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第22話 ポポゼア-5


 イファナの目撃情報を教える代わりにウチを旅に同行させてほしい。そんなふたつ返事では()めない交換条件を出されたので、いったん保留にして今日は休むことにした。


 外はいつの間にか真っ暗。


 先ほどの部屋はフィンフィエとエアリスが使い、俺はその隣の部屋でひとり寂しく就寝。


 まあ、女ふたりが並んで寝るベッドにお邪魔するわけにもいかないし、当然といえば当然か。


 部屋の大きさに関してはまったくの同じ。相違点かつ難点は、一切の清掃が施されていないことだ。俺は渋々ホコリまみれのベッドを見下ろす。


 …………うん、硬い地面の上に寝るよりかはマシだ。


 一応、気休め程度に窓は開ける。夜風が冷たいが、耐えられないほどではない。もし耐えられなくなったら、閉めればいい。


 俺はさっさと横になり、目を(つぶ)る。すると、隣の部屋の話し声が耳に流れ込んできた。


「――――――の?」

「それはっ! ――――」

「あっははははは、かわいーいー」

「もおおおっ!」


 うるさいな……早く寝ろよ。


 ⭐︎


 翌日。廃屋と廃屋のあいだの狭い路地。


「ほら、あそこだよ」


 小声のエアリスが指で指し示したのは、宿屋らしき看板のついた、そこそこ大きな建物。


 俺は早朝、エアリスに告げた。旅には連れていけないと。ただ、その代わりに盗まれた物を取り返す手助けはしてあげると。

 

 エアリスは数秒考えたのち、意外にもあっさりと(うなず)いた。彼女の性格からして、そう簡単に折れるとはとても思えないのだけれど。


 なんだかまた割を食う予感がする――。


「エアちゃん、あそこに盗まれた物があるの?」


 フィンフィエが訊く。ひと晩でずいぶんと仲よくなったごようすで。


「全部じゃないよ。あいつら、盗んだ物を何ヶ所かに分けて保管してるみたいだから」


 へえ、意外と賢いな……。


「ふーん。迷わずここに来たってことは、エアちゃんはその保管場所をあらかた把握してるってこと?」

「まあね。でもここを知ったのは昨日だよ。ほら、ウチと追い掛けっこしてたデカブツがいたでしょ。そいつ、なぜか保管場所が記された紙をずっと握り締めてたんだよねー」


 アホすぎるな……。


「それで、どうするの? きっと中には見張り役がいるはずだよね」


 エアリスがニヤリと口角を上げる。


「まあまあ、ここで見ててよ」


 そう言うと、エアリスは堂々と正面から敵地へ向かっていった。

 フィンフィエが浮かない顔でこちらを見てくる。


「本当にひとりで大丈夫かな……?」

「んー、まあ本人が『見てて』って言うくらいだし、大丈夫なんじゃない?」


 あの対象の位置を変更できるとかいう魔法だってあるわけだし。


 それに、魔法によっては、群れる行為がかえって逆効果となってしまう場合がある。俺の魔法がまさにそれだ。

 もう久しく「イバラ」を爆発させていない。


 納得がいっていないようすのフィンフィエを見て、仕方なく、もうひと押し試みる。


「じゃあ、エアリスの悲鳴かなにかが聞こえたら、すぐ助けに行けるように準備しとこ?」

「あ、うんっ。そうだね!」


 破顔一笑。さも自信ありげに答えるフィンフィエ。でも、きっと戦うのは基本俺。

 

 仮に肉弾戦になったら、九分九厘こてんぱんにされてしまうので、屋内での戦闘はできるだけ避けたいのだけれど。


 それから少しのあいだ、殴るのと蹴るのではどちらが相手を無力化しやすいのか、なんてことをぼんやりと考えていたら、頭から煙が出た。無論、エアリスが侵入した廃屋から。


 あそこは盗品の隠し場所で合っていて、中にはやはり見張り役がいて、エアリスは案の定魔法で制圧を図った。そういうことなのだろう。


 廃屋の穴という穴から煙が漏れ出てから間もなく、エアリスが入り口から出てきた。


「おーい! もういいよー!」


 ほっとひと安心。フィンフィエが俺よりも早く駆け寄っていく。


「大丈夫だった!? ケガとかしてない?」

「うーん、頭、ぶつけたかも。だから、ぎゅってして?」


 即、エアリスを抱擁するフィンフィエ。

 いやいや、頭関係ないだろ……。

 

 ふと、エアリスと目が合う。


「ジロジロ見んな」

「……ガキが」

 

 口をついて出た侮辱の言葉。ただ、彼女の引き金は思ったよりも軽かった。


 俺の体は一瞬にして煙に包まれ、ふわっとした浮遊感に驚くや否や、背中から地面に叩きつけられた。


「くはっ!」

 

 痛い。感覚的にはベッドからうっかり落ちてしまったときと似ている。


「あ、ちょっと! ダメっ」


 フィンフィエによる生ぬるい叱責。もっと言ってやってくれよ。


「えーだってー」

「だってじゃないでしょ。ほら、早くライノのこと起こしてあげて」

「はーーい」

 

 わざとらしい笑顔をつくったエアリスが手を差し伸べてくる。


「お兄さーん、大丈夫ですかー?」


 ……おっ、ここなんかぬかるんでるな…………よし。


 俺は自分の手が汚れることなんざ顧みず、こっそりと湿った土を握り集めた。


 そして、握手は固く。


「ぎゃああああ!! きったねーっ!」

「エアちゃんっ!」

「ち、違うよー! わざとウチの手を汚してきたんだもん!」


 俺は子どもの(わめ)きをよそに、自力ですっと立ち上がる。


「さて、とっとと盗まれた物を回収しようか」


 呼び掛け口調でそう言ったものの、ひとり先行して廃屋の中へと向かう。背後の雑音は気にしない。


 踏み入ってまず気になったのは、部屋の隅に置いてある大きな木箱のようす。あれが新種の生き物とかではない限り、人が頭から刺さっていると見ていいだろう。しかも複数人。


「おい、ムダにじたばたすんなよ」

「俺じゃねえよアホ」

「あー、頭に血が……」

「ふーふー、登ってくんな虫ぃ」


 どう考えてもエアリスの仕業だ。


「ふふーん、なかなかに芸術的でしょ?」


 気づけば横に立っていた加害者がそう言う。

 すると――


「あ、おいっ、くそガキー!」

「てめえよお、捕まえたらぜってえボコボコにしてやっからなー!」

「……早く……出して」

「うえ、口に入った、ぺえっぺえっ」


 おやおや、ずいぶんとお(しゃべ)りな木箱だこと。


「もーうるさいなー。次騒いだら、水流し込むからねー!」


 そのエアリスのひと言で、ピタッと静かになる。どうやら聞き分けはいいみたいだ。

 俺は室内を見回したのち、エアリスに尋ねる。


「物は2階?」

「だと思う。よし、ウチがささっと(あさ)ってくるから、フィンねえたちはあいつらを見張っててー!」


 勝手に役割を決められ、取り残される俺とフィンフィエ。


「なんか、私たち必要なかったね」

「まあでも、殴り合いになるよりかは全然いいでしょ」

「確かに。ライノが痛めつけられるところなんて見たくないもん」


 ん、なんでやられる前提?


「言っとくけど、その気になったら、フィンフィエが思ってるよりやれるから」

「えーほんとにー? 腕ぷにぷにだけどお?」


 なんの断りもなく、フィンフィエに右の二の腕を()まれる。


「今は力入れてないだけだし」

「ふふ、そっかそっか。あ、ねね、私もちょっと筋肉あるんだよ。触ってみて?」

「ほお、どれどれ」


 そこで視界が暗転した――。


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