第39話 廃屋敷-2
結局、女性陣の強い希望によって、屋敷から少し離れた位置で野宿することになった。
困難な環境よりもお化けか。もう影響力のある人なら誰でもいいから、心霊現象に遭遇したらこれ以上ない幸せが訪れる、とかいうでたらめを流布してくれないだろうか。
そのせいで深夜の人気がない場所に盲信したバカが出没するようになったとしても、一貫してお化けの存在を信じていない俺にとっては関係のないことだ。
すぐそこの木の幹にもたれ掛かって寝ているひとつ、もといふたりの少女のほうを見ながらそんなことを考えていた。
今起きているのは、なにもしていない俺と、ときおり木の枝を焚き火の炎の中に放り込んでいるドランビィ。
眠れないわけではなく、山賊やら猛獣やらに襲われたときのために、眠りに就くタイミングをずらしているのだ。
「なあ、ライノ。暇だからお前の魔法も見してくれよ」
しばらく続いていた無言の時間を、ドランビィが図々しいひと言で破る。
「見てどうすんのさ」
「んー? ただの興味本位」
うーん。こればかりは断るにも断れない。
小休憩中、周囲に自分ら以外の人はいないと見るや否や、魔法の練習に勤しむフィンフィエと、それにときたま便乗していたエアリス。そんな彼女たちの行動を容認していた俺の味方をしてくれる断りの言葉なんて探すだけムダであろうから。
「――ほら」
俺は1本の「イバラ」をドランビィが手を伸ばせば触れられるところにまで伸ばした。
「おお、すんげえ」
語彙力の乏しい感想を述べるドランビィ。すると、すぐに彼は近くの倒木に立て掛けてあった自分の武器を手に取った。
「試しに斬ってみてもいいか?」
「え……ま、まあ、痛みが伴うわけじゃないから別にいいけど……」
剣を振るう者ってのは、なんでもかんでも斬ってみたくなるのがさがなのか……? まさか隙あらば魔法使い本体をも斬ってみたいと思っているんじゃないだろうな? やめてくれ。遺言を遺す暇もなく死んでしまうだけだから。
そんなことを考えている間に、俺の魔法はスパッと両断された。
「どうだった?」
「んーまあ、斬りやすかったよ」
「あっそ」
あいにく強度は売りじゃないんでね。
剣を置き、元のあぐらの姿勢に戻るドランビィ。
そういえば、俺も気になっていたことがあったな。
「あのさ、王都を追い出された本当の理由ってなんなんだ? 最初に訊いたときは明らかにごまかしてたよな?」
「ふ、いまさらそれを訊くのかよ」
「……訊くタイミングがなくて」
「ほんとか? 大して気になってないだけだろ?」
正解。
「言いたくないなら、質問を変えるけど」
「いや、全然。だって、そうなるように仕向けたのはオレ自身だからな」
「と、言うと?」
「あのとき地下水道で言ったように、オレは犯人がパイレンだと決め打ってはいたが、その反面証拠がなかった。そこで、オレは訓練中に、使用禁止を言い渡されていた剣技をわざと多用したり、『犯人を見た』と言うだけ言って、ほかのことはなにも教えないようにしたりして、周りからの反感を買いまくったんだ。まあ、元から嫌われてはいたけどな」
思い返せば、ラーディックロックの城門前で門兵がドランビィに「いくら注意されても言うことを聞かなかったのが悪い」と言っていた。さすがに今回は嘘じゃなさそうだな。
「使用禁止の剣技って、あの敵を前にして精神集中するあれか?」
「ああ、そうだ。山奥の小屋にこもっていたオレの祖父が教えてくれた秘技さ」
「へえー。で、あえて追い出されたことが事件とどう繋がるんだ?」
俺の問いに、ドランビィは大きくあくびをしてから答える。
「誘き出そうとしたんだよ。オレが王都を追い出された、かつ王都の周りをうろついてるっていう噂がパイレンの耳に届けば、あいつのほうから口封じに来てくれるだろうって狙いの下な」
「あー、じゃあ俺がそれを邪魔しちゃったのか」
「まあ確かに、せっかく色々考えたのに――ってのはあるが、でも結果的にはいい方向に転んだんだし、その辺はなんとも思ってねえよ」
ドランビィはそう言うと、組んでいた足をグッと伸ばした。
「ふぁああ。寝ねえけど、ケツいてえからちょっと横になるわ」
「わかった」
なんだかんだ、フィンフィエたちが就眠してから結構時間が経った気がする――――そろそろ行くか。
「ごめんドランビィ。少しのあいだ、ふたりのことを任せてもいいか?」
「ん、構わねえが……どっか行くのか?」
「うん。ちょっと気になることがあるから、あの屋敷の中をもう一度見てくる」
「……そうか。暗いから気をつけろよ」
「ああ」
真夜中。廃れた屋敷。ひとりぼっち。心霊現象。
正直、お化けの存在を信じている、いない関係なしに悪寒がする。
でも、行かないと。このやけに鬱陶しい胸騒ぎを落ち着かせるために――。




