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クエスト出発!

「ハープって本当によく働くわね」


朝食を食べ終えてのまったりした時間。

でもハープちゃんはぱたぱたと動き回っていた。

綺麗なメイド服を着て。

会って次の日に買いに行ったけれど、メイド服がいいってハープちゃん選んだ。

とっても似合ってるし、買ってよかったと思う。

でもこの世界にもメイド服があったのが一番の驚きポイントだった。


「ですね。いてくれて本当に助かっています」


ハープちゃんが来て数日だけど、本当にそう思っている。

料理自体はぼくが作っている。

でもそれを運んでくれるだけでとても楽だ。


「そうじゃのう。屋敷も綺麗になったし雇ってよかったぞ」


「ニャルティ、首撥ねるとか言ってたくせにっ!」


「あんなの冗談に決まってるじゃろう……」


「分かってたけどね。でもクイーカはまだなの?」


コルネットさんは扉の方を見る。

当たり前だけれど、見たからってクイーカさんがやってくるわけではなかった。


「ハープに起こすように言ったわよね?」


「昨日から言ってました」


「妾も言ってたしのう」


「あんまり出発が遅くなるのもまずいんじゃない?」


「ですね」


今日はクエストで遠出することになっていた。

初めての討伐クエスト。

しかもギルドからの指名だった。


「オウフェンス平原でガルゴンドが大量発生しているんです」


ぼくは昨日のギルドでの出来事を思い出す。

アンクルンさんが言うにはガルゴンドは爬虫類の2足歩行魔物らしい。

トロールよりちょっと強いぐらいだけど、大量にいるとやっかいだそうだ。


「平原を通るのが難しくなって物や人の移動に障害が発生しているんです。このままでは非常事態になる可能性もあります」


「ガルゴドンなんて全部倒しちゃえばいいじゃない」


「そうじゃな。今の話じゃと別に妾たちである必要性は皆無じゃ」


「実はガルゴドンといっても普通のとは違って魔法で作られてるみたいなんですよ」


「ふむふむ。つまり近くに召喚系の魔術師がいるというわけか」


納得するようにうなずくニャルティさん。


「でも魔術師がいる洞穴には強力な結界があって、にっちもさっちもいかなくなってるんです」


「そこできなこの出番というわけじゃな」


「そこで……の意味が分かりませんでしたっ!」


なぜか右手を上げてクイーカさんが言った。

ぼくの方は理由は分かっていた。


「アタシもよく分かんないんだけど」


「ん? お主らは知らんかったのか? きなこには結界が通用しないんじゃ」


「えっっ! 本当にっ!?」 「すっ! すごいですっ!」


2人はとても驚いていた。

そんなに驚かれるとは思わなかった。


「じゃから妾を閉じ込めていた結界も通り抜けてたじゃろう」


「なんできなこには結界が効かないの?」


不思議そうな顔でぼくを見るコルネットさん。

なんだか恥ずかしい……。


「そうですよね。そんなスキルありませんし……」


「結界無効のスキルなんて元々しないはずじゃ」


「ではなんで……」


「ステータスじゃな」


「ステータス?」


コルネットさんは首を傾けて言う。


「結界にステータスが関係あるの?」


「調べたんじゃが結界はやはりスライム以上の強さがないと反応しないみたいじゃ」


「だからきなこには結界が効かないのねっ! なるほどだわっ!」


結界が効かないと言われると嬉しい。

スライム未満だと言われると悲しい。

当たり前のことだった。


「性質上、きなこさんを防ぐ結界を作るのは不可能。と我々も結論を出しました」


その言葉にそれを聞いていたギルド内の人達がざわざわと話しだした。

どうやらなかなか注目されているクエストだったみたい。


「結界が無効だとよ……」


「そんなの聞いたことねーよ」


「凄いわね。うちのパーティーに欲しいわ」


「そりゃどこも欲しがるだろ」


「でもステータス、スライムより低いらしいぜ」


「だからこそ結界が無効なんだろ」


「戦闘力は周りでカバーできるしな」


「見た目も可愛いし、声かけとけばよかったわ」


どうやら結界が効かないことはぼくが想像していた以上に凄いことだったみたいだ。


「そういうわけでこのクエストもきなこさんのパーティーに依頼するのが一番だと判断したというわけです」


「なるほどのう。つまりきなこが洞穴に入り、結界を破壊する。そして妾達が洞穴に入って、ガルゴドンを生み出している魔法使いを倒す」


「そういうことです」


つまりぼくは1人で敵の陣地に入らなければいけないみたいだった。


「そっ、そんなの危険すぎますっ!」


クイーカさんが大きな声を出した。


「1人でそんな洞穴に入るなんて、絶対に駄目ですっ!」


「……そうね」


どうやらコルネットさんもクイーカさんの意見に同意する様子だった。


「アタシもきなこがそんな危険な目に合うなら、積極的にやりたいとは思わないわ」


「そうですよね」


うなずき、アンクルンが言った。


「ですが洞穴の結界を破るには最上級の結界士が必要です。呼ぶには2週間かかります」


クイーカさん、コルネットさんを見ながらアンクルンさんは言葉を続ける。

説得するように。


「その間に手がつけられないほどガルゴドンが増えるのは避けたいです。なのでぜひきなこさんにお願いします。無理みたいなら引き返しても仕方ないと思いますし」


「……きなこはどう思うんじゃ?」


「ぼくは……このクエストを受けたいです。自分の力は役に立てるならっ!」


「ありがとうございますっ!」


アンクルンさんが大きな声で言った。


「結界がどうにもならずに困ってたんです。本当に助かりますっ!」


「……きなこさんがそう言うなら、仕方ないです」


ちょっと不満そうにクイーカさんは言った。


「きなこさんにしかできないことならしょうがないと思います」


「では手続きをします。出発は明後日になると思います」


「じゃがオウフェンス平原は遠いじゃろう?」


「はい。ですが今回は特別に馬車を用意します」


「馬車ですかっ!」


嬉しそうな顔をするクイーカさん。


「わたし馬車乗ってみたかったんですっ!」


「……随分と嬉しそうじゃな」


「そうね。さっきまできなこが危険な目はっ! とか言ってたくせに」


「それはそれっ! これはこれ、ですっ!」


そんなこともあってぼくらは朝ごはんを食べたら馬車で移動することになっていた。

でもまだクイーカさんは降りてこない……。


「ハープっ!」


直前を通ったハープちゃんをコルネットさんが呼び止めた。


「コルネット様っ! 何かようっすかっ!」


びしっと敬礼をして立ち止まるハープちゃん。

真面目なのかふざけているのかよく分からない……。


「クイーカ、起こしてくれって頼まれたでしょ?」


「頼まれたっす!」


「まだ起きてないんだけど」


「そうみたいっすね!」


「ちゃんと起こした?」


「ばっちりしっかりくっきりのっぺり起こしたっす!」


のっぺり?


「でも起きてないんだけど?」


「起こしに行った時にクイーカ様からまだ寝かせといてって命令を受けましたっす!」


「だからそちらを優先させたってわけ?」


「そうっす!」


「……どうやら上書きで命令は更新されていくみたいね」


「そうみたいだわ……」


「何か問題でもあったっすか?」


「これからはアタシ、きなこ、ニャルティとクイーカの命令で食い違いがあったらアタシ達の方を優先させて」


「了解っす!」


再びびしっとした感じで敬礼をする。

どこで習ったんだろうって疑問に思う。


「それじゃクイーカを起こしてきてくれない?」


「分かったっす!」


言いながらダッシュで食堂を出る。


「起きるっす! 早く起きるっすよ!」


二階から声が聞こえる……。

どうやらそうとう激しく起こしているようだ。


「おっ……お早うございますぅ……」


そして髪の毛がいつも以上にぼさぼさな感じでクイーカさんがやってきた。

まだ眠いのか大きな欠伸をしている。


「今日はお休みの日なのにそんなに起こさなくてもいいじゃないですかぁ……」


「は? 何言ってるのよ。今日がクエストの日でしょ?」


「あれ?」


クイーカさんは考え込む、


「そうでしたっ! すっかり勘違いしてましたっ!」


そしてわたわたと用意してあった朝ごはんを食べ始めた。

勢い良く食べたせいか、咳き込むクイーカさん。


「どうせ予定よりは遅れてるんじゃ」


優雅に椅子に座っているニャルティさんが言った。


「馬車なんぞ待たせておけばいいんじゃ。あいつらは待つのも仕事じゃからのう」


「そっ、そういう訳にはいかないですっ!」


言いながら勢い良く朝食を食べていく。


「ごちそうさまっ!」


そしてばっと立ち上がって、自分の部屋へ戻っていく。

外では馬がひひーんと鳴いていた。


…………

…………


「いってらっしゃいっす!」


門のところでハープちゃんが手を振っている。

だからぼくも


「いってきますっ!」


と振り返した。

ぼくらは馬車の荷台に乗っている。

奥にニャルティさんとコルネットさん。

外側にぼくとクイーカさん。

いつもより少し早いスピードで馬車は進んでいる。

なんだかいつもと違った景色に見えた。


「きんなこっ!」


見るとカズーさんがいた。


「大事なクエストなんだってなっ! これ持っていけっ!」


そう言って小さい何かをぼくに投げる。

ぼくは落としそうになりながらも取ることができた。

見ると液体が入っている小瓶だった。


「何をもらったんですか?」


興味深そうに覗き込んでくるクイーカさん。


「何か液体が入ってるみたいですね」


「それは魔族が嫌がる匂いを放つ液体じゃな。なかなか貴重なものじゃぞ」


「ニャルティも苦手なの?」


「あまり得意ではないな。今も気になるぐらいじゃ」


「それじゃリュックサックに入れときますね」


ぼくはリュックサックの中に小瓶を入れる。

割れる心配がないのは嬉しい。


「でもどうしてそれを渡して来たのかは謎ですよね……」


ちょっと疑わしい目をするクイーカさん。


「きっと役に立つと思います」


カズーさんから色々なものをもらったけど、どれも本当に役に立っている。

まるで見通しているみたいに。


「その人が欲しいものではなくて、必要なものを用意するのが本当の商人じゃからな」


「それならカズーさんは一流の承認ですね」


「わたしはあまり好きじゃないですけどねっ!」


そんな風に会話しているうちに街を出る。

いい天気。馬が歩く音も心地良い気がした。


「魔物が出たらどうするんですか?」


「それなら心配ないわよ。用心棒が前に座ってるから」


「魔物退治に行くのに用心棒がいるってのも変な話ですけどねぇ」


「目的地に着く前に魔力や体力を使い果たしたらそれこそ話しにならんじゃろう」


ニャルティさんの言葉になるほどって思った。

戦えるから戦う。じゃ駄目なんだと。


「でも戦いを人任せにするってのもなんだかもやもやするわ」


「お主こそ魔力を温存するべきじゃろうが」


「それは……そうなんだけど……」


不満そうにぷくっと頬を膨らます。


「こうやって休んでいるのも仕事のうちじゃ。眠いなら寝とけ。戦いが始まったら言い訳はできんぞ」


「それもそうね」


言いながらごろんと寝っ転がる。

ぼくも体の力を抜こうと思った。


「でも本当にいい天気ですねぇ。これがピクニックだったらよかったのに……」


「本当にそうですね」


「クエストが終わったらあとは本当のピクニックじゃ」


「そう考えると頑張ろう!って思えますねっ!」


張り切るようにクイーカさんは言った。

ぼくはぼんやりと空を見た。

空もぼんやりとした表情を見せてくれた。

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