幽霊の正体はっ!
がちゃりと扉が開いた。
その音でぼくは目を覚ます。
今は何時か分からないけれど、真夜中なのは分かる。
なんなんだろう。
そう思いながらぼくは開いた扉の方を見た。
「……あっ、こんばんはっす」
そこにはぼろぼろの服を着た少女がいた。
身長はぼくと同じぐらい。
黒っぽい耳が頭についている。
ぱっと見たらコスプレみたいだけど、でもこの世界ではコスプレじゃない可能性が高い。
「えっと……こんばんは……」
思わず挨拶を返してしまう。
「えっと……その……」
もじもじした感じの少女。
「あっ……あなたは誰っすか?」
ぼくもよく分からない状況に同じ感じになっていたと思う。
「ぼくは……きっ……きなこっていいます」
「そうでなんすね。ハープは……ハープっていうっす」
言いながらハープさんは扉を締めて中に入ってくる。
なぜだかは分からない……。
「ハープさんは……」
「あっ! できたらハープちゃんがいいっすねー」
「ハープちゃんは……」
「きなこちゃんはどうしてハープの部屋にいるんすか?」
「……ここぼくの部屋だから……」
「えっと……えっと……じゃあ」
言いながら近づいてくる。
「ここはハープときなこちゃんの2人の部屋ってこと?」
そしてハープちゃんはぼくのベッドの中に潜り込んでくる。
「なっ! 何してるんですかっ!」
びっくりしたっ!
あまりのナチュラルさにびっくり仰天だった!
「何してるってどういうことっすかね?」
首を固めけて不思議そうにするハープちゃん。
「ハープはお眠だから寝ようと思っただけっすけど」
「そっ……そうなですか……」
そこでぼくは思い出す。
この屋敷について。
「もしかしてハープにゃんって1年ぐらい前からここに住んでます?」
「そうっすね。ここってずっと前から誰も住んでないからハープが有効利用してるって感じっすねー」
「時々、掃除とかもしてるの?」
「住むところはきれいな方がに決まってるじゃないですか」
どうしようかって少し考えた。
逃がすのがいいのか、自首させるのがいいのか……。
「きなこちゃんもハープみたいに家がなくなったんすか?? だかからここに住み始めたとか?」
「ぼくはそういうわけじゃなくて……」
返事をしようとすると、
「きなこ、起きてるかのう」
扉の向こうからニャルティさんの声が聞こえ、がちゃりと扉が開いた、
「隠れててっ!」
「にゃっっ! あれって!」
ぼくは驚き顔のハープちゃんをベッドに押し入れた。
「どうかしたんですか?」
そして入ってくるニャルティさんに声をかける。
どうやらクイーカさんとコルネットさんも一緒のようだ。
「どうやら侵入者がいるみたじゃのう」
……ぼくは布団の中を見た。
真っ青な顔がそこにあった。
「やっぱり幽霊とかじゃなかったんだわっ!」
ちょっと怒ってる風のコルネットさん。
「あんなに怖がってたくせに……」
「クイーカ、うるさいわよっ! 侵入者にはアタシから正義の鉄拳をくらわしてやるんだからっ!」
「でも侵入者がいるってどうして分かったんですか?」
「気配じゃな。じゃが今は酔っておるからこの屋敷のどこかにいるとしか分からん」
ハープちゃんが布団の中でぶるぶる震えている。
あまり震えると布団が動いてバレルからじっとしてほしいと思った。
「妾の留守中に勝手に住み着きおって。ダニが……」
「なんか怖いですよ……」
本当にニャルティさんが怖く見えた。
でもニャルティさんはこの屋敷を大事にしているみたいだった。
だから気持ちは分からなくもなかった。
「見つけたらどうするんですか?」
「もちろん決まっておるじゃろう」
ニャルティさんが意地悪そうな顔を浮かべる。
「侵入者の首は撥ねるというのが妾の一族の掟じゃ」
「そっ……そうなんですね……」
「カカカッ。とりあえずまだ屋敷にいるようじゃから妾は隠れんぼでのするとしよう」
言いながら右手を伸ばす。
「氷の刀」
そして氷の刀を出した。
「それじゃ妾は行くが、お主はどうする」
「ぼくは……部屋にいます……」
「それがいいと思いますっ! 何かあると大変ですからねっ!」
クイーカさんはどうやらぼくのことが心配で来てくれたようだ。
「なんなら今日はわたしもずっとこの部屋にいていいですよっ!」
「だっ、大丈夫ですっ!」
布団の中のハープちゃんが小刻みに首を振っている。
この状況をクイーカさんに見られたら、ハープちゃんが侵入者じゃなくても危ないって思った。
「そんな遠慮しなくてもいいのにっ! ほらっ! 一緒に……」
「何もなかったんだから部屋に帰るわよ」
コルネットさんがクイーカさんの襟を持って運んでいく。
「そんなぁ……せっかくのチャンスが……」
ぼくは心の中でコルネットさんにお礼を言った。
そしてどうやらハープちゃんを探すのはニャルティさんだけというのも分かった。
逃げるのはそんなに難しくなさそうだ。
でも……。
ぼくは布団をのぞく。
真っ青な顔をしてぶるぶる震えているハープちゃんがいた。
「ハープ、首を撥ねられる……。ハープ、死ぬ……」
「だっ、大丈夫だよ」
たぶん。
「ニャルティさんはそんな人じゃないし」
たぶん。
「でっ、でも悪魔すっよね。ハープでも知ってるっす。まさかあの悪魔がこの家の持ち主だったなんて……」
「ニャルティさんはそんな悪魔じゃないから……」
「そんな悪魔って、どんな悪魔っすか!っ!」
「とりあえずベッドから出ようか」
「はい……っす……」
言いながらハープにゃんはベッドから出る。
ぼくもそれに続いた。
「ここでぐだぐだして朝になるより、逃げるならいまのうちに逃げたほうがいいと思う」
「ハープもそれがいいと思うっすね」
でも……。
とため息をつくハープちゃん。
「せっかく住めるところを見つけれたのに、またお外で過ごすことになるのが問題っすけど」
「えっと、家は?」
「言った気もするけど、もうないんすよね」
重大なことだけれど、口調はとても軽かった。
「んー。でも1年ぐらい雨風防げただけでもラッキーってことっすね」
とぼとぼと歩いて部屋を出ようとするハープちゃん。
「どっか住み込みで働けるところを探して、見つかるまではまた野宿するっす」
「えっと、ハープちゃん?」
「どうかしたかんすか。あっ、謝ってなかったっすね。勝手に住み着いてごめんなさいにゃん」
なぜかにゃん言葉。
言いながらぺこりと頭を下げる。
家がなくなり、路上で眠る生活。
そしてそんな中、誰も住んでいない屋敷を見つけた。
ぼくでもハープちゃんと同じ行動をとると思った。
「この屋敷広いし、部屋もたくさんあるんですよね」
「……それがどうかしたっすか?」
「だからぼくも一緒に行くからニャルティさんに謝ってお願いしない?」
「ここに住ませてくださいって?」
「うん」
それが一番いいと思った。
でもぼくたちがそれを実行しようとする前に。
「やっぱりここにいたんじゃのう」
扉が開いた。
「ニャルティさんっ!」
氷の刀を持ったままのニャルティさんがいた。
「ひっっっ!」
ハープちゃんが後ずさりをする。
ぼくは前に出てハープちゃんの前に立った。
「おっ、お願いがありますっ!」
「却下じゃな」
「まだ何も言ってないのにっ!」
「だいたい言おうとしてることは分かるぞ」
確かにそうだと思った。
「妾は侵入者に用があるのじゃ。首を撥ねるというな」
一歩、一歩ハープちゃんに近づいていく。
「ほれ、侵入者こっちに来い。意地汚くい侵入者。侵入者がこの妾に殺されることを光栄に思うが良い」
「ひっ! ごっ、ごめんなさい! 謝るっすからっ! 許してくださいっ!」
「カカカッ! 侵入者の命乞いほど聞いていて心地よいものはないぞ」
「そんなっ! ごめんなさいっ! ごめんなさいっす!」
ニャルティさんが氷の刀を首元に当てる。
ニャルティさんはやたら侵入者と連呼している。
侵入者の首を撥ねる。
それじゃもしハープちゃんが侵入者じゃなかったら?
「ニャルティさんっ!」
「んっ? どうしたんじゃ?」
「ハープちゃんはぼくが雇ったメイドですっ!」
ぼくは大きな声で言った。
「だから侵入者じゃないですっ!」
「ほう。お主はこの小娘をメイドと言うのか」
「そうですっ! 明日から来る予定だったんですが、気合を入れて早く着すぎたんです」
「それでは今までここに住んでたのは別の誰かだというのじゃな」
「そっ……そうです……」
「カカカっ」
嬉しそうな笑い声が聞こえた。
「消えろ」
ニャルティさんは氷の刀を消した。
「メイドならちゃんと働くんじゃぞ。働かなかったら叩き出すからのう」
「こっ、ここに……住んでいいの?」
「メイドの住むところも用意できないのは流石に恥じゃからな」
「あっ、ありがとうっ!」
ほっとしたような、嬉しいような表情。
「お主は本当にお人好しじゃのう」
意地悪そうな顔でニャルティさんは言った。
「……ニャルティさんほどじゃないですよ」
「それもそうか」
言ってまた笑うニャルティさん。
「部屋はコルネットの隣でいいじゃろう。妾は部屋に戻る。侵入者はいなかったからのう」
それだけ言い残してニャルティさんは部屋に戻った。
「ありがとうっす!」
「ちょっ!」
ハープちゃんが抱きついてくる。
思わず受け止める格好になってしまった。
「ハープ、生懸命に働くっすよ! ご主人様っ!」
そしてぼくはハープちゃんを部屋まで案内して、それから眠った。
…………
…………
…………
…………
「おはようございますっす! ご主人様っ!」
朝起きたら廊下をハープちゃんが掃除をしていた。
小さい体をいっぱいに使っている。
なんだか見ていて気持ちがいいって思った。
ご主人様と言われるのは変な感じがするけど……。
「どうかしたっすか?」
ぼくが見ていると不思議そうな顔をしてハープちゃんが言う。
今日も着ているのはぼろぼろの服。
さすがに女の子がずっと同じ服はだめだって思った。
「今日クエストとかないから服を買いに行きませんか?」
「本当っすか! やったーっ! 久しぶりの買い物っす」
飛び跳ねて喜ぶハープちゃん。
似合ってるものを買ってあげたいってぼくは思った。




