フェンリル登場するには、まだ階層が浅すぎるじゃろ。あれは一応神級に分類されるからの。」
ーーーミャァ〜ーーー
「ボスはどこに居るのかな?もっと奥の方なのかな?見当たらないよね。」
「そうじゃの、一定の場所まで行かないと、姿を現さんタイプやもしれんの。」
ーーーミャァ〜ーーー
「こんな入り口に立っていても、寒いだけだから、さっさと奥の方まで行ってみようか。」
「しかし、少々期待外れじゃの。影狼か、闇狼の上位種がボスだと考えていたんだがの。」
ーーーミャァ〜ーーー
そんなことを話しているうちに、僕達は何の抵抗にも遭わずに部屋の奥にまで到達してしまった。
「いませんね。」
「留守なんじゃろか?」
ーーフンギャア〜、ギャッ!ギャッ!フンギャア〜ーーー
あまりのしつこさに僕達は、彼?彼女?の方を振り返って答えた。
「ごめん、ごめんね。気づいていたけど、あまりに小さかったから、無視していたらこのままスルーしてくれるかもと奥まで来てしまったよ。」
ーーーギャッ!フンミャア?ーーー
「今のお主の身体では、スピードやパワー、魔力総量その全てにおいて儂らには太刀打ちできんじゃろ。まだ幼体であるお主に力を振るうには、あまりに忍びなくて無視してしもうた。済まなかったの。」
そう言いながら、ミィはしゃがみ込んで、その体長三十センチ程の真っ白なモフモフの毛に包まれた子犬のような魔物を撫でまくっていた。
嫌がるかなと思ったが、その魔物は何も抵抗することなく、その愛撫に身を任せていた。
「儂がまだこの姿ではなかった頃、部下の一人にフェンと呼んだ氷雪狼がおったのじゃが、こいつがホントに可愛い奴での、こんな儂でも心から好いてくれておった。」
「そうだよ。碌な奴居なかったけど、あの子だけでは素直な良い子で、この僕でもさすがに殺せなくて、最後には回復魔法まで掛けてしまったもの。」
その言葉にミィは更に哀しそうな表情を見せていた。
「お主があの時回復魔法を掛けていなかったら、フェンは儂を護ろうと、お前の投じたブリューナクの前に飛び出すことはなかったの。」
その言葉に子犬は、今気づいたかのように僕をジッと睨むように見つめていた。
「儂らは、この後このダンジョンを攻略する予定じゃ。その時には世界の声からこのダンジョンをどうするかが問われるであろう。どうじゃ、儂らと一緒に旅をせぬか?」
ーーーフォンッ!フォンフォン!ーーー
その言葉に子犬は興奮したかのようにミィにじゃれつき、突然、特大の氷槍を上空に出現させると、それに自らの身体を貫かせて、ホントに嬉しそうな笑顔を見せながら、透き通った蒼白色のバスケットボール大の魔石を残して空間に消えていった。その氷槍に身を構えていた僕はそのあまりの一瞬の出来事に対応しきれず、それを見ていることしかできなかった。
【台場ダンジョン、第二十層のダンジョンボスが討伐されました。十一層から二十層を閉鎖させることが可能となりました。閉鎖しますか?】
「貴方に問いたい。ここのボス部屋だけを残すことは可能か?」
【その質問にお答えします。十一層から二十層は全てこの部屋と連結しています。この部屋のみ残存させることは不可能です】
「更に問いたい。この部屋のボスを使役すること、或いは召喚することは可能か?」
【理解不能、通常のダンジョンボスにそのような機能は設定されておりません。ダンジョンがある限り、ボス部屋に拘束され、部屋の消滅と同時に存在も霧散するのがダンジョンボスと考えます】
【時間です。閉鎖するか否かをお応え下さい。十、九…】
その問いへの答えは一択だった。あの子をこの部屋に縛り付けることは二人共に望みはしなかった。
「消滅でお願いします。」
【了承しました。台場ダンジョン十一層から二十層を閉鎖します…完了しました。】
その日、再び特級ダンジョンの一部が更に閉鎖されたことは、世界の声を経由して全世界へと伝えられた。




