初めてのお泊り!
「とうとう貰い手が見つかったなっ!」
「相手まだ子供じゃねーかっ! そういう趣味だったんだなっ!」
「坊主! 幸せにしてやれよっ!」
手続きのためにギルドの中に入ったらかなり目立っていた。
さっき騒ぎを起こしたのもあるし、コロネットさんがギルドの1部で有名だったからかもしれない。
「うっさいわねっ! 頼まれたから仕方なくパーティーに入ってやっただけよっ!」
「わたしはまだ反対ですけどねっ!」
にらむようにコルネットさんを見るクイーカさん。
でもその目はまだ赤くなっている。
そしてさっきまで説教していたリュートさんは僕の肩に乗っていた。
中身はリュートさんでも素直に可愛いと思った。
だからこそかもしれないけど。
「あんたもしつこいわねっ! こいつがいいって言ってるんだからいいじゃないっ!」
「あんたって言わないでくださいっ! こいつとも言わないでくださいっ!}
「アタシ、あんたの名前知らないわよ」
「クイーカですっ!」
「はいはい。仲間だから覚えてあげるわ」
「わたしはコルネットさんのことはまだ仲間って認めてあげてませんからっ!」
「2人ともそこらへんで……」
またアンクルンさんに怒られそうだと思った。
そのアンクルンさんは受付にある椅子に座りこちらを見る。
「ずいぶんと賑やかなパーティーになりそうですね」
「本当にそうですね……」
「全くだ」
言いながらリュートさんが大きな欠伸をした。
「とりあえずパーティーを登録しますね。新しく人を入れたい時や誰か抜けるときもここで手続きをお願いします」
「登録って何をすればいいんですか?」
「登録したい人のマイステータスカードを渡してくれればこちらで作業します」
「分かりました……」
さっきコルネットさんに見せたばかりだけど、まだ誰かに見せるのは恥ずかしいと思った。
だけど見せないと始まらない。
「これです」
「受取り……ました。他の2人もお願いしますね」
ぼくのステータスを見て一瞬、顔がこわばったけどすぐに表情を戻したのがさすがプロだと思った。
「アタシのはこれよっ!」
自信満々に見せるコルネットさん。
魔力がずば抜けて高い上に他の数値も平均以上だ。
「これは確かに凄いステータスですね……」
見ながらクイーカさんは感心するように言う。
そういうクイーカさんも低いというわけではなく、平均的なステータスはあった。
「アタシって凄いでしょっ!」
褒められて嬉しかったのか胸を張る。
「もっと敬ってもいいわよっ!」
「はいっ! 凄いと思いますっ! これだけステータスが高くて仲間を作れないなんて逆に凄いですっ!」
「高貴なアタシにみんな遅れをなしたんだわっ! そのおかげでアタシと仲間になれたんだからありがたく思いなさいっ!」
「高貴なコルネットさんにはもっと相応しい相手がいるんじゃないかしら?」
「もしかして、きなこのこと取られると思って焦ってる?」
「そっそんなわけないじゃないですかっ!」
「分かるわ。アタシみたいな美少女が入ったらきなこなんて一発でめろめろに……」
「なりませんっ! なりませんっ! 絶対になりませんっ! ですよねっ!」
ぐいっと顔を近づけてクイーカさんに言われる。
ですよねっ!
と言われても返事に困る……。
「きなこも困ってるじゃない。そりゃ本人の前じゃ言いにくいわよね」
「貧乳がうるさいですよっ!」
「アタシは貧乳じゃないわよっ! 平均ぐらいあるわよっ! あんたが牛みたいに大きいだけよっ! 本当に下品なおっぱいしてるわねっ!」
「下品って! 下品って! 下品って言いましたっ!? そんな格好のコルネットさんに言われたくないですっ!」
「アタシのこれは正式な衣装よっ!」
「わたしのこれも正式なおっぱいですっ!」
「そろそろ静かにしてくれないでしょうか?」
静か、でもよく聞こえる声。
明らかにアンクルンさんが怒っていた。
そりゃあれだけうるさく口喧嘩をしていれば当たり前だと思う。
2人はもじもじとした表情を浮かべて黙った。
「登録終わりましたし静かになりましたし説明しますね」
にっこりと微笑むアンクルンさん。
それぞれのマイステータスカードを返していく。
「クエストはあそこの掲示板に張り出されます」
アンクルンさんが指差す先には数人の人が集まってた。
これはどう、あれはどうとか言っている。
「やりたいクエストがあったら張り出している紙を持ってきてください。ただクエストには条件があってパーティーレベルを上げないと受けれないのもあります」
「安全のためでしょうか?」
「そうですね。そうやって理解してくださるとありがたいです。いきなり高難易度のクエストをしたがる人も多いですし」
言いながらアンクルンさんはコルネットさんを見る。
「ん? アタシは何もしてないわよっ!」
「何でもないですよ」
にこりと微笑んでアンクルンさんが言うと
「よかったー」
安堵の声が聞こえた。
コルネットさんはアンクルンさんが言う高難易度のクエストをしたがる人にぼくも見えた。
「できたらさっそくクエストを受けたいんですけどっ!」
なぜか右手を上げながらクイーカさんが言った。
「お金を少しでも稼いどきたいんですっ!」
クイーカさんの言葉に
「ああ……」
扉がなくなった入り口を見るアンクルンさん。
「そうですね……。まだ張り出してないのから……」
ごそごそと机の中を探す。
「これなんかどうでしょう?」
ミッピン洞窟に生えるミッピンきのこを取ってくる。1個1000クルトン。
と書いてある。
「1個1000クルトンって凄いですね……」
10個とったら1万クルトン。
100個とったら100万クルトン。
どんなきのこなのか想像もできない。
「ミッピン洞窟って難しんですか?」
「そうでもないわよ」
答えてくれたのはコルネットさんだった。
「大した魔物もいないはずだし、ミッピンきのこは数が少ないから高いんだわ」
「そうです。とても高級なきのこですけど、お偉いさんがパーティーをするのに必要って言ってきたんです。しかも明後日までに」
「だからいつもより高く買取るってことね」
「はい。本当は掲示板に貼る前に紹介するのは駄目なんですけど、特別ってことで」
「いいクエストがありましたねっ! きなこさんっ!」
「うんっ! それじゃ受けさせていただきます!」
「はいっ! では手続きをしますね……完了しましたっ!」
「早いっ!」
「クエストとパーティーナンバーを紐付けするだけですので。もうクエストしても大丈ですが夜は危険なので明日するといいと思います」
ぼくたちはアンクルンさんにお礼を言ってギルドを出た。
「もう遅いから私は帰るぞ。クイーカ、ちゃんと真面目にやれよ」
出る時にリュートさんがいなくなった。
いなくなった直後にクイーカさんが
「もう来なくていいですっ!」
と悪態ついていた。
「ちょっと暗いですね」
外は暗くなり始めている。
この世界に来て思ったより時間が経過したんだなって思った。
「初めてのクエストっ! 楽しみですねっ!」
「うんっ!」
初めての冒険っ!
胸がわくわくしてきた!
「きなこさんはお腹空いてます?」
「そんなに減ってないかな」
「わたしも何ですよね」
「あれだけお肉を食べたらね……。コルネットさんは?」
「アタシも今は食べなくてもいいぐらいだわ」
「それじゃ宿屋を探しましょう!」
言いながらクイーカさんが手を差し出す。
だから僕もその手を握って……
「ちょっと待ってっ!」
「いきなり大きな声を出さないでくださいよっ!」
「何で普通に手をつないで歩こうとしてるわけ?」
「何でってわたしときなこさんが手をつないで歩くのは当たり前じゃないですかっ!」
当たり前ではないって思った。
「街中を手をつないで歩くって……」
みるみる顔が赤くなっていく。
その様子を見てクイーカさんがにやりと微笑む。
「わたしたちは手をつないで歩きますけど、コルネットさんはどうします?」
コロネットさんは自分の手とぼくの手を交互に見る。
そして……
「あっアタシも手をつないで歩くわっ!」
ぼくの手を握った!
クイーカさんの手とはまた違う感触につつまれる。
「あっっっっっっ! 何やってるんですかっ!」
「どうします? って言ったのはクイーカだわっ! ほらっ! 行くわよっ!」
言いながらコロネットさんが歩く。
ぼくはクイーカさんとコロネットさんに挟まれて歩いた。
なんだかとても恥ずかしかった。
お姉さんに案内されている迷子の子供みたいだと思った。
宿屋につくまでぼくとコロネットさんは顔を真赤にして歩いた。
「やっとついたわ……」
宿屋に着くと脱力したように手を離すコルネットさん。
そんなに恥ずかしかったのなら意地はらなくてもよかったのに……。
「へいっ! 3人かい?」
宿屋の主人がクイーカさんに言う。
ひげがもじゃもじゃで筋肉質で強そうだと思った。
絶対にぼくより強い。というかこの街のほとんどの人はぼくより強い。
「3人です。部屋空いてます?」
「ちょうど2人用の部屋が1つ、1人用の部屋が1つあいてるよ。1泊1人2000クルトン。飯はついてないぞ」
「それじゃそれでっ!」
「まいどっ!」
言いながら宿屋の主人は鍵を渡し、クイーカさんはお金を払った。
「はいっ! コロネットさんっ!」
とても爽やかな笑顔だった。
「1人用の部屋の鍵ですっ!」
「えっ! アタシが1人用の部屋なのっ!」
「はっ? 当然じゃないですか。何言ってるんですか?」
「ぼくもちょっと驚いたけど……」
「えっっっっ! なっ何でですかっっっっ!」
驚愕の声が聞こえた。
ぼくは自分が1人部屋だと思っていた。
「きなこは戦えないから用心のためにアタシと同じ部屋に泊まるのが常識だわっ!」
「そんなの常識じゃないですっ! っていうかこんな街中で襲われることなんかないでしょっ!」
「よっ……用心のため!」
「そう言って本当はきなこさんと同じ部屋に泊まりたいだけでしょっ!」
「ちっ違う……アタシはそんなんじゃ……」
「アタシはきなこさんと一緒に寝たいから同じ部屋に泊まりたいんですっ!」
「へっ変態っ!」
「むっつりのコルネットさんよりましですっ! それに好きな人の前では変態になるのがいい女なんですっ!」
「そんなの聞いたことないわよっ! っていうかクイーカといると危ないからアタシが一緒の部屋に泊まるのがいいわっ!」
「コルネットさんみたいなむっつりの方が2人なった時に危険なんですっ!」
「アタシはむっつりじゃないわっ! 本当にむかついたっ! 表に出なさいっ! 勝負よっ!」
「望むところですっ!」
クイーカさんは宿屋の主人に鍵を預けた。
そして2人は勢い良く出ていく。
「あの……1人部屋の鍵、いいですか?」
「まいどっ!」




