表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/40

第35話 ラーディックロック-6


 王都から西に向かって歩きだしてからそう間もないうちに、ドランビィがピタッと足を止めた。


「どうした?」


 当然、俺は問う。ただ、ドランビィは俺には目もくれず、眉間にシワを寄せて突っ立っていた。

 

「可能性としては十分……」


 なにやら重要そうな考え事をしているみたいなので、仕方なく俺は彼の再始動をじっと待つ――。

 やがて、苦に感じるほどでもない時間が経過したのち、ドランビィは口を開いた。


「ライノ、行ってみたいところがある」

「それは、犯人が隠れていそうな場所ってこと?」

「ああ」

 

 彼には彼の事情がきっとある。犯人には犯人の魂胆が必ずある。俺には俺の思わくがある。

 それぞれが交わるとは限らないけれど、交わる可能性を自分の手で摘み取りたくはない。


「わかった、ついていくよ」


 そう言うと、ドランビィは体の向きを少し変え、地道な捜査を再開した。


 無造作に生い茂った雑草とゴツゴツとした石。変更された進行方向にはそれらがあって、思うようには進めない。


 飛び出してきた黒い虫を()けて左足1歩。ごくごく小さな弱音を心の中で吐いて右足1歩。

 道なき道は知的生命体ほど苦しむ嫌いがある。ある意味、自然を我が物顔で侵略している報いだ。


 そんなこんな考えながら30歩ほど歩き、先導するドランビィが再び停止したのを見て、俺も動きを止める。


 すぐ目の前にあるのは、あまり綺麗(きれい)ではない水が流れている小川。けれど、彼の視線は川面に浮かんでいる廃棄物になんかではなく、右斜め前方の土と草に埋もれるように囲まれた鉄の扉に注がれていた。


「あそこだ」


 なるほど。人目につかない謎の扉。まだ入り口だけとはいえ、いかにもって感じだ。


「あの扉の先にはなにがあるんだ?」

「地下水道だ。ここから王都まで(つな)がってる」

「へえー。ん、でも、錠前がついてないか?」

「あー問題ねえよ。あの感じじゃあ壊れたまんまだろうから――――ほらな」


 おそらくは不届者を通さないようにするために取りつけられた(さび)だらけの錠前は、どうやらすでにその生涯を終えていたようで、ドランビィが軽く揺すると(うそ)みたいにポロッと取れてしまった。


 ここから街に繋がっているというのに、あまりに杜撰(ずさん)な警備だ。まあ、俺の知ったことではないが。


「すぐに階段があるから気をつけろよ」

「わかった」


 ドランビィからの注意喚起をしかと受け止め、(ほの)暗い地下空間を前に、俺は足をそろりそろりと動かした。


 ⭐︎


 地下水道。足を踏み入れた経験はないが、イメージはなんとなくできる。暗くてジメジメしていて、悪臭が漂っているような場所。


 実際、さほど長くない階段を下り切った俺は率直に思った。まったくもって想像どおりであったと。

 

 とはいえ、そんな障害の多い地下であるのにもかかわらず、松明(たいまつ)なしでも進めているのは、上の方から太陽の光がところどころ差し込んできているおかげだ。

 まあ、あれらが意図的な構造なのかどうかに関しては、門外漢だから見てもわからないが。


「さっきさ、ここに入れることを前から知っていたような口振りだったけど……」


 変わらず前を歩くドランビィに俺は純粋な疑問をぶつける。


「気になるのか?」

「まあ……」

「ふ、大した話じゃねえよ。こっちのほうにまではめったに来ないが、もう少し奥に進むと、見回りの兵士がいてな、小さい頃は見つからずにどこまで進めるのかっていう遊びをしてたから知ってたってだけさ」

「な、なるほど」

 

 ずいぶんとやんちゃな遊びを……。


 いや、思い返せば、俺も似たような少年期を過ごしていた(おぼ)えがある。王都と辺境の村という差はあるものの、入ってはいけない、ないしは入ってはいけなそうな場所ほどわくわくしてしまうのが少年の常なのだ。


 この場が薄気味悪くて落ち着かないがゆえに始めた雑談はそれから少し続き、そして、俺が3つ目の話題を切り出そうとしたそのとき、ドランビィはすっとこちらに振り返り、口元に指を立てたジェスチャーを見せてきた。


 彼の背後にはまた扉がある。先ほどの侵入口と同じ鉄の扉だが、見た感じ侵入者を阻むようなものはない。


「いるとしたらここだ」


 ドランビィの小声。


「行こう。心の準備はできてる」


 同じく小声で俺がそう返すと、ドランビィは小さく(うなず)いたのち、扉をこれ以上ないほどゆっくりと開けた。


 ――まず、俺は叫んだ。いや、叫んでしまった。


「フィンフィエっ!!」


 壁掛け松明の光だけがある空虚な小空間。その角に、椅子に(ひも)で縛りつけられたフィンフィエがいた。


 すぐさま駆け寄る。「犯人が近くにいるかも……」とほざく冷静な自分の足を途中踏んで。


 フィンフィエの口に巻かれた布を取り除いてから、彼女の状態を確認する――よかった、これといった傷は見受けられない。


「助けに来てくれてありがとう」

「今、紐をほどくね」

「うん」


 受け答えもしっかりしている。精神面も大丈夫そうだ。


 こうしてフィンフィエが無事なら、連続殺人事件なんてもうどうでもいい。さっさと対岸に戻ろう。


 後方から響いた扉の開閉音。


「パイレン……」


 ドランビィがそう(つぶや)いた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ