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第15話 パネアドノ-2


「まずは宿の人に訊いてみよっか」

「うん」


 フィンフィエの提案を素直に受け入れ、早くも落ち着ける場所へと変わりつつある部屋から出る。


 すると、都合よくも、この宿屋を切り盛りしている40代くらいの女性がほうきを持って2階に上がってきていた。


 フィンフィエが先陣を切る。


「すみません、ちょっと訊きたいことがあるんですが……」

「あら、なにかしら?」

「実は私たち、ある女の子を捜してまして、金髪に赤い瞳で、身長は私の胸くらいの子なんですけど、見掛けたりしてませんか?」


 あ、そうか。フィンフィエは知らないんだ。


「うーん、どうだろうねえ……。この街の子かい?」

「いえ、違います」


 フィンフィエとの齟齬(そご)によって聞き込みが徒労になってしまう前に、俺は彼女の横にすっと並んだ。


「瞳の色と身長は同じで、髪の色だけ白い場合はどうですか?」

「え?」

 

 案の定、すぐ隣から疑問の声を掛けられるが、いったん無視する。


「白? それなら確信を持って見てないと言えるわ。だってそんな珍しい見た目をしているのなら、嫌でも記憶に残るもの」

「そうですか。お手間を取らせてしまいすみませんでした」


 軽く会釈をしながらそう言ったあと、すかさず俺はフィンフィエに向けて「とりあえず黙ってついてきて」という意を込めた目配せをする。


 そして、1階に下りたタイミングでフィンフィエが口を開いた。


「なんで白なの?」

「えっと、俺もよくわかってないんだけど、気を失う寸前、イファナの髪色が金から白に変わる瞬間を見たんだよ」

「へえ……それもライノが言う不思議な力の影響なのかな……?」

「そうかもね」


 おそらくイファナの胸に突き刺さった謎の(いかり)が関係しているのだろうが、あれがいったいなんなのかはまったく見当がつかない。


「どうするライノ。この街って広いし、聞き込みは手分けしてやる?」

「あー……いや、フィンフィエひとりだと心配だから一緒にやろう」

「ふふ、過保護だねえ。まあいいけどっ」


 フィンフィエはそう言うと、くるりと向きを変え、後ろで手を組みながら最初の2、3歩をウサギのように跳ねて歩き、そのまま宿屋から出ていってしまった。


 実のところ、不思議な力、すなわち魔法が発現して間もないから、という意味合いのほうが強かったのだけれど……あのようすだと絶対に伝わっていないだろうな。


 ⭐︎


 パネアドノに着いてから3日が経った。


 イファナに関する情報を求めて始めた聞き込みは、交易港や酒場といった情報収集にうってつけの場所のみならず、路地裏や孤児院、さらには同じ場所を何度も行ったり来たりしていた怪しい老人をも対象に行ったが、その甲斐(かい)(むな)しく収穫はなかった。


 オーバストールから一番近い都市とあってそこそこの期待を抱いていたのだが、さすがにそんな甘くはなかったようだ。


 イファナの手掛かりがないとなると、次なる目的地がなかなかに決めづらくなる。


 彼女の軌跡とまったく逆の方向に進んでしまっていたらどうしよう。実はただオーバストールのどこかに隠れているだけだったらどうしよう。

 まだまだ前向き思考には程遠い。


 シャムルおばさんが遺してくれた「魔女の目的は王都ラーディックロックにマヴィルギーを集めること」という道標(みちしるべ)があるものの、その前にある、およそ50年の空白が俺の意志決定を鈍らせる。


 いっそのこと、あまり深く考えずに王都を目指してみるのもありかもしれない。


 少なくとも俺は、世の感覚派が得てして失敗ばかりであると感じたことはないのだから。


 ――よし、ラーディックロックに行ってみよう。


 なんとか今後の方針が決まり、ベッドに腰掛けて「うーん」と(うな)りながら黒い石に熱視線を送っているフィンフィエに声を掛ける。


「はあ……やりすぎは禁物だからね」

「わかってるよー遊んでるみたいに言わないで。この不思議な現象を少しでも解明しようとしてるんだからさ……あ! ねえ見て! ちょっとだけ形を変えられるようになったよ」


 フィンフィエの手元で円盤状に広がった黒い物体の正体は、本人(いわ)く黒曜石とのこと。

 俺は加工品含め石などにはまったく明るくなかったので、その彼女の観察結果を鵜呑(うの)みにせざるを得なかった。


 フィンフィエの魔法がいったいどのような性質を持つのかは、まだわからない。


 パッと見た感じ、自在に形や大きさを変えられるだけでなく、手を添えてさえいれば空中に浮かせることだってできるみたいだ。


 思えば、俺も魔法が使えると知って間もない頃は、「イバラ」を意味もなく生み出してはすぐ消したり、仰向けに寝た状態から天井に「イバラ」を伸ばして、届くかどうかを試したりして遊んだ(おぼ)えがある。


 きっと今のフィンフィエはそのときの俺と同じで、魔法という存在に好奇心がかき立てられて仕方ないのだろう。


 ならば、しようがない。ふたりきりのときぐらいは彼女の好きにさせてあげよう。

 

「それよりフィンフィエ。明日か明後日にはこの街を出ようと思ってるんだけど、いい?」

「まあ、そうなるよねー。イファナちゃんに関係してそうな情報はなーんにもなかったわけだし。あ、そうだ。その前にひとつ買いたい物がある」

「ん、なに?」

「えーっと……」


 黒曜石をふっと消し、眉間にシワを寄せるフィンフィエ。


「もしかして、あんまり訊いちゃダメなやつ……?」

「ああ、ううん。そうじゃないの。たぶんだけど、今ある路銀の半分くらいを使っちゃうことになると思うから……」

「え……ひとまずなにが欲しいのか言ってみてよ」

「……地図、なんだけど……」


 なるほど、それは盲点だった。


「いや、絶対に必要になる物だし、迷わず買おう。あと、ナイフも1本欲しいかな」

「あー確かに。家から持ってくればよかったね」


 オーバストールを出るときの俺がもう少し冷静だったら、といまさらどうしようもないことを思う。


「ナイフは……一番安いやつにするか」

「それはダメ。すぐ壊れてまた買う羽目になるでしょ。惜しまずちゃんとしたやつにしよ」

「……はい……」


 イファナ云々(うんぬん)よりも先に、フィンフィエがときにはお腹いっぱい食べられるくらいの路銀を確保せねば。

 

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