第八話
翌日、起きるといつもよりたっぷりと睡眠をとったことで目覚めが良くて頭がすっきりしている。
いつもは少し鬱陶しく感じる窓からのカーテン越しの太陽光も気分のいい目覚めを後押ししてくれていると思うくらい調子が良い。やっぱり睡眠は大事だな。
「ん~~~! はぁっ」
ベッドから出て立ち上がって思いっきり伸びをする。
全身に血が巡っていくのを感じながら一度ベッドに座って枕元に置いてあるスマホで時間を確認する。もうお姉は起きてるかな?
今日は朝から運動しようという話を昨日の夜にしたけど、別にちゃんと時間を決めていたわけではないので起きているか微妙な時間だ。
どちらにせよとりあえずリビングに行ってみようと部屋を出てお姉の部屋のドアをチラッと見る。起きてるならリビングに居るだろうし、起きてないならまだ寝かせてあげようと思って声を掛けることはせずに階段を下りてリビングに向かう。
リビングのドアを開けると、人の気配は感じられずまだお姉は起きてきていないことが分かる。
ソファに座って少しの間ぼーっとして、この後運動するなら身体を少しでも温めておこうと思い、あったかいお茶を淹れるためにお湯を沸かす。
マグカップに沸かしたお湯とほうじ茶のティーバッグを入れてしばらく置いておく。
冷ましている間、スマホで何か面白そうなニュースがないか見ていると背後からリビングのドアの開く音が聞こえる。
そちらを見るとまだ眠そうにしているお姉と足元についてきていたクロノとクロエが一緒に入ってきた。昨日あのままお姉の部屋に居たままだったらしい。
「おはよう......」
「おはよーお姉。まだ起きたばっか?」
「うん。さんぷんくらいまえに......」
「ホント寝起きだね。お湯沸かしてあるけどあったかいもの飲む?」
「のみたい。わかばとおなじの......」
「おっけー。クロクロもおはよう」
ソファに乗ってきたり部屋の隅のキャットタワーに登ったりして自由にしている猫ちゃん達にも挨拶してからまだ眠そうにしているお姉にさっき沸かしたお湯を使ってわたしと同じくほうじ茶を用意してあげる。
わたしもお姉も猫舌なので再び沸騰させる必要はないからそのまま注いでテーブルに置く。
「はいどうぞ。沸かしてから時間経ったけどまだ熱いかもしれないから気をつけてね」
「ん、ありがと」
まだ少しポヤポヤとしながらマグカップをふーふーして冷ましながらちょっとずつ飲んでいる。かわいい。
「ふぅ。ちょっとずつ目が覚めてきたかも」
「急ぐ必要もないし、身体も起きるまでもう少しゆっくりしてよっか」
「そうさせてもらおうかな」
お姉の隣に座って、放置して飲みやすいくらいになっている自分のお茶を身体の中に流し込むと身体がほんのり暖かくなっていくのを感じる。
半分ほど飲んでテーブルにカップを置く。
「環樺はいつ起きたの?」
熱で手を温めているのか、胸の前あたりで両手でマグカップを握りしめながら聞いてくる。
「お姉が起きてくる二十分位前に目が覚めたかな。いつもよりすっきりして起きれたから、すぐにリビングに下りてきてこうしてお茶してたの」
「そっか。それじゃあ沢山寝れたってこと?」
「お姉がメッセージ送ってきた時にちゃんと寝たからね」
「どうせスマホいじってたんでしょ。返事はなかったけど」
お姉が持っていたマグカップをテーブルに置いてわたしの頬をつつく。触れられたところから温かい感覚が伝わってくる。
「メッセージ送ってきたってことはお姉も起きてたんじゃん」
「私は環樺がどうせそうなると思ったからちょっと起きてたの。メッセージ送ってすぐ寝たもん」
「むぅ......」
確かにあそこでお姉からのメッセージが飛んでこなかったらいつものように動画を見たりなんなりで、ずるずると時間が経過していって睡眠時間が短くなっていただろうという事は容易に想像できてしまう。
でもこれだけ言い返せるなら完全に目が覚めたということだろう。話を切るために残っていたほうじ茶を一気に飲み干して勢いよく立ち上がる。
「ほらお姉、もう目は覚めたでしょ。そろそろ準備しよ!」
「え、あ、ちょっと待って!」
お姉の声を背中に受けながらキッチンに行って使ったものを洗い、お茶を飲み終わって片付けようと立ち上がったお姉とすれ違って洗面所へと移動する。
一分くらい経って、軽く水で顔を洗ってから歯を磨き始めようとしたところでお姉も洗面所へ入ってきて同じように軽く顔を洗って鏡の前で隣に並び合って歯磨きをする。
「よし。じゃ、先に着替えてくるね!」
「んー」
歯を磨き終わってうがいをした後、歯磨きを続けているお姉に声を掛けて着替える為に部屋へと向かった。
「お待たせ。それで、今日は何するの?」
数分後、寝間着から運動しやすい格好に着替えて先にリビングでソファに座って待っているとすぐにお姉も着替えてきてリビングで合流した。
二人とも学校指定のジャージではなく、フード付きの長袖長ズボンのスポーツウェアに身を包んでいた。ウチは家族でアウトドアに出掛ける機会も結構あるのでこういった衣服を何着か持っているが、今日はお揃いのウェアだった。
「まぁ、久しぶりに外で運動するんだし、初日はランニングにしようかなって」
「他に何も準備もしてないしね」
今まで習慣にはしていないけど二人とも運動することは好きなので、たまに運動公園に運動しに行ったりという事はしていてサッカーボールやテニスラケットなどいくつかのアイテムは家にあるが今回はまず無難に走ることから始めようと思った。
今回のこの思い付きがいつまで習慣として続くかはわからないけど。外に行かないにしても家の中で筋トレとかで身体を動かすなどの軽いものでも続けられたらいいなぁとは思っている。
「久しぶりに運動公園に行きたいからさ、まずはそこまで準備体操がてら散歩気分で歩いていって、そこからランニング始めようよ」
「いいけど、流石に歩きだと時間かかっちゃうだろうしそこまでは自転車で行ったらいいんじゃない?」
「あ~それでいいか。じゃあそうしよ!」
この後どうするか予定が決まったので立ち上がって玄関へと向かう。
「ほいお姉、タオル」
「ありがと」
リビングを出るタイミングでお姉にタオルを手渡す。
我が家ではタオル類は洗面所にまとめて置いてあるので先に着替え終わって下りてきた時に持ってきておいたものだ。
「あれ?」
準備ができてあとは行くだけなので靴を履き始めたところでこちらを見てお姉の動きが止まった。
「どうしたのお姉? 忘れ物?」
「いや、私じゃなくて。環樺、自分の分のタオルは?」
「え? それだけど」
質問に対してお姉が持っているタオルを指さして答える。
するとお姉が少しだけ呆れたような表情をする。
「もう。外でタオルが一つしかない時なら仕方ないかもしれないけど、すぐそこにあるんだからちゃんと自分の分も用意しなさい」
「え~。荷物と洗い物は少ない方がいいでしょ」
「それはそうかもしれないけど、一応汗は不潔なものではあるんだから別々のものを使う方がいいでしょ」
「別にお姉のなら気にしないけど。お姉もわたしのタオル使うことあるじゃん?」
「だからそれは一つしかない場合にでしょ。いいからほら、ちゃんと持つ」
お姉が洗面所からわたしの分のタオルを持ってきてこちらに向かって軽く投げてくるのでそれを両手でキャッチする。
昔、小学生の頃とかはこういったことは全然気にしてなかった気がするけど、年齢を重ねるにつれてこういうのを言われることも多くなってきている気がする。でも考えてみるといたって当たり前な事のような気もするし、納得して立ち上がって鍵を開けて玄関のドアを開けた。
「じゃ、いこっかお姉!」
「あんまりスピード出しすぎないようにね」
「分かってるってばー!」
短い距離だと歩きが多く、遠いと電車を使うことがほとんどでそれほど使う機会も多くない自転車に跨ってペダルをこぎ始める。
お姉が後ろについてきているのを確認しつつ運動公園に向けて出発した。




