VS結界術師兼召喚術師、グンデル!
洞穴の中は思ったよりもひんやりとしていた。
それにとても静かだった。
洞穴の外ではニャルティさんが大暴れしているはず。
でもそんな音は一切聞こえない。
どうやら結界は音も遮断しているみたいだった。
ぼくはリュックサックからたいまつを取り出してつけた。
ついでに出てきた小瓶も手に持った。
カズーさんがくれたもの。
役に立たないはずがないって思った。
「とりあえず……」
ぼくは結界の近くに触媒がないか探した。
あってくれたら壊してしまえば終わり。
ほっと一安心できる。
けれどもそうはうまくはいかない。
触媒はなかった。
「もう少しだけ探そうかな……」
ぼくは振り向いた。
「ほう……この結界を通り抜けるとはナ」
「!!」
振り向いたら目の前に男の人がいた。
ぼろぼろに破けたローブを身にまとっている。
頭には大怪我をしているみたいにぐるぐると包帯を巻いていた。
首元でアクセサリーのように身に着けているのは触媒。
やっぱり持ち歩いているみたいだった。
そして隣には大きなガルゴンドがいる。
ガルゴンドを近くで見るのは初めてだった。
緑色の皮膚。巨大な爪と牙。小型の恐竜にしか見えない姿。
ニャルティさんが簡単に倒していた。駆除していた。
でもぼくなんて簡単に殺される化物だと思い知らされた。
「……破ったわけではなさそうだナ」
ナハハハハハハ。
と不思議な笑い声を出す男性。
すぐに襲ってくるわけではなさそうだけれど……
「入ってすぐに敵がいたら、または10秒探してなかったら外に出るのじゃ」
ぼくはニャルティさんの言葉を思い出す。
今は両方、当てはまっている状況。
逃げなくちゃっ!
「動くナ」
ガルゴンドがすぐ近くにいる。
爪がぼくの首筋に置かれていた。
少しでも動くと……
「動いたら殺すんだナ」
首をちぎられると分かった。
「逃げるナ。逃げようとしたら分かるナ?」
ぼくは黙ったまま頷いた。
「そのまま座るんだナ」
言うとおりにするしかなかった。
ぼくは男の方を見て座った。
「あっちに行っていいんだナ」
それはぼくに言ったのではなく、ガルゴンドへの命令だった。
ガルゴンドは洞穴の奥へと移動する。
「あれがいるとまともに会話ができなさそうなんだナ」
どうやらぼくはすぐには殺されないみたいだ。
でも数秒後にはどうなっているか分からない……。
ぼくはぎゅっと小瓶を握った。
「我は結界術師兼召喚術師、グンデルなんだナ。お前の名前はなんて言うんだナ?」
「ぼくは……きなこです」
「ふむ」
考えるように包帯をさわる。
「お前は移住人なんだナ」
「!!」
思わずぼくは驚いてしまった。
「我は見ただけで相手のステータスが分かるんだナ。そんな特殊なステータスは移住人以外ありえないんだナ」
「……移住人ですけど」
「我は魔王の幹部なんだナ」
「幹部っ!」
思わず大きな声を出してしまった。
「どうして幹部がここに?」
結界の中にいる幹部。
同じ状況だけど、意味はニャルティさんと全然違うって思った。
「ライドンの街の貿易を途絶えさせるためだナ」
なぜか素直に教えてくれる。
「あそこの街のバザールを潰せと魔王に命令を受けたんだナ」
「魔王に……」
「やり方も指示されたんだナ。強力な結界を作って洞穴にこもるようにってナ。面倒くさいけど命令だから仕方ないんだナ」
「どうしてそんなに色々教えてくれるんですか?」
なぜか幹部だというのに敵意を感じなかった。
むしろ向こうから仲良くしようという意思を感じるぐらいだ。
「我はお前を仲間に誘おうと思うんだナ」
「へ?」
思わず変な声が出た。
あまりに予想外の言葉だった。
「ん? 正確にいうと違うんだナ。我は別にお前を仲間にしたいとは思ってないんだナ」
「じゃ、どういう意味?」
「魔王がお前を仲間にしたいって言ってるんだナ」
「えっっっっっっっ!」
びっくりして思わず大きな言葉が出た。
魔王がぼくを仲間にしたい?
何かの冗談にしか思えなかった。
「確かにお前の能力は貴重なんだナ。あらゆる秘密の場所に潜り込めるんだナ」
「でもどうしてぼくのことを……」
「魔王は何でも知ってるんだナ」
「でもそれでぼくが仲間になるはずがないと思います……」
「我もそう思うんだナ。でも大事なことを教えるんだナ」
「大事なことって?」
「魔王は移住人。元はお前たちが住んでいた世界の人間なんだナ」
今度は言葉がでないぐらい驚いた。
驚愕した。
そんなの予想もしなかった。
「これは幹部しか知らないことなんだナ。でもお前には教えてもいいって言われてるんだナ」
「だからぼくを仲間にしたいって言ってるんですか?」
「それは分からないんだナ。そうかもしれない、そうじゃないかもしれないんだナ」
本当によく分からない展開だった。
もちろん仲間になるつもりはない。
ぼくはバザールが好きだ。
どんな理由があろうと、バザールを潰そうとする人の仲間になるつもりはなかった。
「それでその話を踏まえてもう一度聞くんだナ」
ぼくはこっそり小瓶を握る。
「仲間になるか……」
「えいっっ!」
ぼくは小瓶を投げたっ!
小瓶は割れて中の液体が顔につく。
「くっ、臭いんだナっ! 鼻がどうかなりそうなんだナ!」
どうやらグンデルは魔族の何かのようだ。
苦しそうに鼻を押さえている。
「ひ、卑怯なんだナ。話の途中に襲うなんてナ」
「悪いけど、こうしないとぼくは何もできないからっ!」
ぼくは飛びかかり首飾りを引き千切る!
そして触媒を地面に叩きつけたっ!
「殺すんだナ!」
結界が消えたのとグンダルが叫んだのはほぼ同時だった。
命令を受けたガルゴンドがぼくに向かって突進してくる。
鋭い爪を見せながら。
そしてぼくは動けなかった。
ガルゴンドから向けられる死のイメージに固まってしまった。
「でも自分の仕事はできたから……」
ふと体の力が抜けた。
もしかしたら諦めてしまったのかもしれない。
「きなこさんっ!」
声が聞こえると同時に
どんっ!
と衝撃を受けた。
ぼくは洞穴の壁にぶつかった。
そしてクイーカさんが上にいるのが分かった。
「くっ、クイーカさんっ!」
クイーカさんは苦しそうな顔をしてた。
見ると肩から血を流している。
「クイーカさんっ!」
ぼくはクイーカさんに守られた。
でもそのせいでクイーカさんが怪我をしてしまった。
「だ、大丈夫です。ちょっと怪我しちゃっただけです」
でもクイーカさんはぼくに向かって笑顔をみせてくれる。
いつもの、優しい笑顔を。
「ごめんなさい」
ぼくがあんなところで立ちすくんでいたから。
だからクイーカさんが……。
「きなこさんのせいじゃないです。きなこさんは立派に自分のやるべきことをやってくれました」
「でも……でも……」
「そしてわたしも自分の仕事ができて嬉しいです」
「そうよっ!」
コルネットさんの声が聞こえた。
見るとコルネットさんがぼくたちとガルゴンドの間に割って入っていた。
「ニャルティが囮になって、きなこが結界を破って、クイーカがきなこを守ったわっ!」
コルネットさんの右手が燃える。
「あとはアタシの番ってわけねっ!」
「こっ殺すんだナ。そのエルフから殺すんだナ!」
「一発で決めるわっ! クイーカっ!」
「はいっ!」
「全てを焼き尽くせっ!」
「水の精霊よっ! わたしたちに水の加護をっ! 水の精霊よっ! わたしたちに水の加護をっ! 水の精霊よっ! わたしたちに水の加護をっ! 水の精霊よっ! わたしたちに水の加護をっ! 水の精霊よっ! わたしたちに水の加護をっ!」
ぼくたちの周りを水の泡がつつみ、コルネットさんの左手が灼熱に燃えた。
「お前、馬鹿なんだナ! こんなところで何をしてるんだナ!」
そしてコルネットさんは叫んだ。
「インフェルノバードっ!」
瞬間、巨大な炎の鳥が現れた。
少し触れただけでガルゴンドが燃え上がっている。
「むっ! 無茶苦茶なんだナ!」
ぼくもそう思う。
でもその無茶苦茶さがコルネットさんのいいところだった。




